高木豊の交流戦総括 セ・リーグ編
今季の交流戦はパ・リーグの全チームが勝ち越した。一方のセ・リーグは9勝9敗の広島以外、5チームが負け越すなど明暗がくっきりと分かれた。
かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に、交流戦の総括と、再開されるリーグ戦の展望を聞いた。
【セ・リーグのチームが苦戦した理由】
――まず、セ・リーグ各チームからお聞きします。戦いぶりをどう見ていましたか?
高木豊(以下:高木) どのチームも課題を露呈したなと。阪神はクリーンナップの3人が打たないと勝てないし、DeNAはあれだけ「つながる」と言われた打線が寸断されてしまいました。巨人は岡本和真の離脱以降、長打があまり出ずにバントに頼るしかなくなってきていますし、広島も日本ハムに7点差をひっくり返されたり、脇の甘さを感じました。
ヤクルトはやはり主力にケガ人が多く、戦力が足りていません。ドラフト1位ルーキーの中村優斗が、オリックス戦で好投するといった明るい材料はありましたけどね。今後に希望があるのは、細川成也が復帰した中日くらいじゃないですか。ここまで岡林勇希が支えていた印象がある打線に厚みが出ますので。
――なぜ、これほどまでにパ・リーグとの明暗が分かれたと思いますか?
高木 ひとつ言えることは、パ・リーグの各チームには明確な戦略があったということです。戦略を立てられるだけの選手層の厚さがあった、という言い方もできるかもしれません。例えば、DeNAのサウスポー、アンソニー・ケイに対して、ソフトバンクはケイが不得意としている左バッターを8人並べて攻略しました。これは、8つのポジションに左バッターがいなければできない戦法です。
日本ハムの場合はホームランで勝つチームなのですが、山﨑伊織(巨人)や髙橋宏斗(中日)といったホームランが出にくいピッチャーに対しては足を使いました。ホームランバッターをベンチに置き、五十幡亮汰や矢澤宏太など足を使えるバッターを並べた。戦略として面白いけど、これも選手がいないとできません。
――セ・リーグ各チームでは見られなかった?
高木 西武が瀧中瞭太(楽天)を攻略するために、上位に左バッターを並べた試合(5月28日)があったのですが、これがまんまと成功して勝ったんです。そのデータを、おそらくセ・リーグのチームも知っていたはずです。ただ、(6月18日に対戦した)ヤクルトはスタメンに左バッターを2人しか並べられませんでした。ヤクルトの場合はケガ人も多いですし、並べたくても並べられなかったのかもしれません(同試合で瀧中は7回2失点で勝ち投手に)。
【交流戦で活躍が目についた選手は?】
――交流戦で活躍が目についたセ・リーグの野手はいますか?
高木 大盛穂(みのる/広島)です。今後はレギュラー扱いされるんじゃないか、というくらいの活躍を見せてくれました。足と守備はもともと定評があったのですが、バッティングが課題だったんです。でも、6月8日の西武戦で今季1号のホームランを打って以降、波に乗っていきましたね。パンチ力があるし、打率も残せますし、「なんでこの選手が今までベンチにいたんだろう」と思えるくらいですよ。
勢いをつけたきっかけのホームランも、守備固めで入って、そのあとに打順が回ってきた時に打ったもの。
それから首脳陣も「使ってみよう」という気になったんでしょうね。そうしたら結果出した。チームが2安打に抑えられた試合で、その2安打を打ったのが大盛だったという試合もありますしね。
――そのほかに目についた野手は?
高木 伊藤琉偉(りゅうい/ヤクルト)です。打率こそ.221とまだ低いですが、カットボールやツーシームを打つのがうまいです。若手だと真っすぐに強い傾向が出たりするのですが、彼の場合は動くボールに強いんですよ。拾ったり、おっつけたりしてうまくさばきます。
それと、勝負強さも感じますね。将来的には3番なんかを打たせても面白いかもしれません。パンチ力もありますし、今後が楽しみな選手です。
――ピッチャーはいかがですか?
