ドジャースは「二刀流」大谷翔平を戦力としていかに「最大化」&...の画像はこちら >>

後編:「二刀流」大谷翔平の復活とドジャースの野望

ロサンゼルス・ドジャースは二刀流復帰を果たした大谷翔平を戦力としてどのように生かしていくのか。ワールドシリーズ2連覇に向け、大谷獲得後、初の挑戦に臨むことになる。

その背景にはチームの資金力と支配下選手を多く、効率よく獲得するチーム編成力も問われてくるが、ここでは、ナ・リーグでライバルとなるニューヨーク・メッツとの比較を交えながら考察してみる。

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【先発ローテの再編は現時点ではメッツに軍配】

 今季の大谷は、ここまでチームの73試合中71試合に出場している。二刀流として復帰した今後は、適切な休養日を確保する必要も出てくるだろう。チーム全体の投打の状況を踏まえながら、大谷の登板間隔やDHとしての出場日を調整し、戦力の「最大化」と「最適化」の両立を図らなければならない。

 その観点を大局的なチーム編成に照らし合わせてみると、筆者が現時点でドジャースの最大のライバルと考えているのはニューヨーク・メッツである。ハーバード大学出身で、頭脳明晰なデビッド・スターンズ編成本部長が率いるチームだ。

 昨オフ、このスターンズとドジャースのアンドリュー・フリードマン編成本部長はいずれも先発ローテーションの再編成を最重要課題として取り組んだが、2025年シーズンが折り返し点に近づくなかで、明らかにスターンズに軍配が上がっている。

 フリードマンはブレーク・スネルと佐々木朗希を獲得したものの、ふたり合わせてわずか10試合しか登板できておらず、復帰のめども立っていない。ドジャースのチーム防御率は4.17でリーグ22位。なかでも先発陣は長いイニングを投げきれておらず、総投球回数339回2/3はリーグ29位に沈んでいる。

 一方のメッツは、チーム防御率2.97で堂々のリーグ1位。先発陣の防御率も2.93でこちらも1位である。FA市場で獲得したクレイ・ホルムズは7勝3敗、防御率2.87、グリフィン・カニングは6勝3敗、防御率3.80と、いずれも期待以上の活躍を見せている。

 スポーツ専門メディア『ジ・アスレチック』によると、スターンズは昨オフ、先発投手の補強にあたって、急激に高騰する先発投手市場にどう対応するかを慎重に検討した。その結果、コービン・バーンズ、マックス・フリード、スネルといった目玉選手とは積極的に交渉せず、代わりに比較的コストの低いショーン・マネイア、フランキー・モンタス、ホルムズ、カニングの4人を獲得した。

 スターンズは「戦略を立てるうえで重要なのは、リーグ全体が特定の選手の能力をどう評価し、それにどう価格をつけるかについて、自分たちの内部で明確な見解を持つことだ」と語っている。

 結果、彼はコストを抑えつつも、リリーバーだったホルムズを先発にコンバートして成功を収め、また昨季ロサンゼルス・エンゼルスで6勝13敗、防御率5.19に終わったカニングの再生にも成功した。

 スターンズはキャリアの初期にMLBコミッショナー事務局で勤務し、選手の移動や各球団の運営を観察することで、市場を見極める力を養ったという。「自分は市場に直接関与する立場ではなかったが、観察するには非常に恵まれた環境だった」と振り返っている。なお、今後は右脇腹の張りで出遅れていたマネイアと、右広背筋の張りで戦列を離れていたモンタスの両名も合流、さらに手ごわくなる。

 スターンズは2015年9月、30歳の若さでミルウォーキー・ブルワーズのGMに就任した。スモールマーケットの低予算チームながら、在任中に地区優勝3回、ポストシーズン進出5度を成し遂げた。その実績が評価され、メッツに呼ばれ、今季がその2年目となる。メッツは、MLB屈指の大富豪であるスティーブ・コーエンオーナーが率いる球団であり、その潤沢な資金力を背景に、昨オフはFA市場最大の目玉であったフアン・ソト外野手の獲得に成功した。

 しかしスターンズは、資金力の差が物を言うのは大物選手の獲得時だけではないと説明する。

「たとえば、スプリット契約(メジャーとマイナー両方の可能性がある契約)を結ぶ際に、他球団よりも20万ドル(約2900万円)多く支払う必要が出た場合、我々はそれを即座に実行できる。あるいは、メジャーのFA選手に他球団より500万ドル(約7億2500万円)多く支払う必要があったとしても、それも可能だった」と語る。ブルワーズ時代にはなかったこうした対応力が、スターンズに力を与えている。

【MLBの最先端トレンドをも凌駕する二刀流・大谷】

 このように、ベンチ入りの26人枠だけでなく、メジャー契約の40人枠にいかに優れた選手を集め、選手層を厚くするかが、編成本部長の腕の勝負どころとなる。近年はどのチームでも負傷者が増えており、40人枠の外にいる選手もうまく活用する必要がある。

 ある球界関係者はこう語る。

「大切なのはロースター管理。ドジャースやメッツは、まるで40人枠に60人いるんじゃないかと思うほど、負傷者リストなどを巧みに活用して選手をうまく動かしている。資金力だけではなく、常に的確な判断をしているからこそ、それが可能になっている」

 選手枠を有効に使う手段は多岐にわたる。たとえば、メジャー経験の少ない選手にはオプションが残っているため、メジャーとマイナーを行き来させ、交替で起用することで、イニングを消化できるし、相手チームとの相性を見ながらの起用も可能になる。

 また、負傷者リストの活用も重要だ。60日間の負傷者リストに登録された選手は40人枠から外れるため、新たな選手を追加できる余地が生まれる。

野手に関しては、複数ポジションを守れるユーティリティ性の高い選手を増やすことで、監督がより柔軟にラインナップを組める。さらに、他球団で戦力外になった選手と契約したり、自軍内の選手をいったん戦力外としてウェーバーを通過させたあと、再契約してマイナーに送るといった手法も活用されている。

 こうしたロースター管理における複雑な動きは、一人の力だけではコントロールできない。スターンズは「我々は今、ますます多くのデータや情報源にさらされている。より複雑なアルゴリズムを必要としており、それを扱える多数のアナリスト、そして賢く創造的な人材が求められている。野球運営部門は医療スタッフ、コーチ、スカウト、アナリストなどを含めれば200~250人規模になる」と言う。おそらく、ドジャースも同様の体制を整えているのだろう。こうした巨大な組織がチームを管理し、競い合っている。

 しかしながら、大谷翔平という二刀流の存在は、彼らがはじき出す合理的な答えを超えている。実際、今回の二刀流実戦復帰も当初のチームプランを覆し、急遽決定された。

 6月10日、サンディエゴで3イニングのライブBPで44球を投げたあと、大谷は、試合前のこうした練習が体に大きな負荷をかけていると訴えた。そこでこう提案した。

「もう、やるべきことはすべてやったと思う。1~2イニングだけなら、もう準備はできている。今、投げてもいいですか?」

 そして、その意思は通った。

 現役時代メジャーで投げていたドジャースのブランドン・ゴームズGMは、こう説明する。

「午後1時半とか2時に肩を作って投げ、そのあとクールダウンして、再び身体を立ち上げて1番打者として出場するなんて前例はない。だからこそ、常に話し合いの必要があって、何よりも、大谷本人が主導権を握ることが重要だった」

 MLBの最先端を行くシステムのなかで、一人の人間が計画を凌駕する。それが二刀流・大谷翔平なのである。

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