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石井寛子×角田夏実 スペシャル対談 後編

 ガールズグランプリ2024覇者の石井寛子と、柔道のパリ五輪金メダリスト角田夏実のスペシャル対談後編では、ふたりの恋愛や結婚、出産の考え方、それぞれの競技の楽しみ方について語り合った。

スペシャル対談 前編はこちらから>> 『ふたりの女王が意気投合 試合前のルーティン、「願いを叶えてくれた」アイテムとは』

【ともに31歳11カ月で頂点に】

――石井寛子さんは2017年、31歳のときにガールズグランプリで初優勝して頂点に立ちました。角田選手も31歳で出場したパリ五輪で優勝して頂点に立ちました。

おふたりともすぐに32歳の誕生日を迎えましたので、31歳11カ月での戴冠と年齢的にもほぼ同じ時期に最大の目標を達成したことになります。まずは頂点に立ったときのお気持ちはいかがでしたか。

石井 私はガールズグランプリ5回目の挑戦でしたので、優勝したときには泣き崩れる感じでしたね。ゴールした瞬間は競り合っていたので勝ったかどうかわからなかったんですが、「1着、石井寛子」という表示が出て、その場で感情があふれちゃいました。とにかく応援してくれる方々に、お待たせしました、という気持ちがありました。

角田 やっぱり応援してくれた人に向ける感情のほうが大きかったですね。私はうれしいというよりも、役目は終わったみたいな、よかったという安堵感が強くて、これで日本に帰れると(笑)。

石井 代表の方たちのプレッシャーってすごいですよね。涙は出たんですか。

角田 優勝が決まったときにはあまり実感がなくて、本当にこれで終わりかなくらいの感じだったんですけど、畳から降りたら私より先にコーチが号泣していて、それを見て私も泣けてきました。表彰式のときに、やってきてよかったなと思って感情が出てきましたね。

角田夏実、引退や結婚・出産に揺れる胸の内 80歳現役を目指す石井寛子は競技への思いや恋愛事情を明かす
ガールズグランプリ2024で二度目の優勝を果たした石井 photo by Takahashi Manabu

角田夏実、引退や結婚・出産に揺れる胸の内 80歳現役を目指す石井寛子は競技への思いや恋愛事情を明かす
パリ五輪で金メダルを獲得した角田 photo by JMPA
――この30代前半は、技術やメンタル面でいうと、アスリートにとってはとてもいい時期なのかと思いますが、その感覚はありますでしょうか。

石井 私は80歳までやりたいんですよ。だから長くなるであろうキャリアを考えたら、30代って本当に全然まだまだの話かなと思っています。経験を積んできて、31歳で優勝できたんですけど、それから7年後の昨年(2024年末)にまた優勝できました。まだ今も通過点に過ぎないという感覚です。

角田 その7年間で嫌になったりしたことはないんですか。

石井 それはないですね。

角田 すごい!

石井 私は高校から自転車競技を始めたんですが、当時はガールズケイリンがなくて、仕事として自転車競技を選択する道がほぼありませんでした。だからその当時、自転車競技をやっていた人たちは、ガールズケイリンができたことにとても感謝しています。そんな状況でしたから、嫌になるわけがないという感覚ですね。

角田 私の場合、柔道をやっていて、お腹いっぱいとなっちゃうことがありますね。もうこれ以上、強くなれないなとか、1回柔道から離れたいなとか、そういう感情になったりします。石井さんはずっと競輪の練習をしているんですか。

気分転換に違うスポーツをするとかは?

石井 ウエイトトレーニングにすることがあったり、自転車に乗らない日があったりしますが、競技から少し離れようという気持ちにはならないかな。

角田 私は1回ダメになると、1カ月ぐらいできなくなって、自転車旅とかに行ったりしますね。

石井 私もナショナルチームに所属していたことはありましたが、自転車競技のオリンピックの選手たちは結構ハードなトレーニングをしていましたね。選手たちと話をすると、すごく理解できましたし、いったん離れたくなる気持ちもわかりましたね。

【普及か、五輪か】

角田 石井さんは、結婚は考えるんですか。

石井 今、この生活をしていて、誰かが入る隙がまったくないんです。この生活は楽しいから今は興味がなくて、恋愛している暇がない。角田さんはずっと結婚願望があるんですよね。

角田 はい。子どもを産むことを考えるとリミットがあるのかなと思っています。

石井 今は40代の女性でも産んでいる方が多いので、私は全然まだ大丈夫だと思っています。40代で産んでいる方はお友達でいらっしゃいますか。

角田 いないですね。

みんな30代半ばくらいで産んでいます。柔道はみんな引退が早いんですよね。

――以前、柔道のオリンピックメダリストで今は主に指導する側にまわっている方に話を聞いたとき、「引退はしていないです」と答える方がいました。

角田 そうなんですよ。この間、井上康生さん(シドニー五輪金メダリスト、柔道日本代表前監督)に話を聞いたら、「柔道家に引退はない」と言っていました。

石井 面白い!

