現3歳世代の最強馬はクロワデュノール(牡3歳)――GI皐月賞(4月20日/中山・芝2000m)を前にして、競馬ファンの大半はそう思っていたに違いない。単勝1.5倍というずば抜けた人気がそのことを物語っている。

 だが、結果は2着。しかも、勝ったミュージアムマイル(牡3歳)に1馬身半もの差をつけられた。加えて言えば、3着マスカレードボール(牡3歳)にもクビ差まで迫られており、やっとのことで死守した2着だった。

 おかげで、レース後にはクロワデュノールに対する批判めいた声が飛び交った。「これで世代最強と言えるのか」「一強だと思っていたが、そんなに強くなかった」......と。

 はたして、クロワデュノールは本当に「強くなかった」のか。

 春のクラシックの大一番となるGI日本ダービー(6月1日/東京・芝2400m)においても、その行方を占ううえで最大のポイントとなるのは、そこだ。

 クロワデュノールは「世代最強」「1強」と称されるにふさわしい存在なのか。それだけの信頼を置ける馬なのか。

 関西の競馬専門紙記者はこう語る。

「皐月賞は、自分から勝ちにいって勝てなかっただけのこと。その意味では、クロワデュノールが一番強い競馬をしたことは間違いありません。

いわゆる"負けて強し"です。あの一戦で評価を落とす必要はないでしょう」

 今年の皐月賞は、とにかく時計が速かった。勝ち時計は1分57秒0。昨年の勝ち馬ジャスティンミラノは、従来のレースレコードをコンマ7秒も短縮して「驚異的」と言われたが、今年はそのタイムよりさらにコンマ1秒速かったのだ。

 前半からレースが流れたことに加え、向正面に入るとファウストラーゼン(牡3歳)がこれまでと同じく一気に進出していく。それにつられて、何頭かが反応したことによって、レースが落ちつくことはなかった。

 その激流のなか、クロワデュノールは最初から好位の4番手につけ、3角あたりから早くも進出。直線入り口で先頭に並びかけていった。レコードが出るような過酷なペースにあって、自ら積極的に動いて押しきりを図ったのだ。

 結果論ではあるものの、この積極策は「早仕掛け」と批判されても仕方がないものだった。先の専門紙記者が言う。

「確かに『早仕掛け』という批判は免れない乗り方でした。

ただそれは、騎手の焦りとか動揺を表わすものではなく、むしろ馬への騎手の信頼を示すものでした。つまり、鞍上の北村友一騎手は『それでも勝てる』と思っていた、ということです」

 しかしながら、そんな馬への信頼にはわずかな誤算があった。このレースの流れにうまくハマった馬がいたことだ。特異な流れにも惑わされることなく、中団でじっくりと脚をタメていたミュージアムマイルだ。

「皐月賞を勝った馬とクロワデュノールとの差は、道中うまく運んでこの特殊なレースにハマったかどうかの差。決して力の差を示すものではありません。ですから、ダービーでは当然、逆転可能と見ています」(専門紙記者)

 ペースが速く、よどみのない流れのなかにあって、自らが積極的に動いて勝ちにいけば、さすがに最後はタレるもの。だが、クロワデュノールは「それでも勝てる」と騎手からの絶大の信頼を得ていた。そもそもの能力はそれほど高いのだ。

 ある種、無謀とも言える競馬であっても、結局は2着を確保している。それこそ、この馬の底知れない強さを証明しているのではないか。

 要するに、皐月賞で負けたとはいえ、クロワデュノールは「そんなに強くなかった」ではなく、やっぱり「強かった」のだ。

 折り合いに不安がないのが、クロワデュノールの最大の長所。ダービーの2400mにも何ら不安はない。なおかつ、東京コースはこれまで2戦2勝と得意の舞台。馬体重24kg増と余裕を持たせた状態にあって、GII東京スポーツ杯2歳S(11月16日/東京・芝1800m)を着差以上の強さで制したことは、今なお記憶に新しい。

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 さらに、ダービーへ向けてのクロワデュノールの状態について、専門紙記者がこんな情報を伝える。

「皐月賞前に帰厩したときは、なかなか状態が上がってこなかったのですが、レースが近づくにつれて徐々に上昇。レース直前では『無茶苦茶いい!』と思っていました。

 でも、今のクロワデュノールを見ると、あのときはそれほどでもなかったのかな、と。それぐらい、今のクロワデュノールは出来がいい。同馬にはまだ奥が、一段上の状態があったようです」

 過去10年のダービーの結果を振り返ってみると、ちょうど半数となる5頭が皐月賞の敗戦から巻き返して戴冠を遂げている。まさに、敗に因りて功をなす――。

 主戦の北村騎手も、ダービーでは「どう乗っても勝てる」といった乗り方はしないはずである。

馬の力を信じつつも、そこにもはや慢心はない。

 今度こそ「世代最強」の力を示すのか。競馬界最高峰の舞台で疾走する、クロワデュノールの雄姿に注目である。

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