脇本雄太がGⅠ高松宮記念杯競輪を制覇 恩師の訃報に涙する古性...の画像はこちら >>

【連係での勝利を強調】

 他を圧倒する豪脚を見せた脇本雄太(福井・94期)が、大阪・岸和田競輪場で開催されたGⅠ「第76回高松宮記念杯競輪」で、初日からオール1着の完全優勝を成し遂げた。

 今年2度目のGⅠ王者となった脇本は、穏やかな表情で「今回は近畿の仲間たちに助けられて獲れた結果」と語れば、2着に入った古性優作(大阪・100期)も「今回は自力では勝ち上がれなかった。近畿の仲間に助けてもらった2着」と連係での勝利を強調した。

 歴史と伝統のあるこの高松宮記念杯競輪に参加できるのは、その格式どおり、上位に位置するS級選手のみ。選考期間に平均競走得点の上位者から順次選抜されるほか、S級S班在籍者やパリオリンピック代表選手など総勢108名によって争われた。

 そして今開催は東西対抗の形式で、その108名の内訳は東日本地区と西日本地区からそれぞれ54名ずつ。準決勝までは東西の選手が対戦しないのが特徴だ。各選手は、6月17日(火)~22日(日)までの6日間で5レースを実施し、順位を競い合った。

 梅雨時の開催ということもあり、かつては「雨の宮杯」と呼ばれていたが、ここ数年は晴天続き。とくに今開催は連日30度を超え、熱風が吹くなかで行なわれた。多くの選手たちから「調子はずっとよくない」「5連続(のレース)はパンチがある」などという嘆きに近い言葉が聞かれていたほどで、コンディションはもちろん、過酷な状況にもめげないメンタルも必要。真に強い選手のみが勝ち残れる白熱した開催となった。

【近畿勢3人の思い】

 決勝のポイントは、近畿勢の脇本、古性、寺崎浩平(福井・117期)の3人を軸に、中国コンビの清水裕友(山口・105期)、太田海也(岡山・121期)、南関東勢の深谷知広(静岡・96期)、郡司浩平(神奈川・99期)、松谷秀幸(神奈川・96期)がどう立ち回っていくかだった。

 レースは、パリオリンピックにも出場した太田が「後ろ攻めは苦しい」と先行し、その後ろに清水がついた。この中国コンビに、近畿勢、南関東勢が並ぶという展開に。残り2周になったところで、深谷が先頭となって南関東勢の3人が一気に仕掛けるが、太田にそれをけん制されてスピードダウン。

深谷は「(ここで)前に出きれなかったことがすべて」と悔やんだ。
脇本雄太がGⅠ高松宮記念杯競輪を制覇 恩師の訃報に涙する古性優作、仲間を引っ張る寺崎浩平の思いを背に走りきる
中国コンビ、近畿勢、南関東勢の並び。多くの観客がバンクを取り囲み声援を送る photo by Photoraid
 そして残り1周半の打鐘とともに、ついに寺崎、脇本、古性の並びで近畿勢が爆速で駆け上がり、ラスト1周で3人が前に出きった。

 脇本は「(寺崎が)どこから仕掛けるかわからなかったし、油断しないようにしっかりとハンドルを絞っていましたが、打鐘が鳴ったときの寺崎君のスピードがすごかった」と驚くほどの猛スピードだったが、脇本と古性のふたりのみがきっちりと追走。後続を引き離しにかかった。

脇本雄太がGⅠ高松宮記念杯競輪を制覇 恩師の訃報に涙する古性優作、仲間を引っ張る寺崎浩平の思いを背に走りきる
ラスト1周。寺崎、脇本、古性の3人が前に躍り出る photo by Photoraid

 ただ寺崎はバックストレッチまで先頭を走ったが、そこで力尽きるようにスピードが緩む。「寺崎君の気持ちを汲み取ったうえで仕方なく前に出た」と脇本は迷いながらも、自分たちを必死に引っ張ってくれた寺崎の思いを受けてラスト半周に挑んだ。

 あとは脇本と古性の一騎打ちだ。そこでも脇本は「古性君の気持ちもしっかり背負ったうえで、勝負しようと思っていた」とふたりで競り合いながら4コーナーを回った。

 実は、古性は今開催中に長年恩師と慕ってきた郡山久二氏(大阪・55期=引退/60歳)の病気での訃報を受けていた。古性にとって郡山氏は「自分がA級のころから見てもらっていて成長させてくれた」存在。準決勝後にそのことを明かした古性は涙をこらえきれなかった。

 それを知る脇本は、古性がこの決勝に並々ならぬ思いで臨んでいると感じていた。

 ただ互いにプロの世界で生きる勝負師であり、情けは厳禁だ。スポーツ、ファン、そして仲間へのリスペクトがあるからこそ、全力でぶつからなくては失礼にあたる。最後の直線ではまさに力勝負となったが、脇本が追いすがる古性を振り切り、1着でゴール線を超えた。

脇本雄太がGⅠ高松宮記念杯競輪を制覇 恩師の訃報に涙する古性優作、仲間を引っ張る寺崎浩平の思いを背に走りきる
脇本が先にゴール線に入る photo by Photoraid
 ふたりはレース後に自転車を下りてがっちりと握手。優勝の胴上げは古性が中心になって、脇本の体を力強く持ち上げた。

 また脇本は「本来はライン(近畿勢)で決めないといけなかったが、今回は寺崎君のおかげもあった」と寺崎をねぎらう言葉も残した。結局9着に沈み、「4コーナーで勝負する脚力が必要だった」と悔しさをにじませていた寺崎は、「脇本さんと古性さんのワンツー(フィニッシュ)に貢献できた」と最低限の仕事ができたことにわずかながらも安堵の表情を見せた。

脇本雄太がGⅠ高松宮記念杯競輪を制覇 恩師の訃報に涙する古性優作、仲間を引っ張る寺崎浩平の思いを背に走りきる
ゴール後、近畿勢3人が労をねぎらう photo by Photoraid

【真の王者の風格】

 今年2月に、KEIRINグランプリとすべてのGⅠタイトルを獲得する「グランプリスラム」を獲得している脇本は、今回のタイトルでGⅠでは10回目の優勝を手にした。その強さは圧倒的で、今開催でも他の選手が驚くほどの爆速ぶりを見せた。

 2着の古性は「最後は何がなんでも優勝したくて、死ぬほど踏んだが力の差があった。今は何回やっても抜けない」と白旗。若手のホープ太田も「自分の脚力不足」と完敗を認め、清水も「どこもニュートラルに入れなかった」と想像以上に連続するスピード勝負に舌を巻いた。

脇本雄太がGⅠ高松宮記念杯競輪を制覇 恩師の訃報に涙する古性優作、仲間を引っ張る寺崎浩平の思いを背に走りきる
冷静にレースを振り返る脇本 photo by Photoraid
 これほどの実力を誇る脇本だが、それでも向上心は消えていない。

「先月は調子が悪くて、自分自身、新しく変わっていこうと思っていた。今回のGⅠは変化を求めながら新しいことに挑戦するのがモチベーションだったので、この優勝で弾みがついたと思う。現段階で行なっている変化を進めていけば、次のGⅠ(8月のオールスター競輪)でも自ずと結果が生まれると思う」

 どこまでも成長を求める脇本。ただ強いだけではなく、古性や寺崎ら仲間への思いも背負いながら、それでいて負けないメンタルを持つ。グランプリスラムというわかりやすい偉業が代名詞になっているが、脇本には競輪の神髄を感じさせる奥深さがある。今開催はそれを強烈に印象づける真の王者の風格が漂っていた。

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