『RIZIN男祭り』で行なわれたヘビー級トーナメント1回戦。唯一の日本人対決となった一戦で、上田幹雄がシビサイ頌真を相手に63秒TKO勝利を収めた。

試合を決めたのは、極真空手仕込みの強烈な下段蹴りだった。

 上田は2019年に全世界空手道選手権大会を優勝。日本人として16年ぶりに極真の世界王者になった。2021年に総合格闘技に転向し、2022年4月のRIZINデビュー戦では髙阪剛と拳を交えた。現在、彼のセコンドとして成長を見守っている髙阪に、上田の成長、"日本ヘビー級の希望"の現在地を語った。

元・極真世界王者はRIZINヘビー級を盛り上げられるのか? ...の画像はこちら >>

【シビサイ頌真戦の勝因は「距離」】

――髙阪さんがセコンドについた上田幹雄選手のシビサイ頌真選手との試合、上田選手の勝利、おめでとうございます。

「本当によかったです。試合自体は下段の蹴りで決着がつきましたが、勝敗を分けたのは距離設定だったと思います。シビサイ選手は組んでからが非常に強い選手ですから、彼の得意な展開に持っていかせないためには、本来は距離を取るべきなんです。ただ、今回の試合ではあえて、組まれるリスクがあっても自分の攻撃も届く中間距離で戦いました」

――それは作戦だったのですか?

「試合が終わったから話しますが、練習中に幹雄から『この距離(中間距離)でやりたいです』と言ってきたんですよ。自分が提案したのは、少し遠い距離だった。幹雄だったら足技も届くし、組まれにくいですから。でも幹雄が、『この距離だとちょっとやりづらいです』と言うので、『じゃあ、もう少し近い距離でやろう』とすり合わせていきました」

――組まれるリスクは上がるけど、攻撃も当てやすい距離にしたわけですね。

「そうですね。ですから、組まれたらどう対処するか、リングの中でどの位置をキープするか、といったリングワークも含めて、いろんなパターンを想定した距離を設定しました。自分が最初に提案した距離から半歩くらい近い距離です。本当にギリギリの距離感ですね」

【目標はベラトール王者とのタイトルマッチ】

――上田選手は髙阪さんのジムに所属する選手ではありませんが、どんなペースで練習しているのでしょうか?

「毎週月曜日、私のジムの"プロ練"に必ず来ています。ほかの曜日にはシビサイ選手たちとも練習していて、試合前になれば自分も見に行ったりしていますよ」

――上田選手のRIZINデビュー戦の相手は髙阪さん(髙阪の1ラウンドTKO勝利)でした。そんな上田選手が教え子になるのは感慨深いのでは?

「戦った時、彼の能力の高さを実感しましたし、『こうすればもっと強くなれる、もっと勝てる』と感じるものがありました。今、それを一緒に実現しているのは、本当にうれしいことですね」

――映像からも、ふたりの関係性のよさが伝わってきます。

「先ほど話した距離設定もそうですが、コミュニケーションがしっかり取れていないと、選手側から『もっとこうしたい』という具体的な話は出てこないものです。一方通行じゃなくて、お互いの意見を交換できるいい関係を築けていると思いますね」

――"格闘技界の賢者"とも呼ばれる髙阪さんの経験とスキルを注ぎ込んでいるわけですね。

「そうですね。そして、彼なりに嚙み砕いて増幅させていくことが、少しずつできるようになってきています」

――その成長の過程を間近で見られるのは、楽しくて仕方ないのでは?

「楽しいです(笑)。『おっ、これもできるようになったか』『あの技も使えるようになったな』と、手応えがありますね。

それは本人も感じていると思いますし、こちらもうれしいです」

――今回のヘビー級トーナメント(RIZIN WORLD GP 2025)はスダリオ剛選手が敗退し、勝ち残った唯一の日本人である上田選手にかかる期待は大きいと思います。

「本人も、トーナメントを優勝して、その先にあるライアン・ベイダー選手(現ベラトール世界ヘビー級王者)とのタイトルマッチを実現するため、すごくモチベーションが高いんです。あのレベルの選手とベルトを懸けて戦う。今はそれしか見えてない感じですね」

――そこを目指して、髙阪さんも取り組まれているということですね。

「最初の頃は、こちらの言葉を受け取れる状態ではなかった。でも今は、同じことを言っても受け取り方が全然違ってきています。やっぱり、『このタイミングでこれを身につける』という順番は大切。一気に飛躍させようとするのはよくないです。あとは、幹雄のよさを消したくない。これまで培った打撃の強みを活かしながら、MMAファイターとして成長していくのが一番理想の形だと思います。海外のヘビー級の選手と比べても、同じ型にはまらない選手になると思いますよ」

【上田の活躍次第で「ヘビー級も流れが変わってくる」】

――ヘビー級トーナメント自体については、「盛り上がりに欠けた」という声も聞かれました。
PRIDEやUFC、ヘビー級で戦ってきた髙阪さんからすると、寂しさもあるのでは?

「そうですねぇ......。

今はフェザー級やバンタム級、フライ級など、日本人選手が筆頭になって盛り上がっていますよね。それは、いい形で競技が成熟してきていて、観る側の目も養われてきたからだと思います。

 一方で、ヘビー級の魅力はまだうまく伝わっていません。『なんで今ので、倒れたの?』とか、『ガードの上からでも倒せるの?』といった"化け物感"というんですかね。規格外の迫力、そういう期待感がもっと伝わるといいなと思っています」

――上田選手がヘビー級を引っ張って、魅力を体現してくれるといいですね。

「幹雄が結果を出して引っ張っていくことで、ヘビー級も流れが変わってくると思います。彼はまだまだ伸びていきますし、本人も『楽しくて仕方がない』という話をしていますから、これからに期待してください!」

【プロフィール】

■髙阪剛(こうさか・つよし)

1970年3月6日生まれ、滋賀県出身。学生時代は柔道で実績を残し、リングスに入団。リングスでの活躍を機にアメリカに活動の拠点を移し、UFCに参戦を果たす。リングス活動休止後はDEEP、パンクラス、PRIDE、RIZINで世界の強豪たちと鎬を削ってきた。格闘技界随一の理論派として知られ、現役時代から解説・テレビ出演など様々なメディアでも活躍。丁寧な指導と技術・知識量に定評があり、多くのファイターたちを指導してきた。

またその活動の幅は格闘技の枠を超え、2006年から東京糸井重里事務所にて体操・ストレッチの指導を行っている。2012年からはラグビー日本代表のスポットコーチに就任。

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