高木豊が語るDeNAの補強 前編
7月29日時点でリーグ3位、首位の阪神とは大差をつけられているDeNA。今後の巻き返しに向けて積極的な補強を推進しているが、なかでも、阪神からMLBに挑戦し、シアトル・マリナーズ3Aのタコマ・レイニアーズを自由契約となっていた藤浪晋太郎の獲得が注目を集めている。
かつて大洋(現DeNA)の主力選手として活躍し、現在は野球解説者やYouTuberとしても活動する高木豊氏に、藤浪の魅力や課題について語ってもらった。
【起用法はどうなる?】
――今のDeNAは、藤浪投手が必要な状況だったのでしょうか?
高木豊(以下:高木) 結局は結果論になるのかなと。結果が出れば獲ってよかった、出なければ必要なかった、ということになるでしょうね。ただ、夏の暑い時期はピッチャーがひとりでも多いほうがいいですし、山﨑康晃などある程度計算していたピッチャーが上に上がってこなかったり、離脱者が多い現状を考えれば、藤浪の加入はありがたいでしょうね。それと、DeNAが持つテクノロジーやノウハウを試したいんじゃないですか。
――入江大生投手、ローワン・ウィック投手らが離脱中でリリーフ陣は不安がありそうですね。
高木 でも、トレバー・バウアーが全然勝てていないことを考えると、先発も不安です。東克樹やアンドレ・ジャクソン、アンソニー・ケイはしっかりしていますが、バウアーも計算に入れていただけに、これだけ勝てないのは不安です。
では、藤浪をどこに当てはめていくかというと、先発しかないと思います。制球に不安がある自滅型なので、勝ちパターンのリリーフに抜擢するのはなかなか難しい。先発であれば、ある程度の失点を覚悟しながら使っていけますからね。失敗が勝敗に直結してしまうリリーフでは起用するのは厳しいでしょうし、そもそも今年のDeNAは、リリーフで試合が決まるような展開にあまりなっていませんしね。
――藤浪投手はマイナス要素もありますが、魅力も多い?
高木 ボールに力があって、投げ方も迫力がありますし、非凡な素質は「放っておくのがもったいない」と誰しもが思いますよね。
165キロが出るなら、それがど真ん中にきてもなかなか打ち返せませんよ。DeNAは最新のAI技術を備えていると思いますし、藤浪のピッチングが安定すれば、その技術力を証明することになります。
【自分のピッチングスタイルに「腹をくくるしかない」】
――DeNAは藤浪投手をはじめ、成功事例を積み上げていきたいでしょうね。
高木 そうですね。今までは日米の各チームのコーチなど、野球経験者が藤浪を再生しようとしましたが、結局ダメだったわけじゃないですか。そこで野球経験者ではないアナリストの人たちが藤浪をどう再生するのかが興味深いです。メンタルトレーニングなど、精神面のアプローチもしていくでしょう。
それとメジャーを経験すると、ボールを少し曲げたり落としたり、小手先で細工することを覚えるじゃないですか。全力で投げても打ち返されてしまうので結果的にそうなると思うのですが、日本に帰ってきた時に少し退化したようにも見えますよね。
でも、藤浪はそこまで器用じゃないと思うんです。腕を振って勝負しにいくスタイルは崩していないと思いますし、DeNAはそこに魅力を感じたのかもしれません。
――課題はやはり制球力ということですね。
高木 藤浪の球が抜けるのが、わざとではないっていうのはみんなが知っているわけです。思い切り腕を振って投げたら抜けてしまう場合がある、ということ。ただ、ある意味でこれは「最大の武器」という言い方もできます。悪気がないことはみんながわかっているので。本人がそれを優位に使えるかどうかも、ポイントになると思います。
アメリカではマインドコントロールや動作解析など、あらゆるデータを駆使して、さまざまな角度でピッチングを分析して試してきたと思うんです。ただ、それを通訳を介して聞くのと、日本語で聞くのとでは少々違うんじゃないかと。藤浪への伝わり方ですね。
それと、制球に対する不安がゼロになるかといえば、そうはならないと思うんです。
――DeNAのチームカラーにフィットしそうですか?
高木 人間は環境が変わると、心身で苦しんでいた部分が緩和されたり、"自分"の出し方なんかも変わっていったりするじゃないですか。DeNAというチームは、選手にとって働きやすいと思いますよ。力を発揮しやすい環境を作ってくれますしね。マンツーマンでやってくれると思うので、何でも話せるはずです。だから、いい方向にいくんじゃないかと僕は期待しています。
(後編:高木豊「DeNAは試合ごとのプランが見えない」 ビシエドの補強、コーチ陣の配置転換にも疑問符>>)
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。