ヒロド歩美さん インタビュー 前編(全2回)

 今年もまた、球児たちの夏がやってくる。『熱闘甲子園』(テレビ朝日系)のキャスターとして、10年目の夏を迎えるフリーアナウンサーのヒロド歩美さん。

フリー転身後も変わらず阪神甲子園球場に足を運び続ける彼女だが、今夏は特別な思いを胸に取材に臨んでいるという。

 きっかけは、王貞治さんと栗山英樹さんが立ち上げた野球振興プロジェクト「球心会」の取材だった。野球界の未来を見つめる今、ヒロドさんの目に高校野球はどう映っているのか。その普遍的な魅力と、新たなスター誕生への期待を、熱く語ってもらった。

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【王貞治の言葉で芽生えた使命感】

ヒロド歩美 今年で『熱闘甲子園』のキャスターを務めさせていただいて10年目になります。ただ、「10年目だから」という気負いよりも、今年は私の中で高校野球に対する考え方や意識が少し変わった夏になりました。

 きっかけは先日(6月26日)、王貞治さんと栗山英樹さんが立ち上げた「球心会」の記者会見を取材したことです。そこで王さんや栗山さんの言葉を聞き、また、生前の長嶋茂雄さんが「僕も協力したい」という手紙を寄せられていたことを知りました。その会見は、「とにかくみんなで手を取り合って、野球人口が減っている世の中を僕たちが変えていこうよ」という、野球界全体への大きな呼びかけだったんです。

 これまでも野球人口が減っているという話は耳にしていましたし、そうなんだなとは思っていたのですが、この取材を機に、ひとりの記者として「もっと自分も関わっていかなければいけないのかもしれない」と勝手ながら使命感を覚えました。王さんは会見で「年々野球に対する思いが強くなっている」「恩返しがしたい」とおっしゃっていました。

 私もフリーになる決断をした時に「高校野球に恩返しがしたい」と思っていたので、なんだか胸を打たれてしまって。それ以来、関連する本を読んだりして、自分の中で高校野球を見るうえでの大きなバックテーマが、はっきりと定まった気がします。

今年の私にとって、一番大きな変化ですね。

 私が高校野球からもらったもの。それは、まず「取材をさせてもらえる機会」そのものです。そして何より、何歳になっても高校球児、高校野球から学ぶものがたくさんあること。それは野球の技術ではなく、人間的な部分。「人生の教科書」を毎年もらっているような感覚です。

【甲子園は多様な「フック」が魅力】

 なぜ高校野球は、プロ野球やメジャーリーグをあまり見ない人でも夢中になるんでしょう。その理由のひとつは、"フック"がたくさんあるからだと思います。自分の地元の学校が出場する地域性だったり、遠い親戚や友人の子どもが出ていたり。そういう小さなつながりから試合を見始めて、球児たちの全力プレーに心を動かされて、また次も見てみよう、とファンになっていく。母校が出場すれば、なおさらですよね。

 世代によっても刺さるポイントが違うかもしれません。たとえば、2018年の金足農業(秋田)の"金農旋風"。

エースだった吉田輝星投手(オリックス)の弟の吉田大輝選手が、昨年、そして今夏もエースとして甲子園に戻ってきました。兄弟の物語って、私と同世代の女性の方はとくにぐっと心に来ませんか?

 おじいさん、おばあさん世代にとっては、自分の孫みたいな感覚で、地域の若者がハキハキと頑張っている姿を見るだけでうれしくなったり、次の世代はまだこんなに元気なんだと安心したりする。そういう側面もあると思います。

 だから、入り口は何でもいいと思うんです。最近の言葉でいう「推し活」のひとつとして捉えてもいい。ミーハーな気持ちで「あの学校のユニホーム、かっこいいよね」とか、「応援歌が好き」とか、そういう理由で全然いい。そうやっていろんな方が興味を持つきっかけがたくさん転がっているのが、高校野球の面白さですよね。

