福田正博 フットボール原論
■J1最下位に低迷している横浜F・マリノスが苦しんでいる。2度目の監督交代が行なわれたが、ここからの巻き返しの見込みはあるか。
【選手に同じ方向を向かせるのが難しくなる】
横浜F・マリノスがますます厳しい状況に追い込まれている。6月15日のアルビレックス新潟戦で0-1と敗戦。6月25日のFC東京戦は0-3で敗れてリーグ3連敗。6月28日の湘南ベルマーレ戦は1-1の引き分け。これで22戦を終えて3勝6分13敗の勝ち点15、最下位の20位。残留を争う新潟(19位、勝ち点19)、FC東京(16位、勝ち点26)らに勝ち点3を与えたのは痛い(7月2日時点、残留圏内の17位・湘南との勝ち点差は8)。
今季のマリノスはスティーブ・ホーランド監督体制のもとで出発したが、1勝5分5敗の勝ち点8と苦しみ、4月にホーランド監督を解任してヘッドコーチだったパトリック・キスノーボを監督に据えた。だが、2勝6敗と状況は改善するどころか悪化の一途で、6月19日にキスノーボ監督を解任し、大島秀夫監督体制へと移行した。この状況になると、選手のモチベーションをいかに向上させるかが監督に求められる。
マリノスにはもともとクオリティーの高い選手が揃っている。個が強い選手というのは、チームが低迷するとひとつにまとまり難い面があるが、逆にこれを大島監督がうまくまとめることができれば、能力の高い選手たちによってV字回復する可能性はある。
ただ、言葉にする以上に、これは難しい仕事だ。
来季の所属先を見つけるために、チームプレーよりも自己アピールに走る選手が現われる可能性はあるし、夏の移籍期間に新たなチームへと移る決断をする選手もいるだろう。それは選手たちの権利であるため、咎めるものではない。
それだけに「残留のために」と同じ方向を向かせることは、容易(たやす)くはないのだ。
【攻守に人材のテコ入れはできるか】
選手に関して言えば、マリノスが残留するために必須なのは、センターバック(CB)の人材難の解消だ。ジェイソン・キニョーネスが戦線離脱となり、諏訪間幸成もケガ。最近はトーマス・デンの相方として本来はサイドバックの松原健を起用していた。CBに人がいないのだ。夏の移籍期間でテコ入れしないことには、巻き返しもままならずに終わってしまうかもしれない。
また、大ナタを振るうならば、攻撃陣も選択肢に入れていいだろう。現在は1トップにアンデルソン・ロペス、右にヤン・マテウス、左にエウベルを置くケースが多いが、この外国人トリオが機能していないのだ。とりわけ2年連続得点王のアンデルソン・ロペスは開幕戦のPKで挙げた1ゴールのみ。
復活を期待して粘り強く起用する手もあるが、もはやそれを待つだけの時間もないのが実情だ。新たな風を攻撃陣に取り込む判断があってもいい。それくらいのショックの大きな手立てがなければ、チーム状況の劇的な改善は望むべくもない。
リーグ戦では一般的に、シーズントータル勝ち点の3分の2前後が優勝ポイント、3分の1前後が残留のボーダーラインになっている。20チームで争うJ1の場合、1チーム38試合を戦い、獲得可能な勝ち点総数は114。その3分の2なら76、3分の1なら38となる。
とはいえ、突出するチームがいない現在のJリーグでは、優勝ラインは76よりも下がり、残留ラインは38よりも高まる傾向にある。そのため、勝ち点40前後が残留の目途となっている。
【1勝1分1敗以上のペースが必要】
これに照らし合わせると、マリノスが勝ち点40に到達するには、残り16試合で勝ち点25を積み上げる必要がある。2019年、2022年にリーグ優勝をした頃ならば、簡単に達成できるような勝ち点だが、現状のマリノスにとっては相当な困難な数字だろう。
仮に3試合を1勝1分1敗の勝ち点4ペースで行けたとしても、最後の1試合を残して勝ち点20という状態なのだ。
ただ、マリノスの選手たちのポテンシャルを踏まえれば、ひとつ波に乗れれば5連勝くらいはできる力がある。それだけに大島監督には、選手たちが失っている自信を取り戻させるチームマネージメントを見せてもらいたいし、クラブにはここまでの監督選びでのマイナスを取り戻す働きをしてもらいたいと思う。
それができなければ、1993年のJリーグ開幕以来、一度もJ2降格がないマリノスと鹿島アントラーズの牙城が、ひとつ崩れてしまうことになる。オリジナル10としてJリーグを牽引したクラブとして、夏場からの巻き返しを期待したい。