五輪2連覇など華々しい成績を残したのち、プロフィギュアスケーターになっておよそ3年、いまも多くのファンを魅了しつづけている羽生結弦。その日も羽生が氷上に姿を見せると、詰めかけた大観衆からどよめきが上がったーー。
【新リンクのボルテージ最高潮】
7月5日、仙台市。国際規格を満たした通年型アイスリンクを新設したゼビオアリーナ仙台(仙台市アリーナ)の初お披露目イベントとして、アイスショー『The First Skate』が開催された。
羽生をはじめ、本田武史や鈴木明子、本郷理華といった仙台にゆかりがあるプロスケーター4人が出演。また、仙台で練習を積む小山蒼斗(東北高)や吉田けい(宮城FSC/常盤木学園高)などの若手スケーター24人もリンクに立った。

オープニングでイナバウアーを披露して会場を盛り上げた羽生は、大トリで再登場。北京五輪のエキシビションでも使用した名プログラム『春よ、来い』をしっとりと演じて、直後のアンコールで今度は『Let Me Entertain You』をキレよく踊る。そこで会場のボルテージは最高潮に達していた。
「地元のスケーターのみんなと一緒にひとつのショーをつくり上げた楽しさと、それを仙台の方や仙台に集まってくださった方々に対して発信できたのはすごくよかったなと思います」
ショーの直後、羽生は充実した表情でそう話した。
【新リンクは「演技の質感を感じられる」】
仙台といえば、青葉山公園内にある五色沼は、日本フィギュアスケート発祥の地として知られる。その歴史にふさわしく、仙台からは羽生と荒川静香のふたりの五輪金メダリスト、近年では2024年GPファイナル3位の佐藤駿や2025年世界選手権3位の千葉百音など、数多くのトップスケーターを輩出している。
そんなフィギュアスケートの「聖地」に新たなに誕生した本格アイスリンクは、仙台を拠点とするスケーターにとって心強い存在になる。出演スケーターたちは「スケートを身近に感じられる場所になったらうれしい」と口をそろえた。仙台で生まれ育ち、ずっと地元を大切にしてきている羽生にとっても喜びはひとしおだろう。


羽生は、「世界トップを狙っていくとどうしても恵まれた環境へ行かざるを得ないことが僕を含めてあって。
2012年にオープンしたゼビオアリーナ仙台では、もともとバスケットボールの試合やコンサートなどが開催されてきたが、今回、通年で使用できるアイスリンクにリニューアル。しかも、氷上に断熱材と木製の床を敷くことで従来のイベントも行なえるという、国内でも珍しい仕様だ。
羽生は、新リンクについて「(フロア)イベント用に作られた会場なので常設の氷を張るのは非常に大変な作業だったと思います。すごく感謝したいです」と話したうえで、実際に滑った感想をこう説明する。
「まだ張りたてではあるので、これからいろんな経験を積んで、もっともっと試合でも活躍してくれるような"氷"になってくれると思います。また、お客さんが入った時に表情がすごく見える、近くに演技の質感を感じられる会場のひとつだと思うので、ぜひ足を運んでいただけたらうれしいです」
【ショーをきっかけに何か一歩進んでほしい】
今回は、オープニングとエンディングで未来を担う"後輩"たちと共演した羽生。若手スケーターへはどんな思いがあるのだろうか。
「僕自身、本田さんや鈴木さんと一緒に滑ることが小さい頃からアイスショーであって、そのたびに非常に大きな刺激を受けた。小学6年生の頃からシニアのアイスショーに参加させていただいて、その時に間近で見るジャンプの迫力、表現力、スピードの緩急......いろんなことに刺激を受けました。そして勉強になりました。
今日滑った子どもたちが、僕らのなかからちょっとでも刺激を受けたり、また勉強になったり。

またスケートを続ける思いや今後に関わる質問に対しては、「体が動くうちは全力で、全身全霊で滑り続けたい」と答えた。
「ただひたすら自分が目指しているものであったり、また新しいものや理想だったり、そういったものを常にアップデートしながら、いいものを日本に、世界に発信できるように頑張っていきたいと思います」
今回のアイスショーで『春よ、来い』を選曲した背景には、「始まり」への思いを込めたという。「始まりがひとつのテーマであるので、自分にとっては始まりの季節・春というようなイメージで選ばせていただきました」と羽生。
「今日滑った子たち、そして見に来てくださった方々のなかで、(ショーを)見たことをきっかけに何かが始まったり、何か一歩を進めることができたらいいなという思い、祈りを込めて滑りました」
この日、新リンクで生まれた感動が、誰かの新しい物語につながっていきそうだ。
(文中敬称略)