高木 伊原陵人(たかと/阪神)はよかったですね。コントロールがよくて無駄なフォアボールを出さないので、打たれても大量失点する心配がありません。松葉貴大(中日)や吉村貢司郎(ヤクルト)、赤星優志(巨人)もよかったですが、いずれもパワーピッチャーではなくコントロール重視のピッチャーですね。
力で押すよりも、曲げたり、抜いたり、すかしたり、みたいなピッチャーがパ・リーグのバッターには通用していた印象です。逆に、髙橋宏斗みたいに速いボールを投げるピッチャーは、甘くなると打たれていました。
【各チームの今後の課題は?】
――リーグ戦が再開されますが、今後のセ・リーグの展開をどう予想しますか?
高木 セ・リーグの各チームが負けたことによって、順位やゲーム差は大した動きがありませんでした。交流戦で勢いづいたチームもないですし、結局このまま推移していくと思うんです。ケガ人が出ると、当然不利にはなりますけどね。
阪神の場合は、クリーンナップが機能しない時にどうやって点を取るかが課題。DeNAは先発ピッチャーがいいだけに、接戦が多くなると思うんです。そうなると足で点を取る形を作りたいところで、誰をベンチに置いておくかが最重要課題だと思います。
――交流戦でセ・リーグ唯一の5割だった広島はいかがですか?
高木 広島はここ数年を見ても、課題がはっきりしています。シーズン終盤、残り30試合くらいになってからの失速は疲れが大きな要因なので、夏場にいかに打ってピッチャーを助けられるか。今年はサンドロ・ファビアンとエレウリス・モンテロがいるほか、先ほど挙げた大盛も出てきましたし、その控えには秋山翔吾もいる。そう考えると、昨年よりは心強いですよね。
ただ、交流戦の後半、森下暢仁(まさと)や床田寛樹らに疲労を感じました。彼らが昨年みたいな活躍をしてくれるのであればいいですが、今年は逆にピッチャーに課題がありそうな気もします。
―― 一方、巨人は打つほうが課題?
高木 そうですね。ただ、大勢とライデル・マルティネスという強力なリリーフがいるので、終盤に1点でもリードしていればいいわけです。課題は、先発ピッチャーが7回まで投げられるかどうか。
1点でもリードしておくため、大量点は捨てて、バントなどでとにかく得点圏にランナーを進めること。阿部慎之助監督もそれをやり始めましたが、そういう形で勝ちを拾っていくしかないでしょうね。
――中日にもチャンスはある?
高木 まずは、勝率5割に戻してからですね(31勝36敗2分/5位)。昨年よりはメンバーも揃ってきましたし、打てるようになってきましたが、相変わらず細かいことはできていません。例えば、走り抜けていればセーフになった場面でヘッドスライディングをしたりといった課題は随所に見られます。もっとも、他チームがしっかりできているかというと、決してそうではないんですが、目につくのは中日。だから惜しいんです。
ヤクルトは、打てない、守れない、一生懸命に投げるけど勝ち星がつかない......みたいな状況です。チームを立て直すという意味では、思いきって若手を抜擢するべきだと思います。一軍での起用を迷っている選手がファームにたくさんいると思いますが、そういった選手を積極的に使ってみるとか。やっぱり経験に勝るものはないですから。
――夏場の戦いをどう乗りきるかが、ペナントレースの行方を左右しそうですね。
高木 特に、今年は早い時期から暑くなりそうですよね。そうなってくると、ドームを本拠地とするチームのほうが有利かなと。阪神は夏場に甲子園を使えないので、その間はドームで快適にプレーできると思いますし。逆にDeNAや広島はちょっと厳しくなるかな......。
中4日で6月22日のロッテ戦に投げた、DeNAのトレバー・バウアーはフラフラだったじゃないですか(1回0/3を7失点)。いくらバウアーに超人的な体力があるといっても、疲労は避けられない。中6日で投げてもらうほうが得策かもしれません。
ほかの先発ピッチャーにも影響しますし、三浦大輔監督がどう起用していくのかが見ものです。各チームにとって、今年は特に気候が大きく影響するんじゃないかと見ています。
(パ・リーグ編:パ・リーグは下位チームにも希望あり 高木豊が全チームの現状と課題を分析した>>)
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。