高木豊が語るDeNAの補強 後編
(前編:高木豊が語る藤浪晋太郎の魅力と起用法 DeNAのAI技術で「最大の武器」を生かせるか>>)eNAのAI技術で「最大の武器」を生かせるか>>)
藤浪晋太郎の獲得が大きな話題になったDeNA。野手陣でも、昨季の後半に在籍したマイク・フォードを再獲得、さらに長らく中日でプレーしたダヤン・ビシエドも加入した。
【ビシエドの補強は「わからない」】
――前編では藤浪晋太郎投手についてお聞きしましたが、マイク・フォード選手とダヤン・ビシエド選手の補強についてはどう見ていますか?
高木豊(以下:高木) フォードは昨年のポストシーズンで勝負強さを発揮し、日本一に貢献しました。球団もそれなりに評価をしていて、今季も契約するつもりだったと思うんです。ただ、フォードが「アメリカで頑張りたい」ということで退団しましたよね。結局"出戻り"の形になりましたが、印象としては割としぶとく打ってくれるバッターです。
――DeNAの野手陣は、期待の選手が軒並み不振に陥っています。
高木 梶原昂希にはものすごく期待していましたが不振に陥り、筒香嘉智も思いのほか働いてくれなかった。加えて、タイラー・オースティンがケガをしてしまって目途が立たない状況です。森敬斗は、今年はショートでずっと出ていくかと思いきや、鳴かず飛ばずですしね。
そうなってくると、頼りは佐野恵太や牧秀悟、宮﨑敏郎になる。そこにフォードが加入してファーストに入り、ファーストを守っていた佐野がレフトを守っているので外野は佐野でひとつ埋まります。だからフォードを獲得した意図はわかるのですが......ビシエドがわからないんです。「日本人枠」の選手であることはいいですし、右の代打としてベンチにいれば相手も嫌だとは思いますが、それでも必要だったのかなと。
――今年は何としてもリーグ優勝を勝ち取る、という意気込みが積極的な補強策に表れているのでしょうか。
高木 昨季はリーグ3位からの"下剋上日本一"でしたから、リーグ優勝にかける思いは強いでしょうね。日本一になる過程では相当なパワーが必要だったはずですが、そのパワーを注入していたのは首脳陣だったと思うんですよ。ただ、シーズンオフにその首脳陣を"大改革"というくらい動かしたじゃないですか。なぜ日本一を勝ち取ったのに変えなければいけなかったのか。石井琢朗や鈴木尚典らをファームに置いたり、よかれと思ってやっているのでしょうが、「これで大丈夫なのかな」と思っていたんです。
コーチが変わると、現場の雰囲気も変わるんです。昨季は梶原や森など、あれだけ若手が成長してチームを引っ張った。それを支えていたコーチの顔ぶれがだいぶ変わりましたからね......なぜそうしちゃったのかなと。選手は戸惑ったんじゃないかと思うんです。
【データを活かすか否かは現場の判断】
――あえて変えた意図もある?
高木 いい時に変えるのはギャンブルなんです。もちろん現場では「よりよいものを引き出すために」といった意図があったのでしょうが、やっぱり難しいですよ。なぜなら、問題があったわけではないですから。
戦術面にも疑問があります。(7月12日の)巨人戦で、相手の先発は今季点が取れていないフォスター・グリフィンでした。1回に1点を先制され、なお無死一、三塁で坂本勇人を迎えた場面。そこで「右打ちをしてくる」というのは野球をやっていればわかるはずなんです。それに対して内野に前進守備をさせず、後ろに守らせていたんです。相手がグリフィンということを考えれば、「もう1点やってもいい」という守備体形ではダメ。初回とはいえ、「もう1点取られたら試合が終わってしまう」くらいの危機感でやらなきゃいけない場面でした。
――巨人は坂本選手のセカンドゴロの間に1点を取り、次の泉口友汰選手もタイムリー。初回の3点で主導権を握った巨人が3-0で勝利しました。
高木 選手の立場からすれば、自分たちが1点も取れていないうちに3点取られたら、大量点を取られたという感覚になります。特に相手は打てていないグリフィンですし。守備体形を見た時は「えっ? なぜ後ろに守るの?」と思いましたよ。
何かのデータに基づいてそうしていたのかもしれませんが、データを活かすか否かは現場の判断ですし、そのあたりがうまくかみ合っていないのかなと。チグハグさを感じますよね。バッティングもそうです。今はピッチャーの球種が多く質も高いので、さまざまなデータに基づいて狙い球を絞っていく必要があると思いますが、データに振り回されている部分もなきにしもあらずなんです。
――データに振り回されてはいけない?
高木 仮にDeNA打線が、ワンボールから真っすぐしか狙ってこないとなれば、変化球を投げておけば絶対に打ちに来ないわけじゃないですか。つまり、データを逆手に取られた時の怖さというのもありますよね。それよりも練習をさせなければいけないんです。
練習でやらせるべきは、とにかく振り込ませること。相手がいいピッチャーであるほど、打てたときは「いつバットを振ったんだろう」という感覚になるものなんです。
【DeNAの試合プランに不安】
――データに頼りすぎてはいけないということですね。
高木 データ通りの球がきたら、ある程度の確率で芯には当てていくでしょうが、データが当たったからといってすべてがヒットになるわけではありません。芯に当てても、ボールが人のいない場所へ飛ぶわけじゃないですから。今はプロ野球界全体があまり練習をさせなくなっていますよね。「なぜ3割打者が少なくなったのか」とか言われるけれど、技術の習得を含めて練習が足りないんです。
それと、野球の傾向ってあるじゃないですか。今季であれば、とにかくロースコアの接戦が多い。その証拠に、両リーグともに防御率1点台や2点台前半のピッチャーが多いですよね。そういった展開では、バントでしっかりランナーを進めたり、足が使えるチームが試合を制していくのですが、DeNAはそういう傾向には合わせないんですよね。今のピッチャーからヒットでつないで点を取るってかなり難しいですよ。
――特に今年は、バッター陣の苦戦が目立ちます。
高木 そうですね。それと、DeNAは試合ごとのプランが見えないんです。例えば「このピッチャーからは点を取れていないので、前半はバントで1点ずつ取っていく」「接戦になれば足を使う」とか、プランが明確であれば選手も動きやすくなります。中長期視点でのプランもそうです。梶原が1番を打ち、森がショートをシーズン通して守りきってくれるんじゃないか、オースティンが軸になってやってくれるんじゃないか、(トレバー・)バウアーが無双状態で投げてくれるんじゃないか、といった思惑が完全に崩れていますよね。
補強策に動いているのも、そのあたりの焦りがあるんだろうなと。それと、先ほどもお話した首脳陣の一新。日本一という結果を出したのに、よりよいものを求めすぎて、逆の結果になってしまったのかなと。クライマックスシリーズを勝ち進み、日本シリーズを制するくらいのチームとしてのまとまりを見せたわけだから、変えないほうがやりやすかったんじゃないかと僕は考えますけどね。
――接戦を制するための選手起用と戦術も求められる?
高木 打撃が強みのチームなので打たせたいのはわかりますが、試合ごとのプランの遂行や勝負勘といったものが大事になってくるかなと。今後の戦いぶりに注目していきたいと思います。
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。