ヒロド歩美があらためて思う甲子園の魅力と野球人口減少に抱く思い 「入口は推し活でもいい」

 プロ野球と何が違うかといえば、やはり「最後の夏」という、一度きりのはかなさ。そして、どんな場面でも全力で走り、一生懸命にプレーするところが、理屈抜きに人の心を惹きつけるのではないでしょうか。もちろん、プロ野球選手が全力でないという意味ではまったくないのですが、143試合という長いシーズンを戦うプロとはまた違う、一球一打にすべてをかける姿がそこにはあります。部活動の全国大会で、これだけ多くの人が熱狂する。100年以上も続いているその熱量は、本当に果てしないものだと感じます。

 ただひたむきなだけでなく、競技としてのレベルも年々アップデートされていますよね。強豪校が取り組むノーサイン野球だったり、グラウンド環境が恵まれていない学校がどうやってそのハンデを乗り越えるか工夫を凝らしたり。地方が元気をなくしていると言われる時代だからこそ、いろんな地域で高校生がスポーツに打ち込む姿は、その土地に住む人たちにとっても希望の光です。

【無名校からもスターは生まれる】

 王さんがおっしゃっていた「ヒーローをどんどん増やしていかないと野球人口は増えていかない」という言葉は、まさにそのとおりだと思います。かつての斎藤佑樹さん(元日本ハム)と田中将大投手(巨人)のように、誰もが知るスターが生まれると野球界全体が盛り上がる。「ハンカチ王子」「マー君」「金農旋風」といったキャッチーなワードが生まれると、関心はさらに広がります。

 それに、夢があるなと思うのが、必ずしも誰もが知る超強豪校の出身でなくても、スターは生まれるということ。今やメジャーで大活躍している山本由伸投手(ドジャース)も、出身の都城(宮崎)は、熱心な高校野球ファンでなければピンとこないかもしれません。

 昨年のドラフト1位だった金丸夢斗投手(中日)は神港橘(兵庫)、中村優斗投手(ヤクルト)は諫早農業(長崎)の出身です。決して甲子園常連校とは言えない場所からでも、努力次第で日本のトップ選手になれる。そういう姿は、全国の子どもたちに大きな夢を与えてくれます。私たちメディアも、そういうヒーローたちの物語を伝えていくというミッションを担っているんだと、あらためて感じています。

 だから私は、夏の大会が始まる前に「優勝候補」という言葉をなるべく使わないようにしています。「春はあれだけ調子がよかったのに」というチームが、あっさり負けてしまうこともある。それが夏の大会の怖さであり、見どころのひとつでもあるんです。

 もちろん、注目しているチームはあります。今春のセンバツで優勝した横浜(神奈川)は、松坂大輔さんを擁した1998年以来の春夏連覇という大きなトピックがありますし、取材をしていると、神奈川県内の高校だけでなく他県の高校まで「打倒、横浜」を掲げて練習しているんです。そこまで意識させる横浜もすごいですし、その目標の立て方もすごい。それだけ大きな存在だということですよね。

 低反発バットに変わって、豪快なホームランは減りました。その分、緻密な戦略や堅い守備が光るようになり、新たな面白さが生まれています。スター選手の華やかなプレー、無名の公立校の下剋上、地域を背負って戦う物語、そして「最後の夏」に懸ける球児たちのひたむきな姿。グラウンドのどこを見ても、たくさんのドラマが詰まっている。だからこそ高校野球は、私たちの心をつかんで離さないのだと思います。

ヒロド歩美があらためて思う甲子園の魅力と野球人口減少に抱く思い 「入口は推し活でもいい」

後編につづく

<プロフィール>
ヒロド歩美 ひろど・あゆみ/1991年10月25日生まれ。兵庫県宝塚市出身。早稲田大学国際教養学部卒業後、2014年に朝日放送テレビ(ABCテレビ)入社。2016年に『熱闘甲子園』のキャスターに就任。その後は『サンデーLIVE!!』『芸能界常識チェック!~トリニクって何の肉!?~』『芸能人格付けチェック』などに出演。2023年からフリーとなり、現在まで『報道ステーション』のスポーツキャスターを務めている。

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