バレーボール男子ネーションズリーグ2025千葉大会。0-3とストレートで敗れたブラジル戦の髙橋藍は、自分に苛立っているように映った。

リードされた展開で、ベンチに下げられていた。

「スタートから出すけど、(連戦による疲労も考えて)途中で変えるかもしれない」

 ロラン・ティリ監督からは前日に伝えられており、戦略的判断だった。本人も「すべてはチームのため」と十分に理解していた。しかし、筋金入りの負けず嫌いとは、理屈ではわかっていても"負ける"という現実を憎む者である。

髙橋藍が敗北のあとに見せた「反撃力」 強豪ポーランド戦で真価...の画像はこちら >>
 もっとも、気持ちを整理した試合後の髙橋は、いつもの爽やかで明るい顔つきになっていた。

「チームは強化段階で、常に進化しているところです。負けてしまいましたが、ポジティブに捉えられる結果で。"いい負け"だったと思います。この戦いで、何が足りなかったか、を見極めたいですね。トップレベルのチーム相手だと何ができないのか。個人的には、20点以降で得点を取る力が必要になってくると思います。そこが気づけた、というのは大きくて」

 高橋はそう言って、徹底した勝負論から、敗北とも正面から向き合っていた。

彼の勝負強さの根源は、その姿勢にあるだろう。

「コンビネーションの細かいところで、レベルアップが必要になってくると思います。たとえば自分自身、1セット目は細かいミスが出ました。フィーリングや体の感覚は悪くなかったので、反省するポイントですね。(石川祐希不在のキャプテンで)エースという立場で力が入りすぎたのか、コースを狙ったボールがアウトになったり、少しネットに触ったり、で乗りきれない部分がありました」

 そう語る髙橋は、自分のプレーを叱咤した。

「出だしのところで得点につなげられないと、試合は難しくなる。その1点で乗っていけるのが、ミスが出ると"決めないと"って。そこの責任は感じています。2セット目はリバウンドやラインを抜いて冷静にプレーして、そこから上げていけるかなって。途中で変えられてしまったんですけど、それを1セット目から出すことが重要だったと思っています」

【アメリカ戦で見せた「反転攻勢」】

 ブラジルに敗れたあとの予選ラウンド最後のアメリカ戦で、日本は3-0とストレートで勝利し、見事に決勝ラウンド進出を決めている。少なくとも2セット以上を取る必要があった。重圧を感じるゲームだった。

 だが乾坤一擲、髙橋はひと際輝いた。両チーム最多の18得点を記録。相手ブロックにしつこくつかれても、空中でコースを見極め、ブロックアウトを狙い、半身で打ち、両手でプッシュし、相手を手玉に取っていた。一方でバックアタックは豪快そのもので、自慢のディフェンス力の高さも見せ、まさに勝利のヒーローだった。

 反転攻勢の光景は、これまでの髙橋の取材風景で既視感があるものだったと言える。敗北のあと、彼は驚くほどの"反撃力"を見せるのだ。

 直近ではSVリーグ、チャンピオンシップのセミファイナル、サントリーサンバーズ大阪の選手として、ウルフドッグス名古屋との1試合目、2-0としながら2-3と逆転で敗れた試合だった。髙橋は自らの不甲斐なさに怒っていた。そして2試合目、3試合目と連勝したが、神がかった活躍ぶりだった。65.4%という驚異的なアタック決定率を誇ったのだ。

 決勝進出が決まったあと、髙橋はこう振り返っていた。

「準決勝は通過点というか、"ここでベストパフォーマンスを出せないと意味がない"と思っていたので。

その点、1戦目はそれが出しきれなかったところもあって、(怒ったように見えた瞬間は)このままでは終われないって思っていました。自分自身に怒って、鼓舞して、奮闘させることができました」

 怒りをエネルギーに転換できることこそ、勝負における彼の異能だろう。

――勝負にこだわりながら、切迫した空気を楽しんでいるようにも映ります。

 今年3月のインタビューで、彼にそう訊ねたことがあった。

 髙橋は明朗な口調で答えていた。

「そうですね。勝負(の面白さ)がなければ、ここまでバレーボールやっていない(笑)。ここまで楽しんでやることもないと思います。勝ち負けがあるからこそ、悔しさもうれしさもあって、"楽しんでやる"につながる。勝つ瞬間のために、頑張っているので」

 髙橋は日本人バレーボール選手として、勝ち続ける使命を背負っている。それは常人ではとても無理だろう。しかし、オンリーワンの選手になる目標を掲げる彼にとって、それもプロセスに過ぎない。

「(バレーボール人気のさらなる向上には)一番は結果だと思います」

 髙橋は野心的に語っている。

「スポーツは結果が出なければ、どんなにマーケティング面で頑張って、スポンサー関係で協力してもらっても説得力がない。自分はバレーで結果を出し、営業活動もしたい。結果が出ていないと(説得力がないから)したくはないですね。まずはバレーで結果を出す、それで自分の価値も上がる。パリオリンピックではメダルを取れなかったですけど、自力で出場権を得て、視聴率も高かったそうで(イタリア戦は大会競技のなかで最高視聴率)。男子バレーはネーションズリーグで2位、3位になるなど繰り返して世界上位になり、強くなって人気も出てきました。さらに結果を出せば、人気も上がるはずです」

 7月30日、中国。ネーションズリーグ準々決勝で、日本はポーランドと対戦する。パリ五輪銀メダルの強豪で、世界ランキング1位を誇る(日本は5位)。接戦は必至だろう。過去の結果を上回ることは優勝を意味し、簡単なことではないが......。

 困難な試合で輝くことこそ、髙橋の真価だ。

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