いま日本が最強国と戦えば(3)~ドイツ
ワールドカップでの最高位はベスト16の日本が目標を「優勝」に設定した。そこで世界の「ワールドカップ優勝候補」の現在地を比較検証しながら、森保ジャパンの"今"を探った。
第3回は、欧州ネーションズリーグでは準決勝でポルトガルに敗れたが、W杯ではブラジルに次ぐ過去4回の優勝を誇るドイツ代表だ。
率直に言って現在のドイツ代表には、「ワールドカップ優勝」を目標に掲げる実力はないかもしれない。少なくとも過去、「最後はドイツが勝つ」と言われた常勝イメージは消えた。実際、直近のネーションズリーグ準決勝では、地元開催にもかかわらず、ポルトガルに情けない逆転負け。栄光の時代は過去のものだ。
カタールワールドカップのグループリーグでも、森保ジャパンに不名誉な逆転負けを喫している。
日本はドイツに対してはコンプレックスを持っていない。長谷部誠、岡崎慎司、香川真司などがドイツ、ブンデスリーガに定着。以来、多くの日本人が彼らに続き、実績を挙げてきた。現代表でも伊藤洋輝(バイエルン)、堂安律(フライブルク)、板倉滉(ボルシアMG)、佐野海舟(マインツ)、町野修斗(キール)といった現在の所属組はもちろん、遠藤航、鎌田大地、浅野拓磨など、ブンデス経験者は相当な数になる。
「高い技術、勤勉さ、機動力」
そんな日本人のよさがブンデスリーガで理解され、成長を促してきた。ドイツの屈強さや勝負強さも吸収してきたのである。
その点、森保ジャパンが再びドイツを下しても不思議ではない。カタールW杯後、アウェーの親善試合でもドイツを1-4で打ち負かしている(2023年9月)。個人的には、この一戦が森保ジャパンの過去最高のゲームだったと考える。当時のハンジ・フリック監督(現在はバルセロナを指揮)に引導を渡した試合だった。
【1トップに弱点も】
しかし、かつての威光を失ったとは言え、ドイツサッカーそのものは輝きを失っていない。バイエルン、レバークーゼン、ドルトムントは現在も欧州では常に覇権を争っている。フランクフルトも、鎌田在籍時にヨーロッパリーグで戴冠した。
レバークーゼンでシャビ・アロンソ監督の薫陶を受けたフロリアン・ヴィルツは、今や世界有数のファンタジスタと言える。変幻自在のテクニック+戦術センスは出色で、ラインを行き来する感覚は天才的。ネーションズリーグ準決勝ポルトガル戦でも、ヨシュア・キミッヒ(バイエルン)とのパス交換からヘディングで先制点を決めていた。現代表では、ヴィルツ、ジャマル・ムシアラ、レロイ・ザネ(ともにバイエルン)が融合した攻撃力は欧州でも屈指と言える。
ドイツを率いるユリアン・ナーゲルスマン監督は戦術家としての誉れが高く、3バック、4バックを使い分ける。試合ごとに編成を変えられるし、試合途中でも変更可能。ポルトガル戦も3バックでスタートしたが、後半途中から4バックに変えていた。技巧的なチームになって、押し込む時間も長く、その柔軟さは持ち味だ。
だが、かつての勝負強さは失われた。
「ゲルマン魂」――そう畏怖された時代のドイツには、前線に怖さのあるストライカーがいた。劣勢でもしぶとく耐えしのぎ、一転して相手を仕留めるたくましさがあった。ゲルト・ミュラー、ユルゲン・クリンスマン、ルディ・フェラー、ミロスラフ・クローゼなどが世界制覇をもたらした。
ポルトガル戦の1トップにはニック・ヴォルテマーデ(シュツットガルト)が代表デビューし、出来は悪くなかった。しかし、決定打がない。
同じ理由で、森保ジャパンが再びドイツを倒すカギは、欧州で実績を積む上田綺世になるかもしれない。スコットランドリーグMVPの前田大然、ブンデスリーガで二桁得点の町野修斗もそれに続くストライカーだが、やはり上田が殻を破れるか。前回のドイツ戦では決勝点を叩き込んだが、瞬間的にコースを変える反応はまさにストライカーだった。名手マルク・アンドレ・テア・シュテーゲンが一歩も動けなかったほど。2024-25シーズンはケガに苦しんだが、得点パターンの多さも含めて期待がかかる。
次にドイツと戦っても、日本に勝機はあるだろう。
ただし、日本がドイツを凌駕したわけではない。ドイツではワールドカップベスト16でも「失敗」と批判を浴びるだろう。それだけの歴史と実績の差があることは念頭に入れるべきだ。