角田 だからは私もそれでいいのかなと思って。柔道家に引退はないんだから、なんで私は引退にこんなに悩んでいるんだろうと(笑)。私も第一線を下りるか下りないかで悩んでいるんですよね。普及側に回るか、このままロス(ロサンゼルスオリンピック)を目指して柔道だけを考えていくのか。そう考えるとどっちがいいのかなと思っちゃいます。

石井 でもロス(ロサンゼルスオリンピック)に行ったとしても、まだ若いと思いますよ。そのときは36歳ですよね。

まだ悩まなくていい気がします。

角田 でも今回31歳でパリ五輪に出場しましたけど、それでも柔道で金メダルを獲ったのは(日本女子柔道史上)最年長なんですよ。コンタクトスポーツなので、だんだん体がついていかなくなって、ケガが治りきらない状態でやっているほうが多いんです。本当に節々が痛くて(笑)。練習で学生の勢いに押されて、「いたたたー」ってなります(笑)。肩、ヒザ、腰、全部ですね。天気が悪いとめちゃくちゃ痛くなります。競輪も転んだりしたらケガをしますよね。

石井 転んだら骨折したりして大ケガになることもありますね。だから転ばないように走る。

角田 柔道も骨折するんです。骨折しても部位によっては試合に出場できるので、折れていても出たことはあります。

そのときは足の甲の骨を折って、全然足をつけなくて......。初めての世界選手権(2017年、銀メダル獲得)だったんですけど、大会まで2~3週間くらいあって、コーチと悩みながらも、ドクターに痛み止めの注射を打ってもらって、ぐるぐる巻きにして出ました。

石井 それで腕の力で。

角田 そう(笑)。上半身をケガしたら終わりなので、足だけだったからまだよかったです。普通に柔道をしているぶんには、体の使い方やケガをしづらくなる動き方を学ぶので、ケガの予防としてはいいんですけど、トップカテゴリーだと、体をかなり酷使することになりますね。

――石井選手はガールズケイリンの初期の頃から活躍してきて、ガールズケイリンを引っ張ってきた存在ですが、角田選手もオリンピックで金メダルを獲って、同じような立場なのかなと思いますが。

角田 そうですね。今までいろんな人たちに支えてもらったので、今度は助ける側にもなりたいなという思いもあります。現役トップじゃなくてもできることはいっぱいあるのかなと思います。

石井 両方やってほしいですよね。

角田 悩むのは、両方やろうとすると、中途半端になってしまうのかなということです。

今、いろんな子どもたちの道場を見に行きたいんですけど、それをしていると、試合や練習にかける時間が減ってしまう。勝てればいいんですけど、負けたときに、そういう活動をしていたからなのかなと思うのが嫌で行けていない。やっぱり大会に出るからには、本当に覚悟を決めて、勝ちたいという思いがあるので、難しいところなんですよ。

【注目される立場として】

――石井選手は人前に出るときにはしっかりとメイクをされる印象があります。やはり人から見られる職業として、そこはきっちりしたいという意識があるのでしょうか。

石井 競輪を広めるためにもきっちりしておきたいという意識でやっています。ガールズケイリンの歴史はそんなに長くはないですし、どんな人がいるのかなという目線で見られていると思っています。だから優勝したならなおさら、競輪場に来ていただいたお客さんに、選手としてふさわしい姿を見てもらえるようにしています。

――角田選手もさまざまなメディアへのご出演、YouTubeチャンネルでの配信もされています。競技の普及も意識されているかと思いますが、どのような思いで発信されているのでしょうか。

角田 同じような意味ですね。柔道だけに没頭してしまうと、女の子たちが柔道をやりたいと思わないのかなと思いますので、やりたいと思ってもらえるような立場、憧れてもらえるような立場になりたいなと思っています。

