サントリーサンバーズ大阪のアシスタントコーチ(AC)として、アンダーカテゴリーに軸を置きながらもトップチームにも携わる松永理生氏。これまでとは異なる立場で見る大同生命SVリーグ(以下SVリーグ)は、その目にどう映ったのか。
インタビュー後半では、松永氏が思い描くバレーボール界の未来を語ってもらった。
(前編:石川祐希や髙橋藍らを育てた経験をSVリーグでも生かす 松永理生コーチはサントリーサンバーズ大阪で「指導者の価値を高めたい」>>)
【SVリーグの大きな課題】
――SVリーグ初年度はサントリーサンバーズ大阪の優勝で閉幕しました。「世界最高峰」を掲げるSVリーグ、松永さんから見て「レベルが高くなっている」と感じましたか?
松永 SVリーグ全体のレベルが高くなったかと聞かれると、すべてが高くなったとは感じていません。
――なぜ、そう感じたのでしょうか?
松永 組織全体を見れば、ホームゲームの運営やイベント、スポンサーの集め方などは、非常に引き上げられていると思います。でも、「"箱推し"になるリーグを」という目標に関しては、実現までまだまだ遠い印象です。そもそもバレーボールは、高校、大学のカテゴリーから各選手にファンがつく"人推し"のほうが多いので、劇的に変わるのは難しいですよね。
プレーのレベルも、世界のトッププレーヤーが集うことで全体的なレベルは引き上げられているかもしれませんが、日本人選手に関しては、全員が技術的な部分で向上しているとは思えません。むしろ技術力に関しては、大きな課題があると思います。
――具体的に、どのようなところで課題がありますか?
松永 高校の時点でも、それまでに技術やバレーボールの考え方、状況判断をしっかり学んできて、ゲームのなかで分析して「いかに相手の弱いところを突けるか」ができている子たちもいます。一方で、あまり学べなかったのかな、という子も多く、そのままSVリーグに進んでプレーしている選手も少なからずいると感じます。
本来ならば技術指導を徹底したいのですが、なかなかその時間や環境がないんです。例えば僕も、選手のスパイクを見て「この打ち方だと伸びないな」と思った時は、身体の使い方や打ち方の指導に時間を割きたいのですが、その選手が、SVリーグでプレーできる機会があるということに「これで十分だ」と満足して、そこに取り組まないことがある。
より成長しなければ、チームはその選手に代わる選手をほかから獲ってくればいい、という発想になってしまいます。徹底的に技術を教えるために、U15だけでなくU18、23といったアンダーカテゴリーがクラブのなかにできれば、もっと環境は変わるはずです。
――理論を学び、方法がわかる指導者が教えれば技術は伸びる?
松永 間違いなく伸びます。豊田合成(現ウルフドッグス名古屋)を優勝させた(クリスティアンソン・)アンディッシュ監督や、日本代表の(フィリップ・)ブラン監督は最たる例ですよね。理論と方法がわかれば、一気に伸びる。これは僕の持論ですが、体力には年齢によって限界がくるけれど、技術はいつまででも伸びるし、伸ばせる。実際に石川(祐希)も、「今は技術を伸ばせるチャンス」と話しています。だから技術指導は大事で、経験のある指導者の存在が必要なんです。
【バレー界全体の将来を考えた強化や育成】
――東山高で指導した髙橋藍選手とは、サンバーズで再び選手と指導者として接しています。変化や成長はどのようなところで感じましたか?
松永 1年目のSVリーグのシーズン中はメディア対応も含め、自分のコンディションを最優先にできなかったこともあり、本調子ではなく苦しんだり、いら立つ姿も見ました。でも、彼には「日本のバレーボールを盛り上げるために頑張る」という軸があるので、どんな状況でもやるべきことを工夫してやる。何より、藍がいる時といない時では、チーム全体の明るさも違うんですよ。
――松永さん自身は、SVリーグ、バレーボール界を盛り上げていくために、どんな活動をしていきたいですか?
松永 さまざまな課題があるとはいえ、SVリーグ全体を見れば方向性は間違っていないと思っています。プロとしてやるべきことはやる。そのなかで試合日程や収益化、見直すべきこともちゃんと取り組む。SVリーグや日本代表が中心となってバレー界が盛り上がりを見せるなか、追い風になる活動は絶対にしていくべきだと思います。
並行して、強化はもちろん、裾野を広げるアンダーカテゴリー事業も形にしていく。実際はU15、U18を作ることに対して否定的な意見も聞こえてきますが、チームとして強化したいから作る、のではなく、バレー界全体の将来を考えた強化や育成という面で必要だから組織として構築したい。組織づくりという面から改善が必要なので、よりよい未来につながるように僕自身も取り組んでいきたいです。
――松永さんの指導者としての一番の目標は、日本代表、トップチームの監督とのことですが、ご自身の未来をどう思い描いていますか?
松永 今年44歳なので、ここからもいろいろなことを学んで、経験して、10年ぐらい経った時にたどり着けていたらいいな、と思いますね。そんななか、来年の4月からサントリーサンバーズ大阪では新たなプロジェクトとしてU18がスタートします。そこで僕はU18の監督として活動をさせてもらうことになっています。
トップチームの監督、日本代表監督を目指すためにも、全力で楽しく小学生を教えて、中学生、高校生の指導も一緒に楽しむ。今を積み重ねて未来へつなげていきたいです。
【プロフィール】
松永理生(まつなが・りお)
1981年10月9日生まれ。京都府出身。東山高→中央大→パナソニックパンサーズ(現大阪ブルテオン)→豊田合成トレフェルサ(現ウルフドッグス名古屋)。2011年に現役引退。翌年、豊田合成からの外部派遣で中央大の監督に就任。関田誠大、石川祐希らを指導。2017年に同大の監督を退任。