星野伸之が語るオリックスの前半戦 前編
46勝38敗3分けと8つの貯金を作り、前半戦を3位で終えたオリックス。リーグトップのチーム打率(.259)など、開幕前に心配されていたバッター陣が奮闘を見せた一方で、チーム防御率(3.36)はリーグ5位と低迷。
長らくオリックスのエースとして活躍し、引退後はオリックスの投手コーチも務めた星野伸之氏に、今季まだ3勝にとどまっているエース・宮城大弥の状態、さらにはピッチャー陣全体の現状について聞いた。
(※)成績は7月24日時点
【勝ち星が伸びない宮城大弥はどんな状態?】
――宮城投手の現状をどう見ていますか?
星野伸之(以下:星野) 防御率(2.47)は決して悪くないんですよね。なので、あまり負けもついていません(15試合登板で3勝3敗)。勝ち星が伸びない要因として考えられるのは、宮城の登板日に相手もエース級が投げてくることが多いということ。なかなか味方が点を取れないので、いいピッチングをしても勝ちがついてこないのかなと。ピッチャー心理として心配なのは、この流れが続いて「今年は勝てないな......」と思い込んでしまわないか、ということです。
それと、今季はセ・リーグもパ・リーグも防御率1点台や2点台前半のピッチャーが多いじゃないですか。防御率2点台中盤の宮城ですら防御率部門でリーグ6位ですし、ほかのピッチャーが頑張っていることも影響しているかもしれません。
――このような場合でのメンタルの保ち方は?
星野 経験上、自分の勝ち星は忘れて「チームが勝てればいい」と思えるくらい余裕ができると、逆に勝ち星がついてきたりもします。あと、僕も現役時代に何試合も勝ち星がない時期がありましたが、「頑張って賞金をもらって飲みに行こう」とか、小さな目標を設定したりもしていました(笑)。いずれにせよ、目の前の試合を大事にしていけば、いい流れは必ずどこかで来ますから、気持ちの糸を切らさずに投げ続けてほしいです。
――ピッチング自体はいかがですか?
星野 強いて気になる点を挙げるなら、少しクロスファイヤー(利き腕と対角線上のコースに投げ込む真っ直ぐ)が甘い時があるのですが、それでもバッターの手が出ない場面もけっこう見られますし、ボール自体が悪いわけではありません。
――前半戦の最後は、最下位のロッテに3連敗するなどチームの状態が落ち気味でした。後半戦で巻き返し、オリックスが優勝戦線に踏みとどまるためには、宮城投手の勝ち星が伸びていかないと厳しそうですね。
星野 それは間違いないです。ただ、勝ち星は伸ばせなくても、継続して長いイニングを投げてくれているんですよね。今はそれでいいんじゃないのかなと。勝負どころはまだまだ先にあるわけですし、これからさらに暑くなっていくなかで、リリーフの負担を減らしてくれているのは大きいです。
【投手陣のキーマンは?】
――宮城投手以外の先発ピッチャー陣はいかがですか?
星野 曽谷龍平、九里亜蓮はある程度計算できるので、彼ら以外のピッチャーがカギになると思います。期待しているのは東晃平です。6月29日の楽天戦で2回途中4失点とよくなかったので、7月10日の苦手なソフトバンク戦の登板で巻き返せるか注目していましたが、5回無失点と好投しました。チームも勝ちましたし、東にとっても非常に大きな試合だったなと思います。
――現在、東投手は1勝2敗ですが、勝ちがついてくるとチームも乗っていきそうですね。
星野 そうですね。先発に勝ちがつかなくなってくるとリリーフが苦しくなります。ただ、リリーフのやりくりは非常ににうまくやれていると思います。今年は古田島成龍の状態があまりよくないのですが、山岡泰輔が火消しの場面でいい働きをしています。現在は調整とリフレッシュを兼ねてファームにいますが、ルイス・ぺルドモ、アンドレス・マチャドも含めてリリーフの形はある程度見えてきました。
シーズン途中から加入した岩嵜翔もすごく今頑張っていますし、才木海翔も波がありながらも頑張っているなと。一軍に戻ってきた山﨑颯一郎も、前半戦最後のロッテ戦で連日投げて無失点に抑えました。颯一郎が勝ちパターンに入ってきてくれたら頼もしいんですけどね。
心配なのは、九里がけっこうな球数を投げているので、夏場に入ってきて疲れが大丈夫なのかなということ。曽谷は援護点をもらえているほうですし、引き続き打線とうまくかみ合っていけばいいですね。
――7月16日の楽天戦では、田嶋大樹投手が今季2度目の完封勝利を挙げました。
星野 東に加え、田嶋はキーマンになるでしょうね。一時は出場選手登録を抹消していたので、オールスターゲーム後に昇格させて投げさせ、それまでは髙島泰都を先発ローテーションに入れることもあるかな?と見ていましたが、結局は田嶋を投げさせていいピッチングをしました。
オールスターゲーム後は先発ローテーションを変えていくと思いますが、前半戦の最後にいいピッチングをした田嶋と東をどうするか、ここまで3試合に先発させているドラフト2位ルーキーの寺西成騎をどうするか。ファームにいる椋木蓮や佐藤一磨らの抜擢はあるか。宮城が勝ちを拾っていけるかどうかも含め、ポイントになってくると思います。
(後編:岸田護監督の采配の特徴 投手起用に長けた一方、課題は?>>)
【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。