――多くの人たちに競技を知ってもらうために、これを見たら面白いというおすすめのレースや大会はありますか。

石井 先日終わってしまったんですが、4月末にGⅠのオールガールズクラシックという女子選手だけの開催がありました。普段は男子選手のレースの間に女子のレースが2つ入るんですが、このオールガールズクラシックは全12レース女子だけなんです。ファンは女子選手を見るために来てくれます。私も出場したんですが、その開催が終わった後に、いろんな方に、「本当に面白かった」と言っていただきました。

 その女子選手のレースが今年からもうひとつ増えて、8月(8~10日)にGⅠで女子オールスター競輪(※)という開催が新設されました。宇都宮競輪場でやりますので、角田さんもぜひ観に来てください。
※1日12レース中、初日・2日目に女子が10レース、3日目に女子が11レース組まれている

角田 行きたいです。柔道でおすすめだと、全日本選抜柔道体重別選手権大会ですね。これも4月にあったんですが、強化選手8人が戦って、6月に開催される世界選手権の代表選手が決まりました。

石井 世界選手権には何人行けるんですか。

角田 基本的には各階級ひとりだけです。男女とも7階級あるんですが、男子だと90kg級と66kg級、女子だと78kg級と52kg級には、二枠用意されています。でもオリンピックに出場できるのは各階級ひとりだけです。

石井 狭き門ですね。

角田 あとは私も出場したんですが、全日本柔道選手権大会といって、階級の区分がなく無差別のみで行なわれる大会があります。それも先日終わってしまったんですが、男子の大会では、これが一番盛り上がっている感じがしますね。

石井 全然体格が違う選手が戦う大会ですよね。一番大きな階級でも勝てなかったりするんですか。

角田 その大会はルールが少し違って、延長戦がなくて旗判定になるんですね。体が大きすぎてあまり動きがないと判定で負けちゃうから、素早く動けるくらいの体格でパワーもあって攻められると強かったりします。でも掴まれたらやっぱり大きいほうが強いので、そのへんの駆け引きが見ていて面白いです。

石井 楽しそう。

角田夏実、引退や結婚・出産に揺れる胸の内 80歳現役を目指す石井寛子は競技への思いや恋愛事情を明かす
笑顔で語り合った角田と石井 photo by Noto Sunao(a presto)

――最後に、ファンのみなさんに向けて、それぞれの競技の魅力とメッセージをお願いします。

石井 男子選手のレースを見て難しさを感じる人は、まず女子のレースを見るといいかもしれません。それぞれの選手に競走得点というのがあって、その得点の高さが強さの指標になりますので、その視点で見てもらうと面白いと思います。まずはみなさんに観に来てほしいですし、注目していただきたいですね。

角田 柔道は私が感じるくらい、結構ルールが変わるので、観ている方はとくに感じるんじゃないかと思います。でもルールをすべて覚えていなくても、戦っているふたりがどんな駆け引きをしているかという目線で見てもらえると面白いと思います。傍から見ていると、「今襟をつかんでいるんだから攻めればいいのに」と思うと思うんですけど、そこは罠をはっているから、今攻めたら相手の思うツボになっちゃうことがあります。

 投げるところだけじゃなくて、最初の組み手からその投げに至るまでの過程を見てもらいたいです。流れをつくるのがうまい選手がいたり、自分のペースに引き込むのがうまい選手がいたりするので、そういった見方をしてもらえると試合をもっと楽しめるのかなと思います。

【Profile】
石井寛子(いしい・ひろこ)
1986年1月9日生まれ、埼玉県出身。中学時代は陸上に励み、高校から自転車競技を始める。大学1年からナショナルチームにも在籍。大学4年時にACCトラックアジアカップのケイリンで優勝する。数々の世界大会で活躍し、2013年にガールズケイリンデビュー。初年度からガールズ最優秀選手賞に輝き、2017年にはガールズグランプリで優勝を飾る2024年12月にガールズグランプリ11回目の出場で2度目の優勝を果たした。

角田夏実(つのだ・なつみ)
1992年8月6日生まれ、千葉県出身。父親の影響で小学2年から柔道を始める。2013年、大学3年時に全日本体重別選手権大会の52kg級で優勝を果たすと、主要な大会で好成績を残し始める。2019年から48kg級に階級をおとし、2021年に世界選手権で初優勝すると、2022年、2023年も制覇する。2024年のパリ五輪では金メダルを獲得し、団体戦では銀メダル獲得に貢献した。国際大会のグランドスラムでは6度優勝を果たしている。

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