観客の数が多ければ多いほど、試合前から「やってやるぞ」と選手は燃えるもの。何度もその高揚感を味わってきたベテランの清水邦広がこの環境について話す。
「注目されればされるほど、力が出せる。満員のなかで試合ができるのは、選手にとっては本当に幸せなことです」
今でこそ男子バレーの人気が先行するが、かつては女子バレーの人気に押され、男子の試合は空席が目立つ時期もあった。日本代表では「女子は強いけど男子は弱い」と揶揄されることも多々あった。それでもいつか、男子バレーが人気実力ともに認められる日がくることを信じて、清水は苦しい時代も先頭に立ち戦ってきた。
だからこそ、試合に出ていなくとも満員のスタンドを見れば自ずと昂(たか)ぶる。あの頃に願った「いつか」が訪れた。SVリーグ元年は、清水にとって新たな喜びに触れたシーズンでもあった。
※本文中の選手の所属は2024-25シーズン
【SVリーグ全試合の映像を見て分析】
今季、清水がベンチ入りしたのは4試合。2018年に負った右膝の大けがの影響は小さくなく、状態は決してよくなかった。
「普段の生活で、何もしていなくても痛い。
試合に出る機会はなかったが、ただ落ち込んでいたわけではない。むしろチームのためになればと自チームだけでなく「SVリーグ男子の全試合を映像で見て、自分なりに分析していた」という。
レギュラーラウンドからチャンピオンシップ、そしてアジアクラブ選手権と続いた長いシーズンを戦った大阪ブルテオンが、なぜ目指した頂点に立つことができなかったのか。「薄っぺらなことしか言えない」と笑いながらも、1シーズン分析してきた清水の評価は的確だった。
「トータルして見ると、大阪ブルテオンは最初から最後まで同じレベルでバレーボールができた、というのはひとつプラスではあるんですけど、それ以上の成長があまりなかった。でも、サントリー(サンバース大阪)やウルフドッグス(名古屋)、ジェイテクト(STINGS愛知)、(東京)グレートベアーズなどほかのチームはケガ人が多く出たり、激闘を繰り返すなかで課題を見つけて打開策を得て、メンバーを変えながら成長してきた。その幅がすごく大きかったと思うんです。
ブルテオンももちろん成長したけれど、いい意味でも悪い意味でも劇的な成長がなかった。開幕戦ではサントリーに勝ちましたけど、最後に優勝したサントリーとの力の差を見れば、明らかに相手のほうが上でした。とはいえ、個々の力を見れば、むしろ相手を上回る技や力を持つ選手は多く、着実に成長を遂げていました」
「あえてひとつ言うなら」と清水が続ける。
「永露(元稀)選手がもっと自信を持って(トスを)上げられたら、よかったんじゃないかな、って。
身長192cm。日本人セッターのなかで高さを武器とする永露は、ウルフドッグスでリーグ優勝(2022-23Vリーグ)も経験したセッターだ。日本代表にも選出され、SVリーグ初年度にブルテオンへ移籍し、レギュラーラウンドとチャンピオンシップの全試合でスタメン起用されフル出場を果たした。
常に重責を担うポジションでフル出場できたのは、信頼されているからこそ。それでも自信なさげに見えたのは、永露の性格ゆえだろうと清水は語る。
「関田や大宅はクイックもパイプも自信を持って『打て』と上げているのに対して、永露は遠慮しながら『打って下さい』と上げているように見えました。元々、永露はすごく優しい性格で、それが長所でもあるんですけど、試合では気を遣いすぎて短所にもなる。ブルテオンはいいスパイカーが揃っているから、多少乱れてもカバーしてくれる。もっとできたのに、という思いはずっとありました」
その時々で、もっとこうしたほうがいいのではないかと思うことはあったが、チーム最年長の自分が言うことで、崩れてしまうかもしれないとあえて言わずに見守っていた。そして、今季の全日程を終えたアジアクラブ選手権のあとに、清水は永露に思いを伝えたという。
「もっと自信を持ってプレーしたほうがいい。
永露は今季限りでブルテオンを退団し、5月27日には広島サンダーズへの入団が発表された。来季はまたライバルとして戦うことになるが、清水は変わらず期待を抱く。
「一番伸びしろのあるセッターだと思うし、もっと一緒にやってアドバイスもしたかったし、成長を見たかったです。(大阪ブルテオン前監督で日本代表監督に就任した)ティリ(・ロラン)さんも期待していると思うから、代表でも頑張ってほしいですね」
課題を指摘しながらもそれ以上に「もっとできる選手だから」と力を込める。清水の優しさが、何度も繰り返す期待の言葉から伝わってきた。
【来シーズンに描く新たな夢】
さまざまな変化があったSVリーグ1年目。選手だけでなくクラブやリーグ、それぞれの課題も見えたシーズンではあるが、だからこそ次につながる、と清水は力を込める。
「全部面白かったです。ここ数年はずっと力の差も拮抗していますけど、今年は、より一層感じました。フルセットも多かったし、ストレートで勝っている試合でも点差は2点だったり、どこが勝ってもおかしくなかった。見ている人もドキドキハラハラしたと思うし、ニミル(・アブデルアジズ/ウルフドックス)みたいに21-24から120%のサーブを打ってくる選手もいる。
そういう世界線で試合ができて、間違いなく全体のレベルも上がったと思うし、SVリーグとして見れば、認知度、人気も高まったと思うので、これを単発で終わらせるのではなく最高峰のリーグにするために、ファンの方々も含めてみんなでつくりあげていきたい。ブルテオンの久保田(剛)社長も、選手やファンの意見を取り入れていろいろなことにチャレンジしてくれる方なので、来シーズンはさらにいいSVリーグ、大阪ブルテオンになると思うので、期待して見てほしいです」
もちろんそのなかには、清水もいる。今年長男が誕生し、新たな夢が増えた。
「上の娘が今年で3歳。子どもたちに、お父さんがバレーやっている姿を見せたいので、僕も僕なりに頑張ります」
さまざまな困難を乗り越えながら一歩ずつ、前へ進み続ける。