【MLB】メッツ・千賀滉大への揺るぎない信頼 現在は負傷離脱...の画像はこちら >>

前編:千賀滉大、メジャー3年目の現在地

右太もも裏の負傷で故障者リスト入りを余儀なくされたニューヨーク・メッツの千賀滉大。だが、それまではメジャー3年目の今季は開幕からリーグトップクラスの投球で相手を圧倒。

チームの開幕ダッシュを支えた大黒柱の役割を十二分に果たしてきた。

幸い、ケガは昨季ほど長きにわたるものではないだけに、ファンやチームにとってもひと安心だが、ここではメッツの面々のコメントを中心に千賀の存在感を浮き彫りにする。

【メンドサ監督&主砲アロンソが見せた落胆】

「すごく調子もよく、順調に回復して来ているなと思います」

 6月23日、米メディアとの囲み取材でニューヨーク・メッツの千賀滉大が残したそんな言葉は、ニューヨーカーが何よりも欲していたものだったのではないか。右太もも裏(ハムストリングス)の張りで負傷者リスト入りした千賀がメディア対応するのは6月13日に故障が発生して以降、これが初めてだった。

「このまま順調にいけば、(マイナーでのリハビリ)登板も近いのかなと思っています」。そんな言葉を聞く限り、エースの復帰は遠くなさそうだ。

 昨年7月、左ふくらはぎを痛めた際にはプレーオフまでマウンドに戻ってこられなかったが、今季はそんなことはない。このポジティブなニュースはメッツの選手たちとファン、関係者を勇気づけるのに十分だったはずだ。

 わずか10日前――。メッツの本拠地シティフィールドでのワシントン・ナショナルズ戦の試合後、メッツのクラブハウスには重苦しい空気が漂っていた。

 千賀にアクシデントが起こったのは6回表のこと。ナショナルズの1番打者CJ・エイブラムズの一ゴロで一塁ベースカバーに入った際、ピート・アロンソ一塁手の送球がそれ、ジャンプして捕球。着地しながらベースを踏んだが、その瞬間、右太もも裏を抑えてグラウンドで苦悶の表情を浮かべた。

直後、ベンチからもトレーナーなどが飛び出し、そのまま降板となった。

「ハムストリングの張りだ。彼はIL(故障者リスト)入りする。どうなっていくかは待ってみなければいけない」。カルロス・メンドサ監督は落胆を隠さずにそう述べ、結果的にケガの要因を作った形になったアロンソも明らかに意気消沈していた。

「ひどい気分だ。ベースボールのプレーを決めようとしただけ。できる限りの送球をしようとしたが、ああいう状況になってしまうのは最悪だ。千賀はここにいる仲間のひとり。誰かが倒れるのを見るのは辛い。シーズン中はいろいろなことが起こるものだが、あんなことは起こらなければよかったのに......」

 アロンソは、通訳を通じて「(一塁ベースへの送球を捕球する)ジャンプの前のステップで(すでに異常を)感じていた。だから責任を感じないように」と千賀から伝えられていたという。

それでも今季、鈴木誠也(シカゴ・カブス)、ユジニオ・スアレス(アリゾナ・ダイアモンドバックス)らとナ・リーグ打点王を争う主砲の心が晴れることはなかった。

【千賀離脱後にチームは失速】

 負傷するまでの千賀は今季13度の先発機会で7勝3敗という好成績を残し、先発ローテーションを支える存在だった。防御率1.47は堂々のリーグ1位。日本人投手としては初の防御率タイトル獲得も夢ではなく、1年目以来のオールスター選出も濃厚だったのだろう。

 千賀の活躍は、今季に限った話ではない。メジャー3年目でここまで20勝10敗、防御率2.53。2023年途中から"30試合連続3失点以下"はサイ・ヤング賞2度のジェイコブ・デグロムに次ぐメッツ史上2番目の記録であり、メジャー史上でも6番目の長さ(1920年以降)。マウンドに立っている限り、メッツの背番号34は現役屈指の結果を出してきた先発投手だと言っていい。

「フォークボールが彼の決め球であり、それに加えて96マイル(153.6キロ)必要ならば97マイル(155.2キロ)に届く速球を持っている。カッターもあるし、スイーパーもある。スローなカーブもあるし、どんな状況でも投げられる球がたくさんある」

 メンドサ監督がそう述べていたとおり、32歳の右腕の信頼度は際立ってきた。それほどの投球を継続して来た千賀にとって、ほとんど唯一の難敵は健康をキープすること。

1年目こそ12勝を挙げて新人王投票で2位、サイ・ヤング賞投票でも7位に入ったが、2年目の昨季は前述どおり、度重なる故障でシーズン中の登板は1度しか叶わなかった。急ごしらえの印象もあったプレーオフでも3試合で防御率12.60と不本意な成績に終わっただけに、迎えた3年目にかけるモチベーションは高かったはず。実際、その意気込みどおりに優れた成績を残していただけに、"千賀再離脱"のショックはチーム内外で大きかったのである。

 千賀が倒れた6月13日の時点でのメッツは2位に5.5ゲーム差をつけ、ナ・リーグ東地区の首位を独走体制だった。直後、"千賀離脱ショック"のチームが7連敗、11戦中10敗と崩れ、一時はフィラデルフィア・フィリーズに抜かれて2位に陥落したのは驚きではなかった(注・現在は首位に0.5ゲーム差)。

 2025年は本格派左腕のデビッド・ピーターソン(5勝4敗、防御率3.00)、新加入のクレイ・ホームズ(8勝4敗、防御率2.97)、グリフィン・キャニング(7勝3敗、防御率3.77)といった先発投手たちが予想以上の好成績を収めてきた。それでも大黒柱になり得る力を持った千賀の存在なしに、プレーオフでの上位進出は考え難いというのが正直なところだ。

 だからこそ、千賀の最新の故障がそれほどの重症ではなかった意味はメッツにとって大きかった。早期のカムバックが可能ならば、またチーム全体が盛り上がっていける。もちろんまだ千賀がプランどおりに復帰できると決まったわけではないが、勝負の後半戦に向けて、メッツファンが心のよりどころを得たことは間違いないはずだ。

つづく

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