バレーボール女子ネーションズリーグ2025、日本にとってはブラジルが鬼門になった。

 予選ラウンドで日本は勝利を重ねたが、ブラジルには0-3とストレート負けだった。

そして決勝ラウンド準決勝のブラジル戦も、ファイナルセットに持ち込んだ末、最後は力尽きた。そして3位決定戦に回ってポーランドに1-3で敗れて、惜しくもメダルは獲得できなかった。

 鬼門に行く手を阻まれた形だが、日本の戦いぶりは十分に希望を持てるものだったと言える。

女子バレー日本代表の4位は「勲章」 攻めの姿勢で鬼門ブラジル...の画像はこちら >>
「どの選手も"攻めにいく気持ち"を持ってプレーができているし、チームの雰囲気はいいと思います。でも、ここからは苦しい状況があった時にどう立て直すか、その修正が大事になってくると思います」

 ネーションズリーグ日本ラウンドで5位となり決勝ラウンド進出を決めたあと、キャプテンである石川真佑は暗示的に語っていた。イタリアで「世界」を相手に戦っている彼女には甘さがなかった。タイトルがかかった試合になってくると、相手も目の色が変わる。必然的に緊迫し、どちらに転ぶかわからない勝負になるのだ。

 案の定、準々決勝のトルコ戦では、世界ランキングも予選順位も日本が上だったにもかかわらず、接戦を演じている。長身194cmのメリッサ・バルガスを中心に制空権を奪うトルコに手こずった。1セット目、3セット目を取って常に先行するが、高さを生かした粘り強い戦いに追いつかれ、ファイナルセットでどうにか勝利をつかみ取っている。

 ファイナルセットでマッチポイントを奪ったのは石川のサーブだったが、エースが決まったあとの彼女の弾けるような笑顔は、今のチームを象徴していた。

〈明るさ〉

 それがパリ五輪後、新たに発足したフェルハト・アクバシュ監督の新代表の"表紙"と言えるだろう。その根源は自分を信じる、チームを信じるというポジティブな感情にあるか。

 アクバシュ監督が発信するエネルギッシュな情熱も、チームに好循環を起こしている。コートぎりぎりの位置に立って、パッション全開でチームを鼓舞。チームと一緒に戦うようなスタイルを取りながらも、冷静に選手を替えて戦いを好転させている。

【存在感を増した佐藤淑乃】

「上がってきたトスは全部決める、という気持ちで」

 石川はそう言うが、それは男子代表キャプテンで同じアウトサイドヒッターである石川祐希の矜持にも通じる。少々トスが乱れても、前向きに打ちきる。その覚悟がチームを奮い立たせる。

 パリ五輪まではどこか遠慮したような様子も見えたが、キャプテンを託されたことで、自然とリーダーの威風が出てきた。イタリア・セリエAでの経験も経て、成熟したのか。1本1本のレシーブ、パス、スパイクに"希望を感じさせる"ようになった。

 石川の姿に触発されるように、佐藤淑乃も力強いスイングを連発し、準決勝ブラジル戦では2本もブロックを決めていた。

「(次のプレーを)イメージしやすくなってきて、スイングの速さはそうだし、ジャンプ最高到達点に達するのも早くなったかなって。今はいろんなことにトライして、楽しみながらバレーボールができています」

 そう語っていた佐藤は、試合ごとに存在感を増しつつある。

「(ブラジルのエース)ガビ選手は、思いきって打つだけでなく、駆け引きしている場面も多くて、すごいなって。敵として勝ちたい相手でもあり、憧れを捨てて頑張りたいと思います。今は(石川)真佑さんだったり、(和田)由紀子だったりに助けてもらっていることが多いと思うので、代表は半年間ですが、こうした大会で経験を積んで頑張りたいです」

 佐藤はブラジル戦のファイナルセットに、2度続けてトスを呼び込んでいる。結局、1回は止められ、次のブロックタッチを狙ったスパイクもアウトになった。しかし、攻めの姿勢が道を切り拓くはずだ。

 日本はパリ五輪でも、ブラジルに0-3となす術なく敗れている。ネーションズリーグ予選ラウンドでも同じセットカウントで負けた。しかし、決勝ラウンドはファイナルセットまでもつれさせ、最後まで食らいついていた。あと一歩、というところまではきている。

〈明るさ〉

 それは笑顔で振る舞うだけではない。

ポジティブに向き合い、失敗を恐れず攻める姿勢とも言える。アクバシュジャパンはその気配が濃厚に漂う。だからこそ、劣勢でも敗色が出ない。

 石川がサーブで崩し、リベロの福留慧美がスーパーディグで拾う。そのシステムはひとつの循環になりつつある。関菜々巳のセットアップで、佐藤が強打を打ち込み、和田が鋭く腕を振り、あるいは島村春世がブロードで狙い、宮部藍梨がマルチロールをこなす。次は佐藤が強烈なサーブを浴びせ、石川がハイセットを決めきる。そのサイクルが生まれつつあるのだ。

 その点でネーションズリーグ2025の4位は勲章と言える。

 8月22日からバレーボール女子世界選手権2025がタイで開催される。世界ランキング5位の日本は予選で同43位のカメルーン、15位のウクライナ、9位のセルビアと対戦。ネーションズリーグで優勝したイタリア、準優勝のブラジル、3位だったポーランドと世界女王の座を争う。

 2028年ロサンゼルス五輪に向け、アクバシュジャパンは一歩を踏み出した。

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