関田誠大は、東京五輪、パリ五輪と、日本代表の不動のセッターだ。
昨シーズン、新たに幕を上げたSVリーグでも、関田はそのトスワークでジェイテクトSTINGS愛知をチャンピオンシップ決勝まで導いている。
「関田(誠大)のプレーの組み立ては、正直に言って最高にすばらしかったと思う」
パリ五輪で日本と対戦したアルゼンチンの名セッター、ルシアノ・デ・セッコもそう言って関田を絶賛していた。
「我々も、そこの対応は苦労した。関田はいつも以上に選手たちを使いこなしていたと言える。チームとしての戦術的なプラニングもあるのだろうが、石川(祐希)、髙橋(藍)、西田(有志)などのスパイカーを自由自在に操っていた」
サイドだけでなく、ミドルもバックアタックも多彩なトス回しだった。
しかし、3年後のロサンゼルス五輪に向けては、新たなセッターの台頭も求められる。今回のネーションズリーグは関田がケガの治療もあって休養。その意味で、ひとつの試験の場になった。
永露元稀(29歳)、大宅真樹(30歳)というふたりの代表セッターの現在地は?
バレーボール男子ネーションズリーグ2025千葉大会、永露はセッターとしてドイツ、ブラジル、アメリカ戦で先発している。SVリーグ、大阪ブルテオンでレギュラーシーズン優勝にも貢献した永露は、身長192cmの高さを生かしたネット際でのプレーを得意としている。
そして高校生まではミドルブロッカーだっただけに、ブロックでも貢献できるセッターだ。
「セッター出身の高校の恩師から『上にいくなら、長身セッターはどうだ?』と言われて。入学した時、すでに身長が高くて、器用な面もあって、練習ではセッターをやっていました。試合ではミドルで出ていましたが、"イチからセッターを学ぶほうが伸びしろはある"と思って。大学で正式にセッターになったので、当時の試合では"丁寧に上げる"しかなかったですが」
【アルゼンチン戦では流れを変えた永露】
その堅実さは、むしろセールスポイントだろう。何より、コート上で高さは汎用性が高い。日本トップレベルのセッターになったのは必然だ。
ネーションズリーグでも、ドイツ戦は先発でストレート勝利に貢献している。
「スタートは硬さがあったし、自分もチームも、そこでひとりひとりが声掛けしていました。試合を通し、成長することができたと思います」
永露はそう言って、コートの中の景色を語っている。
「(ドイツ戦で最多得点だった宮浦には)シンプルで、複雑なこと言われず、こういう時はこういうパスって感じでやっていました。(特に2セット目以降は)ノリに乗っている選手だったし、準備もできていたので、バックライトに上げていましたね。チームとして乗れるために決めてくれたと思います」
アルゼンチン戦では先発の座を譲ったが、途中から出場し、劇的に流れを変えた。
「小川(智大)、永露の投入が流れを変え、宮浦(健人)が次々にスパイクを決めるようになった」
アルゼンチン代表で、2024-25シーズンはSVリーグの日本製鉄堺ブレイザーズで戦ったアウトサイドヒッター、ルシアノ・パロンスキーは大逆転で敗れた試合を振り返って、こう続けている。
「大宅はSVリーグ王者のセッターだったし、永露も強豪大阪ブルテオンでセッターをしていた。どちらも好きだし、能力の高いセッターだよ。自分はブレイザーズの選手として対戦したからよく知っている。日本を代表するセッターとして、関田が代表に戻ってきても、いい争いになるんじゃないかな」
アルゼンチン戦だけを見れば、永露が一歩リードか。
一方、大宅は実績では永露を上回っている。2023-24シーズンにはサントリーサンバーズ大阪で年間MVPを受賞し、2024-25シーズンはSVリーグ初代王者のセッターとして、ドミトリー・ムセルスキー、髙橋藍を巧みに操った。
「大宅選手とパスのタイミングは合わせてきました」
SVリーグでともに王者となった髙橋は、コンビネーションを重ねたことが結果につながったと振り返っていた。
「(スパイクで)大事なのは(ジャンプとトスの)スピードが合うか、合わないか。空中でボールを待っていることもあったので、早く入りすぎなのか、トスが遅いのか。そこは本数を重ねながら、お互いが要求し合い、テンポを調整してきました。ふたりでプレー動画を見返し、"もう少し早く""もう少し(球足を)延ばして"と詰めながら」
そしてファイナル進出がかかったアメリカ戦の3セット目、大宅は22-22の状況で出場すると、速いライナー性のパスで髙橋のレフトからのスパイクに合わせている。さらにアンダートスから加点に成功。そしてマッチポイントでは、髙橋の華麗なバックアタックを演出した。
「競争や比較はあると思いますけど、自分自身も、今の状況で成長できるように。今までは関田選手がひとりで出続けて、今はふたりが助け合ってやれている感じなので」
そう大宅は言う。競争が起爆剤になるか。
ブラジル戦、コート外から試合を観ていた石川祐希が大宅について話している。
「今日は結構攻めた彼らしいトス回しだったと思います。今は試合に出たり出なかったり、というところで、"ミスをしたくない、ミスができない"という状況だと思いますけど、彼らしいトス回しに期待したいです」
7月30日、ネーションズリーグはファイナルラウンドが中国で開幕。準々決勝、日本はポーランドと戦う。パリ五輪銀メダルの強豪との対決は、セッターの切磋琢磨にあつらえ向きだ。