まだ見ぬ高みを目指して――バレーボールの男子日本代表が2028年のロサンゼルス五輪に向けて始動した。

 振り返れば、29年ぶりとなる決勝トーナメント進出を果たした東京五輪を足がかりに、男子日本代表は階段を駆け上がり続けている。

2022年の世界選手権では決勝トーナメント1回戦(ベスト16)で、前年の東京五輪で金メダルを獲得しているフランスをあと一歩のところまで追いつめた。そして、翌年のネーションズリーグでは初の銅メダルを獲得。同年秋にはパリ五輪予選を自力で突破し、昨年のネーションズリーグでは準優勝に輝いた。

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 世界ランキングでも最高2位を記録し、パリ五輪には堂々たるメダル候補として出場。準々決勝でイタリアに敗れたものの、その試合では何度もマッチポイントをにぎるなど勝利も目前に迫った。残念ながら五輪でのメダル獲得は叶わなかったが、プレーのクオリティの高さと、それを体現する選手たちにはリスペクトと羨望の眼差しが集まり、今や男子日本代表は世界のバレーボールシーンの中心にいる。

 そして今年、男子日本代表は次のオリンピックサイクルに臨むにあたって、新監督にロラン・ティリ氏を迎え入れた。ティリ氏は東京五輪で母国の男子フランス代表を金メダルに導いた実績を持つ。と同時に、日本でも2020-21シーズンからパナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)の監督に就任し、2024-25シーズンまで指揮を執った。

 今回の代表監督就任に寄せられる期待は何といっても、五輪でのメダル獲得だ。6月5日のキックオフ会見でも(公財)日本バレーボール協会の南部正司シニアダイレクターは「パリ五輪で目標に届かなかったベスト4以上の成績を、ロサンゼルス大会で実現させる。五輪でメダル獲得の経験を持つティリ監督を招聘することで必ずやメダルを獲りたい」とあらためて強調。

 ティリ監督もその思いに応え、会見では「大きな責任を担うとともに、野心と期待、それに計り知れない情熱を覚えています。なぜなら4年後のメダル獲得が目標であるからです」と意気込んだ。

 男子日本代表が国際大会でのメダル獲得、つまり表彰台に立つだけの力を持っていることに異論はないだろう。実際にネーションズリーグでは直近2大会でメダルを手にしている。とはいえ、世界選手権と五輪では届いてないのが現状だ。

 では、ブレイクスルーを起こすために必要なことは何なのか。昨年12月の監督就任内定会見で新指揮官はこう語っていた。

「フランスも東京五輪までにはギリギリのところまで戦って、惜しくも勝利を逃した経験がありました。それを乗り越えた末に、初めて東京大会で成功を収め、続くパリ大会でも結果も残せたと感じています。そうした経験を踏まえて、大きな重圧を受けながらでも大事な場面で肩の力を抜いて、のびのびとプレーできていた。それが日本とフランスの違いになります」

 東京五輪に続いてパリ五輪を制したフランスと日本との差を「経験」と語ったが、日本も2022年世界選手権のフランス戦、2024年パリ五輪のイタリア戦......と振り返れば、悔しさが溢れ出てくる試合を味わってきた。

 ここから日本は、その経験を糧にして成功体験を重ねる段階に入っていく。

だからこそ、ティリ監督は2028年に向けて「すべての国際大会で表彰台を獲りにいく」と目標を掲げる。

 その第一歩をとなる2025年度の代表活動だが、新しいオリンピックサイクルの初年度とあって登録メンバーに初選出組が見られ、チームで主力を担ってきた面々が不在である。とりわけキャプテンの石川祐希(ペルージャ/イタリア)と髙橋藍(サントリーサンバーズ大阪)の両エースは代表への合流時期を遅らせ、さらにはポイントゲッターの西田有志(大阪B)も代表活動に加わりながらも公式戦にはあえて参加しない。

 また不動の司令塔であるセッターの関田誠大(サントリー)も手術に踏みきるなど、各々が調整を施している。それらは、いずれきたる戦いに向けた準備にほかならない。

 一方で、チームに新陳代謝をもたらす効果が見込まれる。初選出組のなかにはすでに国内リーグで実力を示している面々が名前を連ねているほか、昨年のパリ五輪の本登録メンバーから落選した富田将馬、エバデダン・ラリー(ともに大阪B)らも「次こそは自分が」と野心をたぎらせる。

 同様に現役大学生ながらも、今冬はフランスリーグで研鑽を積んだオポジットの高橋慶帆(法政大学)やパリ五輪までのサイクルで才能を開花させたアウトサイドヒッターの甲斐優斗(専修大学)らは、代表でも主力を担えるだけのポテンシャルを備える。

 昨年末の全日本インカレ優勝を飾ったあとに大阪Bでプレーした甲斐は「石川選手や髙橋藍選手がいない点は昨年のネーションズリーグ第1週もそうでしたから、違和感はありません。むしろ自分を出せる機会が増えると思うので頑張りたい」と言葉に力を込めた。この先、どんな戦力が台頭してくるか注目したい。

 すでにチームは現地6月11日からのネーションズリーグにむけて出国しており、まずは中国で行なわれる予選ラウンド第1週に臨む。

石川や髙橋藍は不在だが、「彼らが世界と戦ううえでも必要な存在なのは知ってのとおり。今回、ガラリとメンバーが替わったことで難しさも出てくるかと思いますが、そのなかでも『彼らがいないから』と言い訳するのではなく、思いきってチャレンジしていきたい」とはリベロの小川智大(サントリー)の言葉だ。

 戦術や選手起用も含めて試行錯誤がなされるなか、選ばれたメンバーたちは個々のレベルアップとチーム内競争に励み、それと同時に結果を求めていかなければならない。「平坦な道のりではない」(ティリ監督)が、その先にきっと栄光が待っている。

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