後編:河村勇輝がシカゴ・ブルズと2ウェイ契約を締結した理由
河村勇輝のNBA2年目の挑戦は、シカゴ・ブルズの2Way契約選手としてスタートすることになった。
昨シーズンの経験から自身が成長できた部分、また引き続き克服至難の課題についてどのように向かい合っていくのか。
河村のプレーをサマーリーグで解説者として見届けたダレン・コリソンに、自身が低身長のPGとしてNBAで10年プレーした経験も踏まえて、現実的に河村がNBAに定着するためのポイントについて、心身両面の視点から語ってもらった。
前編:河村が「特別な存在になれる」と元NBAスモールPGが評価した3つの要素
【3ポイント成功率の向上は成長の証】
今夏、ラスベガスでのNBAサマーリーグで優れたプレーを見せたことが、河村勇輝がシカゴ・ブルズから2ウェイ契約を得る結果につながったことは間違いない。その魔法のようなパスが通るたび、スタンドのどよめきはしばらく鳴り止まなかった。"カネを払ってでも見たい"と感じさせる稀有な選手として認識された印象があった。
そのプロセスは昨季開幕前の流れを彷彿とさせる。去年の河村はメンフィス・グリズリーズと9月にエグジビット10契約を結ぶと、トレーニングキャンプとオープン戦で力を見せ、2ウェイ契約をゲット。同じポジションの選手にケガ人が出る背景もあり早期のNBAデビューにつなげていった。身長172cmというサイズのハンデをものともせず、アメリカでもその力を証明し続けているのは見事としか言いようがない。
もっとも、これまで河村の挑戦を追いかけてきた者は、サマーリーグでの支配的なプレーを見てももう驚きはしなかっただろう。去年の活躍を見ても、Gリーグやオープン戦では優れた働きができることはすでに示されていた。
ただ、昨季にしても、グリズリーズの一員として出場したNBAのゲームでは22試合で平均1.6得点、0.9アシストで終わったことは忘れるべきではない。プレータイムは大差がついた終盤に限られ、プレーオフでの選手登録も叶わなかった。そんな経緯、結果を振り返れば、アメリカでの2年目はさらに次のステップを踏み、NBAへの定着、ローテーション入りが目標となっていくのだろう。
そのためにやらなければならないことは、何なのか。NBAでも10年にわたって身長183cmと小柄なPGとしてプレーした経験を持ち、サマーリーグでは解説者として河村のプレーを見たダレン・コリソンは2つの要素を課題として挙げた。基本的に改善すべき点は去年から変わっていない。"ロングジャンパーの精度"と"ディフェンス"である。
「ジャンプショットは安定して決め続けることが必要だ。最近はかなりよくなってきているし、あとはディフェンスでもしっかりと競い合うことが求められる」
NBAの先輩司令塔であるコリソンの指摘どおり、渡米以降の河村の3ポイントは徐々に精度が上がっている。昨季、Gリーグでも後半戦の3P成功率は上がり、今回のサマーリーグでも同41.7%。1年目の途中、「相手ディフェンダーのリーチの長さ、距離感には適応が必要」という話をしていたが、徐々に慣れてきているのだろう。
3Pを10本のうち6本成功と高確率で決め、自らのスペースを開くことで20得点、10アシストというビッグゲームにつなげたサマーリーグ最終戦のジャズ戦は、わかりやすい例である。ジャンパーを決めれば自身、周囲ともにプレーは楽になる。NBAでも河村自身が基準として挙げていた3P成功率40%超えを果たせれば、オフェンス面ではより上質な貢献が可能になり、プレータイムは増えていくに違いない。
【「君にはチャンスがある。特別なことを成し遂げられるだけの力がある」】
そして河村にとって最大のポイントは、常にディフェンスである。特にサイズ、フィジカルの強さともに世界最高のNBAでプレーするのであれば、なおさらこと。サマーリーグ終了後にアメリカでの1年目との違いを問うと、河村自身は真っ先にフィジカル強化による守備の向上を挙げていた。
「この夏、しっかりとトレーニングを積み重ねて、ディフェンスの部分で当たり負けしないようにやってきたので、そこは成長を感じています」
とはいえ、あくまでNBAの基準で見た場合、ディフェンスはまだ平均レベルに達したとは言えまい。サマーリーグ中も特にスイッチ(状況によりマークする相手を代えること)の際にはより大柄な相手とのマッチアップに苦しみ、イージーバスケットにつなげられるシーンが見られた。NBAでコートに立てば、ターゲットにされることは間違いない。
自身も身長183cmと小柄な部類の選手だったコリソンは、身体を鍛えるだけでなく、強い意志を持って相手に当たっていくことが大事だと繰り返した。
「とにかく懸命に競い合うことだ。もっとガツガツいくことが大事だ。(サマーリーグでのジャズ戦でも)相手に対してよりフィジカルにプレーしようとしていた場面があったけど、ああいうプレーを続けていく必要がある。小柄なガードは、身長という面ではどうしても不利。そのぶんをフィジカルで補わないといけない。
そう語ったうえで、コリソンは河村が参考にすべき選手として、ひとりのレジェンドの名前を挙げた。こちらも身長183cmと小兵ながら、稀有なパスワークと身体の強さでスーパースターに上り詰めたクリス・ポールである。
「攻守両面でどうプレーしているかを考えるうえで、ポールはユウキにとって参考になる選手だと思う。あの身長で、どうやってディフェンスで勝負しているかを見るのは勉強になる。昨季インディアナ・ペイサーズの大躍進を支えたTJ・マコーネルもいいけれど、守備面ではまずはポールを見るのがいいと思う」
アンダーサイズでありながらプレッシャーのかけ方、手の使い方、プレーの読みに優れ、ポールは合計9度もNBAのオールディフェンシブチームに選ばれた(ファーストチーム7回、セカンドチーム2回)。スティール王も合計6度。華麗なオフェンスにばかり注目が集まりがちだが、その守備力もエリートレベルであり、確かに河村にとっても絶好の教材なのだろう。
昨季所属したグリズリーズほどのチーム力はないものの、ブルズはジョシュ・ギディー、コビー・ホワイト、アヨ・ドスンムが揃ったPGの層が厚い。2ウェイ契約を手にしたあとでも、河村がNBAのローテーションに食い込むのは生半可なことではないはずだ。それでも、先輩PGのコリソンはそのポテンシャルを信じ、取材の最後に筆者にメッセージを託していった。
「ユウキにこう伝えてくれ。『君にはチャンスがある。
サマーリーグでの見事なプレーを見て、同じように感じたファン、関係者は少なくなかったことだろう。そうやって周囲に期待させるのも河村の魅力のひとつであり、カリスマ性の所以に違いない。
勝負の2年目―――。日本が産んだファンタジスタがどこまで上昇できるかが本当に楽しみだ。