バスケ女子日本代表の未来を背負う19歳・田中こころの頼もしさ...の画像はこちら >>

後編:バスケ女子日本代表、2028年ロス五輪への船出

コーリー・ゲインズ氏を新指揮官に迎えて2028年ロサンゼルスオリンピックへ始動したバスケットボール女子日本代表。経験豊富なベテランと新戦力が入り混じるメンバー構成のなか、将来の代表チームを背負う存在として大きな期待を寄せられているのが19歳の田中こころだ。

チーム最年少ながら大先輩にも物怖じしないメンタル、アンダーカテゴリーの代表でも発揮してきた思いきりのよさはトップ代表においても光を放ち、さらなる伸びしろを感じさせる。

ゲインズHCの目指すチームづくりにおいて、早くもキープレーヤーとしての存在感を発揮している。

【代表デビューの強化試合シリーズでいきなりMVP】

 例えば渡嘉敷来夢(アイシンウィングス)や宮澤夕貴(富士通レッドウェーブ)の高校時代やWリーグに入った頃の活躍を、年齢差から考えればほとんど知るはずもない。換言すれば、彼女からすればふたりのような選手は雲の上と呼べるほどの存在だ。

 なのに、19歳の田中こころ(ENEOSサンフラワーズ)がそういった日本の女子バスケットボール界の偉大な先輩たちに対して、雲の上に向かって話をしているようなところはない。冷やかすとまではいかないまでも、後輩だからといって身を固くして、年長選手たちと距離を置くようなこともない。

 先に断っておくが、田中はそうした態度を取っていても、敬意を欠いているわけではない。渡嘉敷ら年長者たちも懐が深く、むしろ田中の無邪気な「いじり」を楽しんでいるようにも見える。

 いずれにせよ、誰に対しても物怖じすることなく接することができる田中という選手が頼もしい。今春、コーリー・ゲインズ氏が新ヘッドコーチ(HC)として始動した女子日本代表チームの25名の候補者名簿には従前、そこにあまり縁のなかった選手や新顔も多かった。そのなかで、田中は最も注目度の高い注目株と見られている。

「やっぱり楽しみなのは、田中こころですね」

 6月上旬、ゲインズHC体制となって初の対外試合となったチャイニーズタイペイ戦の前日。ともにプレーをするのが楽しみな選手と問われた渡嘉敷は最初、桜花学園高での2学年年長の髙田真希(デンソーアイリス)を挙げたが、直後、同じく桜花出身ではあるものの、自身よりも15歳も年下の新星の名前を口にした。

「今回、(一緒にプレーをするのが)初めてですけど、日本のバスケットをしっかりと背負って、これから引っ張っていってほしいなと思います」

 新星とはしたものの、田中が暗闇から突如として出てきて光を強く放ち出したというわけでもない。名門・桜花学園高時代にはインターハイやウインターカップでの優勝を経験し、昨年のU18アジア選手権ではエースとして日本の銅メダル獲得に貢献。平均19点を記録するなど傑出した得点力を示して大会のベスト5に選出された。

 身長172cm、鋭く、力強いドライブインからの得点が最大の売りだ。思いきりもいい。先述のチャイニーズタイペイとの初戦で田中は、開始から10秒あまりで中央付近からいきなり3Pシュートをねじ込んでみせた。まったく躊躇のない打ちっぷりは、この試合がA試合での初出場となった彼女が何者であるかを、まずは示したものとなった。2試合が終わって、田中は大会のMVPに選ばれている。このうえないデビューだったとしていい。

【ゲインズHCとの出会いで変わったPGの概念】

バスケ女子日本代表の未来を背負う19歳・田中こころの頼もしさと無邪気さ 「アジアトップPG」への第一歩
田中は高校の大先輩に当たる渡嘉敷(左)らベテランにも物怖じしない photo by Kaz Nagatsuka

 通常はSG(シューティングガード)を担うのが基本の田中は、ゲインズHCの代表チームではPG(ポイントガード)としてコートに立つことが主である。ボールを素早く前に進めることや高い得点力を期待されてのことだ。田中はゲインズHCの志向するバスケットボールを体現する存在であり、多少大仰に言えば同HCの「申し子」という感じがしなくもない。

ゲインズHCは田中にはまだまだ大きな成長の余白があるものの、「教えようのない彼女なりの技術と特性」があると評している。

「彼女にはアジアでもトップのPGのひとりになれるようにしてあげたいと伝えています」

 自身もNBAなどで司令塔としてプレーをしていたゲインズHCは、そのように話している。速いペースでプレーをすることが同氏の強調することのひとつである中で、6月中旬の中国遠征の2試合目において日本はそれができず、大差で敗れた。同氏はその背景には「その試合ではココ(田中)をあまり器用しなかった」ことを挙げている。このことからも田中がチームにおいて主要な役割を担っていることが垣間見える。

 田中自身もゲインズHCと出会ったことを「概念が変わった」として、意義を見出している。

「PGの役割ってみんなにパスをしたりするものだと思っていたんですけど、コーリーのバスケットに出会ってからは、難しいポジションではあるんですけど、何でもしていいポジションでもあると伝えられて、PGの概念が変わりました。自分はずっとSGとして高校時代はやっていて(所属のENEOSでも同様)、PGになってギャップがあるかなと思っていましたが、コーリーのバスケットではそんなことはなく、自由にやらせてもらっています」

 こう語った田中。「アジアのトップPGのひとり」になることなど露ほども考えたことがなかったというが、「期待に応えないといけない」という気持ちを強くもしている。彼女の成長は、日本代表の進歩に直結するといっても過言ではあるまい。

 中国遠征はいうまでもなく、日本にとっての完全なる敵地だったと選手たちは述べている。しかし田中は、スタンドからの地元・中国に対しての歓声を「途中からは私たちの応援をしているんじゃないかって錯覚するくらいには思っていました」と、無邪気さと豪胆さを感じさせるようにそう語った。

 アジアカップも中国が舞台となるが、それについても田中は屈託がなかった。

「好きかもしれないですね。自分が活躍して中国のベンチが黙って、シーンとなる感じが。急にお葬式みたいになるのが好きですよね。うっふっふ」

 女子日本代表チームのこれからを担っていく若き司令塔・田中こころは、頼もしさと無邪気さの混在した司令塔だ。

編集部おすすめ