リーグ・アン日本人選手の明暗(後編)

◆前編>>「南野拓実はモナコで特別な存在に。古橋亨梧は悩ましい夏を迎える」

 レギュラーシーズン後の昇降格プレーオフでメス(リーグ・ドゥ3位)に敗れたスタッド・ランス(リーグ・アン16位)は、リーグ・ドゥへの降格が決定。

来シーズンは、クラブにとって2017−18シーズン以来となる2部リーグでの戦いを強いられることとなった。

 スタッド・ランスのホーム「スタッド・オーギュスト=ドローヌ」で行なわれたプレーオフ第2戦で先発出場した伊東純也と中村敬斗、そして後半77分からピッチに立った関根大輝の日本代表トリオにとっては、まさに悪夢のようなエンディングとなってしまった。

 振り返れば、今シーズンのスタッド・ランスは序盤戦こそ好調を維持して上位に食い込んでいたが、リーグ戦では昨年11月下旬から3月下旬まで0勝6分9敗。約4カ月にわたって白星から遠ざかるなど、シーズンの大半で苦しんだ。

 そんななか、日本の3選手はどのようなパフォーマンスを見せ、いかなる収穫を手にしたのか。あらためて、3人の今シーズンを振り返ってみたい。

中村敬斗がドリブラーとして進化した一方、伊東純也は別人のよう...の画像はこちら >>
 まず、3人のなかで最も多くの収穫を手にしたのは、間違いなく中村だった。

 加入初年度の昨シーズンはリーグ・アンのサッカーに馴染むまでに時間を要したが、2年目の今シーズンは大ブレイク。出場時間やゴールなど、すべてのスタッツを大幅にアップさせた。

 リーグ戦では、ふくらはぎの負傷で欠場した第21節と累積警告による出場停止となった最終節を除き、32試合(先発31試合)に出場し、出場時間もチーム内4位の2662分。チームの主軸アタッカーとしてプレーし、計11ゴールと2アシストをマークした。チームにおいては、GKイェヴァン・ディウフとともにMVP級の活躍ぶりだった。

 分岐点となったのは、第4節のナント戦だ。

 開幕戦から先発出場を続けていた中村だったが、パフォーマンスが凡庸だったこともあり、その試合では今シーズン初めてスタメン落ち。しかし、1-1で迎えた後半73分に登場すると、後半アディショナルタイムにチームを勝利に導く決勝ゴールを決め、そこから流れは大きく変わった。

【中村はどのリーグでも通用する】

 続く第5節のパリ・サンジェルマン戦でスタメンに復帰した中村は、その試合でも先制点を決めて勝ち点1に貢献すると、第8節のオセール戦まで5試合連続となる怒涛のゴールラッシュ。絶対的な存在としてチーム内での地位を確立すると同時に、ヨーロッパ主要リーグにおける日本人の連続試合得点記録も更新した。

 中村の成長は、数字だけにとどまらない。むしろ、数字には見えないパフォーマンス向上の部分こそ、今シーズンの中村が手にした大きな収穫と言っていい。

 持ち味のシュート精度に磨きをかけたことはもちろんだが、特に今シーズンの中村は、昨シーズン後半から見せるようになっていた「自ら仕掛けて突破を図る」プレーが大きくレベルアップ。これは、サイドアタッカーとしてリーグ・アンで活躍するための必須条件でもあるが、中村がドリブラーとして進化を遂げた点は見逃せない。

 しかも、突破後のクロスボールの質も向上させたことで、カットインが自慢の中村と対峙する相手DFは対応がますます難しくなった。結果的に、それらの武器を兼備したことがゴール数の大幅増につながっている。

 印象的だったのは、残留争いの真っ只中にあった第29節・RCランス戦の終了間際のシーンだ。

 この試合で先制ゴールを決めていた中村は、守備でも奮闘して疲労困憊していたなか、ロングカウンターを発動した場面で猛烈な長距離スプリントを見せると、最後は相手ペナルティエリア内で味方からのパスを受けてフィニッシュ。

ゴール後に足を痙攣(けいれん)させていたその姿からは、たくましさと頼もしさがうかがえた。

 そのスタミナも含め、どのリーグでも通用するだけの実力をつけた中村がこの先、どのようなキャリアを築いていくのか──。今夏の動向も含めて楽しみにしたい。

 一方、リーグ・アン3年目の伊東は、総じて難しいシーズンを過ごした。

 リーグ戦33試合に出場し、出場時間はチーム内3位の2702分。4ゴール3アシストをマークするなどスタッツ的には上々だったが、高いパフォーマンスを発揮していたのは主にシーズンの序盤戦に限られていた。

【最後まで伊東頼みの采配が続いた】

 調子を落とし始めたのは、昨年11月のインタナショナルマッチウィーク以降のこと。おそらく、長距離移動や連戦による勤続疲労の影響だと思われる。

 だが、少なくとも過去2シーズンにわたって示し続けた存在感はなく、別人のようなパフォーマンスに終始した。あれだけ際立っていた華麗なボールタッチやキック精度を含め、本来の姿を取り戻せないまま、時間だけが経過してしまった印象だ。

 伊東にとって苦しかったのは、自身の不調と時を同じくして、チームが勝てなくなったことだろう。第21節から指揮を任されたサンバ・ディアワラ監督は、第26節のブレスト戦で伊東を休ませるべくベンチスタートにする決断を下した。しかし結局、その試合でも後半途中から伊東をピッチに送り出すなど、最後まで伊東頼みの采配が続いた。

「伊東がくしゃみをすれば、スタッド・ランスが風邪をひく」

 そんな表現がぴったりな、今シーズンのスタッド・ランスだったわけだ。

 自分の立場を理解しているはずの伊東としては、自身の出来が2部降格の要因になったのではないかと自責の念にかられているかもしれない。昇降格プレーオフ第2戦で見せた久しぶりのハイパフォーマンスからは、そんな責任感さえ見てとれた。

【来シーズン以降の課題は守備面】

 冬の新戦力として加入した関根は、予想以上に多くの出場機会を与えられたという点で、それなりの収穫を手にしたと言えるだろう。

 1月25日に行なわれた第19節パリ・サンジェルマン戦の後半アディショナルタイムにリーグ・アンの舞台にデビューすると、最終的にリーグ戦15試合(先発9試合)に出場し、出場時間は884分を記録。当初は4バックの右SBとして、ディアワラ監督が基本布陣を5バックに変更してからは右WBや3バックの右でプレーした。

 初めてヨーロッパでプレーしたという背景を考えても、適応は早かった。とりわけ頻繁に見せた攻撃参加では、右サイドをオーバーラップするだけでなく、敵陣では中央にポジションを移してチームの攻撃に幅を持たせることもあった。

 その一方で、ディフェンス面では多くの課題が残された。

 特に昇降格プレーオフ第2戦ではピッチに立つやいなや、メスのマシュー・ウドルに寄せき切れず同点ゴールを許してしまったことは痛恨だった。

 そのほかの試合でも、守備時のポジショニングやデュエルに問題を抱えていたことは確かで、そこは来シーズン以降の課題として取り組むことになるはずだ。

 いずれにしても、クープ・ドゥ・フランス決勝で本気モードのパリ・サンジェルマンと戦い、生死をかけた昇降格プレーオフも経験したことは、今後に向けた大きな財産になるはず。

身体能力も含めたポテンシャルを考えても、降格の悔しさをバネに切磋琢磨を続ければ、来シーズン以降の関根が大きく成長を遂げる可能性は高いだろう。

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