蘇る名馬の真髄
連載第2回:オグリキャップ
かつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)。2021年のリリースと前後して、アニメ化や漫画連載もされるなど爆発的な人気を誇っている。
ウマ娘のオグリキャップは、地元の"カサマツトレセン学園"で連戦連勝を飾り、中央のトレセン学園へとやってくる。その後も強豪たちをなぎ倒し、全国のファンを魅了する"怪物"となっていく。アニメではそんなストーリーが描かれている。
この物語は、1980年代終わりから活躍した競走馬・オグリキャップの足跡にもとづいている。ちなみに、ウマ娘のオグリキャップは「大食いキャラ」として描かれているが、これも実際の"モデル馬"を参考にした設定だ。
競走馬のオグリキャップは、地方競馬の笠松競馬でデビューし、連勝を重ねたあと、中央に移籍。
1988年、4歳(現3歳。※2001年度から国際化の一環として、数え年から満年齢に変更。以下同)の暮れにはGI有馬記念(中山・芝2500m)を快勝して、初のGⅠタイトルを獲得。以降、数々の伝説を作り上げていった。とりわけ、5歳秋のGⅠマイルCS(京都・芝1600m)をハナ差の激戦で制したあと、連闘で挑んだGⅠジャパンC(東京・芝2400m)で見せた激闘は、今も語り草となっている。
ジャパンCでは、ニュージーランドの強豪ホーリックスとマッチレースを繰り広げた。結果はクビ差の2着だったが、そのときのタイム、2分22秒2は当時の世界レコード。連闘という過酷な条件にもかかわらず、驚異的な走りを見せた怪物に、ファンはますます魅了されていく。
このように、さまざまな名シーンを作った怪物だが、日本競馬界屈指の伝説となったドラマがある。引退レースの有馬記念で見せた復活劇だ。
1990年、6歳になったオグリキャップは、春のGⅠ安田記念(東京・芝1600m)をレコードタイムで制するなど、一層の強さを見せつけていた。しかし秋になると、かつてない不振に陥る。GⅠ天皇賞・秋(東京・芝2000m)では1番人気ながら6着、続くジャパンCでは4番人気で11着と大敗してしまったのだ。
年齢的にも上がり目はないと見られ、「オグリは終わった」という声も囁かれ始めた。
そうした状況にあって、陣営は続く有馬記念を引退レースに決めた。そしてこのレースでは、天才・武豊騎手が安田記念以来2回目の鞍上を務めることとなった。
当日は、単勝4番人気でレースを迎えたオグリキャップ。この人気は、勝ちを期待してというより、最後のレースだからこそ、今までの感謝を込めて馬券を買った人が多かったのではないだろうか。それほどここ2戦の走りは"らしさ"を失い、有終の美を飾るには難しい状況にあったのだ。
ゲートが開くと、オグリキャップは中団を追走。武豊騎手と息ぴったりの折り合いを見せる。動きを見せたのは、3コーナーに差し掛かったあたり。
今日は勝てないまでも、これなら健闘できるかもしれない。ファンのそんな想いが去来するなか、怪物はそのまま外から先頭に並びかけて直線へ。明らかにここ2走とは違う雰囲気を見せた。
内から同じ芦毛のホワイトストーン、外からはメジロライアンが猛追するが、この日のオグリキャップは譲らない。中山の急坂で先頭に立つと、そのままライバルを封じ込んで1着をもぎ取った。中山競馬場には地鳴りのような歓声が轟いた。
ゴール後は、武豊騎手が左手を高々とかかげ、その後、すぐさま"オグリコール"が場内に鳴り響いた。涙を流す人がたくさんいたのは言うまでもない。日本の競馬史に残る瞬間だった。
レースが終わってからも、奇跡の復活劇を特集する番組などが作られ、オグリ旋風はしばらく続いた。このレースを日本競馬のベストシーンに挙げる人も少なくない。
地方から中央へ移籍し、数々の伝説を残したオグリキャップ。ファンにさまざまな夢を見せてくれた屈指の名馬である。