小島大河(明治大4年)はプロで捕手を守れるのか──?
それは、2025年ドラフト会議を左右する関心事と言えるかもしれない。
例年と比べて捕手に有望株が少ない今年のドラフト戦線だが、小島は「注目度ナンバーワン捕手」と言っていいだろう。
ただし、守備の評価は難しい。スローイングの動作はお世辞にもスムーズとは言えず、下半身が突っ張った状態で送球するシーンもよく見られる。現段階では「打撃優位型の捕手」という位置づけだろう。
【現時点での評価は?】
小島の守備力について、スカウトの本音を聞き出すのは難しい。もし「プロでも十分に捕手ができる」という評価であれば、当然ながら有力なドラフト1位候補になる。とくに補強ポイントにしている球団からすれば、のどから手が出るほど欲しい人材に違いない。
一方で、仮に守備力を評価しないスカウトがいたとしても、アマチュア選手に対してあからさまに否定的なコメントもできないだろう。
そんななか、あるスカウトが「ヒント」を与えてくれた。そのスカウトは「過去の攻撃型捕手を並べてごらん」と言って、こう続けた。
「大学生なら佐藤都志也(東洋大→ロッテ)、頓宮裕真(亜細亜大→オリックス)、高校生なら森友哉(大阪桐蔭→西武→オリックス)、社会人なら大城卓三(NTT西日本→巨人)......。頓宮はもうキャッチャーとして出場していないけど、高校時代に『キャッチャーとしては厳しい』という声もあった森は、今もキャッチャーとして出る試合もあるでしょう。プロで経験を積むなかで、技術が向上するケースだって多くある。
過去の事例を挙げてみると、小島も捕手としてプロで大成する可能性が見えてくる。現在、巨人で監督を務める阿部慎之助は、プロ1年目の春季キャンプで送球イップスを発症したことを告白している。それでも、2006年には盗塁阻止率.443を記録するなど、ゴールデングラブ賞4回受賞の名捕手になった。
小島本人は、自身の守備力についてどう見ているのか。直撃してみると、こんな実感を語ってくれた。
「キャッチャーにとって守備は大事ですし、自分はまだまだやらないといけないと感じます。キャッチング、ブロッキング、スローイング......すべての技術を上げていかないといけないですし、重点的に取り組んでいます」
小島は「まだまだ」というフレーズを繰り返した。自分のなかで、守備に対する確固たる自信はまだないということだろう。
【天才的と称されるバッティング】
ただし、捕手としての可能性を感じさせる要素もある。それは、捕手歴の浅さである。小島は東海大相模(神奈川)に在学した高校2年の冬、二塁手から捕手にコンバートされた。それまで捕手経験は、小学生時に1年ほど守ったことがある程度だった。
「急に言われたので、ビックリしました。最初はキャッチャーの動きが難しくて、練習を重ねるなかで徐々にそれっぽくなってきたかなと感じます。もともと内野をやっていたので、捕ってからの速さは武器として大事にしていきたいです。高校の頃は『この先もキャッチャーでやっていけるのかな......』と不安もあったんですけど、今はもう覚悟を決めました」
もし、捕手をやっていなければ、どうなっていたと思うか。そう尋ねると、小島は「本当に難しいですね......」と考え込んだ。
「別の道へ行くほうがよかったのか、悪かったのか、わからないです。ただ、キャッチャーをやっていたからできた経験もありますし、今はプラスに考えています。普段からいろんなピッチャーのボールを見る機会が多いので、いろんな軌道に目が慣れて、バッティングに生きている部分はあると思うので」
武器である打撃に関しては、「天才的」と評価するスカウトもいる。
右投左打の小島は、一度見たら忘れないダイナミックな打撃フォームをしている。右ヒザを胸の高さまで大胆に上げてボールを呼び込み、鋭い打球を広角に散らす。大きなアクションにもかかわらず、正確にバットの芯でとらえられる。
ただし、小島は自身の打撃フォームについて、「あそこまで足を高く上げようと思って、上げているわけではないです」と明かす。
「自分の打ちやすさを優先するなかで、タイミングをとる一環として足を上げています。だから、自分のなかで足を高く上げている意識はなくて、あとで映像を見て『こんなに上がってたんだ』と驚きます。言葉にするのは難しいんですけど、自分のなかで足を上げるポイントが決まっていて、あれが一番打ちやすい形なんです」
今まで打撃フォームを誰かにいじられたことはなく、自分の感性を頼りにつくり上げてきた。小島は「バッティングは理論派ではなく、感覚派です」と笑う。
【勝てる捕手としての経験値】
また、仮に捕手として挫折した場合でも、小島には生き残るための選択肢がある。それは「内野手適性の高さ」だ。
今春はリーグ戦中に左脇の肋骨を骨折するアクシデントがあり、復帰後は一塁手としてプレーした。さらに昨年の大学日本代表候補合宿では、二塁の守備位置に入ってプレーするシーンもあった。小島は「セカンドは一番経験がありますし、今でも内野は守れます」と語る。もちろん、今は捕手として高みを目指しているものの、他ポジションを守れる資質は、小島の大きな財産になるだろう。
最後に小島に聞いてみた。自分が捕手として成功するとしたら、どんな捕手になるイメージを持っているのか、と。
「勝たせられるキャッチャーです。走攻守トータルして、そこを目指してやっていきたいです。高校、大学とトップレベルを経験させてもらっていると感じますし、これからも満足することなくやっていきたいです」
東海大相模では、3年春に「背番号4」を背負う急造捕手ながら、センバツ優勝に貢献。明治大では2年春の大学選手権で準優勝を経験している。高校、大学で全国トップクラスの名門でプレーし、数多くの逸材投手のボールを受け、勝利の味を知ってきた。「勝てる捕手」としての経験値こそ、小島がもっとも勝負できる要素なのかもしれない。
小島は今夏、日米大学選手権を戦う大学日本代表メンバーに選ばれた。これから渡部海(青山学院大3年)や前嶋藍(亜細亜大3年)と、ハイレベルな正捕手争いが展開されることになる。
日米大学選手権でも、捕手として日本代表を勝利に導くことができれば......。「捕手・小島大河」の株は、秋に向けて大きく値を上げるはずだ。