東京ヴェルディ・アカデミーの実態
~プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第2回)
Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。この連載では、その育成の秘密に迫っていく――。
第1回◆東京ヴェルディ・アカデミーがプロで活躍する選手を輩出し続けているわけ>>
2025年の今季、東京ヴェルディのトップチームには、ふた桁の10人に達するアカデミー出身者が選手登録されている。
最年少は、今年19歳になったばかりのふたり、山本丈偉と川村楽人。川村は今季、山本はまだ高校3年生だった昨季、いずれもユースからトップチームに昇格した。その他、ユースチームを掛け持ちする2種登録の選手も加えれば、アカデミー出身者の登録人数はさらに増える。
キャプテンを務める森田晃樹を筆頭に、自前のアカデミーで育った選手が数多くトップチームで活躍していることは、ヴェルディの誇るべき特徴だと言っていいだろう。
アカデミーでヘッドオブコーチングを務める中村忠が語る。
「やっぱり、アカデミーの子たちは(トップチームに)憧れていますからね。(2023年の)J2での最後の盛り上がりとか、勝負にこだわった戦いとか、見ていても本当にハラハラドキドキするようなゲームで(J1昇格プレーオフを)勝ち上がって、J1に昇格していく。それをみんな目の当たりにしているので、アカデミーもやらざるを得ない。そういう活気がこのグラウンドに満ちていて、アカデミーにも伝わりました。
ヴェルディのよさっていうのは、全カテゴリーが同じ敷地で、同じクラブハウスで活動しているところ。アカデミーも、ずっと(伝統として)継続している技術の部分だけでなく、勝負にこだわるとか、そういう部分も(トップチームから)伝染していって、ここ2、3年は相乗効果となって、少しずつ結果が出始めた。
中村の言葉どおり、確かに一昨季、あるいは昨季のヴェルディの戦いぶりには、見るものの心を動かすものがあった。昨季開幕前にはJ2降格候補と目されていたように、戦力的に見れば他クラブに見劣りしたかもしれないが、ファイティングポーズだけは絶対に崩すことがなかった。
「守備において誰かがサボったら、このチームはJ1で戦えない」
「J1残留は絶対の、最大の、等身大の目標だが、それに満足せずサプライズを起こすんだ」
これらは2024年、トップチーム監督の城福浩が常に口にしていた言葉だ。その姿勢を貫いた結果が、J1昇格1年目での6位である。
とはいえ、J1での躍進はわずかに1年前の話だ。その熱がアカデミーに伝わったのは確かだとしても、2023年以前の18年間で、ヴェルディがJ1にいたのはわずかに1年。さかのぼれば、17年もの間、ヴェルディはJ2のクラブだったのである。
これではトップチームがずっとアカデミーに好影響を与え続けていたとは考えにくく、むしろトップチームが長らくJ2にいたことは、アカデミーの足かせになっていたのではないか。そんな疑問さえ浮かんでくる。
中村は言葉を選びながら、厳しい現実を明かす。
「ヴェルディが10 年以上J2にいて、徐々に小学生や中学生だったりが......、なかにはうちでやりたいという選手もいますけど、なんて言うんですかね......。
その年代のトップトップの選手は、(川崎)フロンターレさん、(横浜F・)マリノスさん、FC東京さん、横浜FCさん(のアカデミー)に行くなかで、言い方は悪いですけど、その時点では次のランクの選手にうちに来てもらうようになりました。
(ヴェルディに入ってくる選手は)小学生のときには、それほど突出した力がなくても、うちのジュニアユースやジュニアに入ってきて力をつけるっていう、晩熟型の選手が多かったのは事実かな、と思います」
クラブに専門のスカウトを置き、有望な素材の獲得に力を注ぐのは、プロの世界だけの話ではない。それはアカデミーでも当たり前に行なわれていることであり、「どこのクラブでも、今は(小学生を対象にした)ジュニアの段階でスカウトを2、3人置いている」とは、中村の弁だ。
「うちはスカウトという役職ではひとりだけですけど、スタッフみんなで協力していろんなところを見に行ったり、それを踏まえて練習会やセレクションをやったりしながら、うちに目を向けてもらう。そういう仕組みになっています」
そんな争奪戦のなかにあっては、日本のトップリーグに属するJ1クラブのほうが、事を有利に進められるであろうことは想像に難くない。
「選手だったら、より華やかな(J1の)クラブでやりたいっていうのはあると思います。やっぱり(ヴェルディが)声をかけても、どうしても......」
言いよどむ中村の様子に、かつてはなかった苦労がうかがえた。
(文中敬称略/つづく)