7月30日、横浜。7万人近い観衆がうごめくスタジアムは、異様な熱気だった。
伝統あるリバプールの腕章を巻く―――。日本人MF遠藤航は、その一点でもひと際輝いていた。それがどれだけ栄誉なことか。たとえアジアツアーの一環で、交代出場後の数十分だけでも、フィルジル・ファン・ダイクからキャプテンマークを受け取って巻く姿は歴史的だった。
「ワタ(遠藤)は常にチームにとって、大切な役割を果たしている」
リバプールのアンネ・スロット監督はそう言って、キャプテンマークを託した理由を述べている。
「ワタは点を取って目立つような選手ではない。しかし、どんな時もチームのことを考えて、そのために存在できる。プレー時間は少なくとも、ピッチでは全力を尽くせる。それが大事で、彼の姿勢はゲームキャプテンにふさわしい」
なぜ、遠藤は最強集団で敬意を集められるのか?
昨シーズン、遠藤はプレミアリーグで20試合に出場したが、先発は1試合だけだった。出場時間は260分間にすぎない。FAカップでは2試合に先発出場も、4回戦で敗退。「クローザー」
試合終了間際10分間程度の出場が多いことで、そう言われるが......。
特筆すべきは遠藤が本来のMFだけではなく、センターバック、右サイドバックでもプレーできている点だろう。そして少しも手を抜かない。その実直さにおいて、他と一線を画しているのだ。
なぜなら、遠藤のように一定のプレーレベルに達している選手は、控えに回ることで不満をため込んでしまうことが多い。チームの中で「やってらんねえよ」という毒を吐く存在になってしまうこともある。ところが遠藤はむしろ集団を浄化するようなエネルギーを放つ。彼自身がどんなときも準備し、全力で戦う姿を見せることで、チームを健全に戦わせているのだ。
【「手放してはいけない選手」か】
横浜F・マリノス戦でも、遠藤が途中出場してからチームは逆転した。もちろん、それはあくまで試合の流れだろう。
逆にチームは勢いを増した。カウンターからモハメド・サラーのパスをフロリアン・ヴィルツが決めて同点に。ジェレミー・フリンポンのクロスを18歳トレイ・ニョニが逆転弾を決める。さらに16歳、リオ・ングモハが単騎で持ち込んで、とどめの3点目を豪快に突き刺している。
そのたびに得点者たちを祝福するキャプテンの遠藤の姿は頼もしかった。
遠藤のような"縁の下の力持ち"は、プロサッカー界では意外にもなかなか手に入らない。レアル・マドリードは2013-2014シーズンから2023-2024シーズンの10シーズンで、なんと6度もCLで優勝しているが、ナチョという史上最高級の縁の下の力持ちがいた。
ナチョは14シーズン在籍したが、シーズンを通してひとつの定位置を確保し、先発で出続けたことはなかった。しかし左右のサイドバック、左右のセンターバックを必要に応じて担当できた。そのユーティリティ性は出色で、何より、メンタリティは神格化されていた。
「ナチョのような選手の姿勢を全員に見習ってほしい。日頃から、彼がどれだけ準備できているか。彼のような選手がもっといたら、もっと勝利を積み重ねられる」
CL3連覇をやってのけたジネディーヌ・ジダンはそう賛辞を送った。そして「決して手放してはいけない選手」とした。なぜなら、ナチョのような謹直にサッカーと向き合える存在がいることで、すぐに調子に乗るスター選手の鼻をへし折り、真摯に戦わせることもできたからだ。
プロ14年目のレアル・マドリードで、ナチョはとうとうキャプテンを任された。2023-24シーズン、スーペルコパ、CL、ラ・リーガと三冠のトロフィーを掲げ、自身のキャリア最多試合出場を記録した。チームに勝利をもたらし、キャプテンとして尊敬され、自らの価値も最大限に高めた。それを花道に、彼はサウジアラビアのアル・カーディシーヤに去った。
そして昨シーズン、レアル・マドリードはチーム力が上がらず、無冠に終わっている。
遠藤のプレーに対する姿勢も、チーム内で高い評価を受ける。彼自身の試合出場時間は新シーズン、確実に増えるだろう。
遠藤の新シーズンが、新たに幕を開ける。