7月29日から男子バレーのインターハイが開幕。優勝候補の名高い強豪や、注目選手、次世代を担う夏の主役となり得る高校生たちが日本一を競い合う大会に、京都代表として東山高が2年ぶりに出場を果たした。

昨年11月の春高京都予選まで監督を務めた松永理生氏が退き、豊田充浩監督が再任した同校でアドバイザーを務める松永氏は現在、大同生命SVリーグ(以下SVリーグ)のサントリーサンバーズ大阪のアシスタントコーチとしても活躍している。

 これまで中央大では石川祐希や関田誠大 、東山高では髙橋藍ら、現在の日本代表の中軸となる選手たちを指導した経験もあるなか、松永氏はどのような道を指導者として歩んで行こうとしているのか。

 インタビュー前編では、高校、大学と学生カテゴリーだけでなくトップリーグでの挑戦を決めた理由や現在の指導状況、「きっかけづくり」の重要性を語っていただいた。

石川祐希や髙橋藍らを育てた経験をSVリーグでも生かす 松永理...の画像はこちら >>

【指導で目指すは「アンダーカテゴリーとトップカテゴリーの融合」】

――サントリーサンバーズ大阪のアシスタントコーチとなった経緯を教えて下さい。

松永 僕の指導者としての一番の目標は、日本代表やトップチームの監督になること。そのために、「高校や大学を含めたさまざまなカテゴリーを知りたい」と思い、現役選手を辞め、指導者になってからは中央大、東山高など異なるカテゴリーでの指導に携わってきました。

 自分の目標へ到達するためにはいろいろなジャンルを知りたいと思って活動してきたなか、「トップチームで指導者として勉強したい」と思うタイミングでサンバーズから声をかけていただいた。タイミングも重なりましたね。これまで経験してきたアンダーカテゴリーと、トップカテゴリーを融合させることができるのか見極めるために、サンバーズで指導に携わることはとても素晴らしいことだと思ったので飛び込むことを決めました。

――サントリーサンバーズ大阪のアシスタントコーチとして専属の活動なのか、これまでと同じように東山高でも指導に携わっているのでしょうか?

松永 ひとりの指導者としてサンバーズとはアシスタントコーチとして契約をして、東山高でも「アンダーカテゴリーの育成」という意味でアドバイザーという立場で携わっています。週に一度は(東山高で)授業もして、練習にも出ていますが、あくまで監督の豊田先生、小川(峻宗)コーチがメインのチームなので、僕はアドバイザーとして求められることをやっています。

 サンバーズでは主にアンダーカテゴリーの強化が僕に与えられている役割なので、U15の松崎廣光(サントリーサンバーズ大阪U15)監督のサポートをしながら中学生年代の選手たちに加えて、小学生にも指導をする。低学年、高学年とそれぞれ分かれていますから、未経験者に対する指導もしますし、U15とは別のジュニアというカテゴリーで練習する中学生の指導もします。

昼が空いている時はトップチームの練習も見ていますね。

――かなりハードスケジュールですね。

松永 休みはいらない、という感じですね(笑)。とにかくバレーが好きなので、いろんなところに行きたいし、いろんなバレーの形を知りたい。高校、大学という教育カテゴリーで勉強させていただき、経験してきたものもあるので、そこから企業やトップチームを見た時に新たな気づきもあるはず。僕が現役選手だった頃と比べて、VリーグからSVリーグになり、それぞれの企業が努力を重ねるなか、サントリーさんは非常にいい方向へ向かっていると感じますし、さらに好循環を作ろうとしている組織に僕がアクセントを与えられればいいな、と。

 同級生の梅川(大介・駿台学園前監督)が大阪ブルテオンに行き、アカデミーダイレクターという立場で僕と同じようにアンダーカテゴリーに関わるのも、僕にとってはうれしいこと。一緒に指導者の価値を高め、よりよいものを作っていけたらいいなと思います。

【まずは「バレーボールって楽しい」と思ってもらうことが大事】

――実際にU15の選手たちはもちろんですが、石川祐希選手や関田誠大選手、髙橋藍選手の指導にも携わった松永さんが、どのように小学生の指導をしているのでしょうか?

松永 成長していくスピードが、小学生と中学生とでは全然違うので面白いですよ。U15は「うまくなりたい」というのももちろんですが、「クラブとして勝ちたい」という目標を持った選手も集まっているのに対して、小学生は初めてバレーボールに触る子もいます。まずは「バレーボールって楽しい」と思ってもらうことが一番大事だと思うので、僕がやるべきは、これまでの指導で培った方法や「言葉」を使って楽しさを伝えることです。

 例えば、ゴム跳びをしながら「バンザイして跳んでごらん」とジャンプしてもらう。

それもスパイクにつながる動きだし、ちょっとずつ高く跳べるようになると目を輝かせて何度だってやるんです。「高く跳べるようになったよ」と声をかけるとうれしそうだし、1時間の練習が終わると「足りない! 来週も来る!」と通ってくれる子たちがほとんどです。最初から勝つこと、うまくなることだけを目指すのではなく、楽しんで好きになる。そこから、それぞれが目標を見つけて進んでいけばいいし、トップにもつながっていく流れが作れると思います。

――元選手だけでなく、元高校、大学の指導者が教える、ということにも価値が生まれそうですね。

松永 そうですね。学生カテゴリーで指導をしてきて、いろんな情熱や知識を持った指導者の方々をたくさん見てきました。多くの選手をトップカテゴリーや日本代表に送り出した先生もたくさんいます。でも、その先生方が果たしてきたことに対して、それ相応の評価がなされていないこともあると感じます。

 だから、僕や梅川などが新しいチャレンジをすることで、指導者の価値を高めたい。それは僕の野望のひとつでした。スキルや経験を持った指導者から学びたいと思う選手、選手の保護者の方、指導者もたくさんいるでしょう。

そのサイクルをうまく事業としてつなげていくのも、今後を考えるととても大切なことです。

 選手だけでなく、実際に指導者育成のためのサロンも始めたのですが、そこでも参加費、会費は決して安くない金額に設定しました。理由としては、ボランティアではなく事業であることをわかっていただくため。その金額を設定する以上、僕も持っていることをすべて伝えるつもりですし、本気で取り組んでいきたいと思っています。

(後編:教え子の髙橋藍がプレーするサントリーサンバーズ大阪のAC、そしてU18監督へ 松永理生コーチが語るSVリーグの「大きな課題」とバレー界の未来>>)

【プロフィール】

松永理生(まつなが・りお)

1981年10月9日生まれ。京都府出身。東山高→中央大→パナソニックパンサーズ(現大阪ブルテオン)→豊田合成トレフェルサ(現ウルフドッグス名古屋)。2011年に現役引退。翌年、豊田合成からの外部派遣で中央大の監督に就任。関田誠大、石川祐希らを指導。2017年に同大の監督を退任。2019年から東山高のコーチとなり、髙橋藍らを育てる。

現在は同校のアドバイザーを務めながら、SVリーグのサントリーサンバーズ大阪のアシスタントコーチとして活躍中。

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