女子ボートレーサー・守屋美穂の強さの源泉は自信のなさ? メモ...の画像はこちら >>
守屋美穂インタビュー 前編

【女子レーサーをけん引する存在】

 だれもが躍動する、スポーツ――。

 これはボートレースが掲げている2025年のキャッチコピーである。「だれもが」が意味するところは、男でも女でも、若手でもベテランでも同じ条件のもとに直接レースでぶつかり合う、ということだ。

 とくに女子ボートレーサーは注目の的だ。多くの競技が男女別で行なわれるなか、ボートレースは男女がほぼ同じ土俵で戦い、女子が強豪男子レーサーを破るシーンも珍しくない。華やかでありながら、男子に負けない強さを兼ね備える。女子ボートレーサーにそんなイメージを抱く人は多いのではないだろうか。

 その女子ボートレーサーの中心を担い続けているのが守屋美穂だ。2007年にデビューして以来、約17年半のキャリアで優勝は通算39回。グレード戦はGⅡを4回制覇しており、そのうち1回は男女混合戦でつかんだ栄冠だ。

 そんな輝かしい実績を持ち、今なお安定した強さを誇る守屋だが「(自分に)自信は全然ないです。どこにもないです」と、イメージとは裏腹な言葉を口にした。

【意外な素顔】

 守屋がボートレーサーを志したのは、父親に勧められたのがきっかけだった。当時の守屋はギャンブルの経験はもちろん、スポーツの経験すらなかった。普通ならピンとこない提案のはずだが......。

「ボートレース児島が本当に身近にあったので、親も気軽に勧めてきたんじゃないかなと思います。

(自分も)イベントでペアボートに乗せてもらっていたりもしたので、レーサーを目指すことに抵抗はなかったです」

 と、すんなりと目標が決まったことを振り返った。

 ボートレーサーになるためには、ボートレーサー養成所(守屋の在籍当時は「やまと競艇学校」)を卒業しなければならない。入所試験は倍率数十倍とも言われる難関だが、守屋は2度目のチャレンジで合格。故郷を離れ、1年間ボートレーサーになるためだけの修行の日々を過ごすこととなる。

 養成所では厳しい管理生活が行なわれ、訓練も過酷と言われているが、守屋にとってはそんな記憶は薄いようだ。

「すごく厳しいって聞いていたけど、たぶん自分たちの期(101期)はそこまで厳しくなかったのかなと思います。厳しいというより、学科が大変でしたね。エンジンのことだったり、ルールのことだったり、ゼロから覚えなきゃいけないことばかりだったので」

 座学では苦労した守屋だが、在籍当時から非凡なものを見せる。養成所では訓練生同士でリーグ戦を行なうが、守屋は養成所時代に勝率6.76をマークする。守屋と近い世代で女子戦線をけん引する遠藤エミの養成所成績が3.92、平高奈菜のそれが4.80だったことと比べてもその数字の高さがわかる。もちろん男子選手とも争ったうえで残している成績だ。

 2007年11月にデビューすると、1カ月後には初勝利。

2009年には女子戦で初優出(優勝戦に進出すること)を果たすと、2013年にはついにボートレーサーの最高ランクであるA1級に昇格する。

 こう記すと順風満帆なレーサー人生に見えてくるが、守屋に過去のことを尋ねると「覚えていないです......」という言葉がたびたび出てくる。好成績を残した養成所でのことも「たぶん本当に何も考えずに乗っていたのかなって思います」という一言が出てきたくらいだ。

「キャパが狭いというか、前のシリーズでやったことも次のレース場に行くともう忘れちゃっているので、ちゃんとメモを取るようにしています。昨日のことも忘れちゃうし、もし2回乗り(1日に2回のレースに出場すること)だったら後半のプロペラの形しか思い出せないとか。なんかいっぱいいっぱいです」

 苦笑いを浮かべつつ自身のことを語る。ある意味で天然とも受け取れる彼女の姿は、レース場にいない守屋美穂の素顔なのかもしれない。「男子に負けない強い女子」の顔はそこにはない。

女子ボートレーサー・守屋美穂の強さの源泉は自信のなさ? メモを取る理由、オッズを見ない意味も語る
誰もが一目置くレーサーのひとり photo by Ishikawa Takao

【自信がないから努力する】

 では、守屋の強さの源泉とはいったい何なのだろうか。

 自身の強みについては「ない」と即答する守屋だが、レースで心掛けていることを問われると、こんな答えが返ってきた。

「レースで心掛けていることは『冷静に』。勝ちたいとか、勝たなきゃみたいなことを思っていたら危ないレースになっちゃうし、視野も狭くなっちゃうのでフラットな状態で、冷静にレースに臨むようにしています」

 ボートレースは公営競技のため、舟券の販売中には各選手のオッズが表示され、それはピット内のモニターでも映し出される。

当然、実力者である守屋はよく売れる部類だが、こうしたオッズも守屋はあえてあまり気にしないようにしている。

「気持ちを揺さぶられるのが嫌で見ないようにしています、フラットな状態でレースに臨みたいので。『勝たなきゃ!』ってなったら視野が狭くなっちゃうし、体が強張ってうまく動けなかったりするので。本当にフラットな気持ちとフラットな体でいいレースができたらなと思っています」

 ただ、「オッズを見ない」=「向き合っていない」ということではない。そこには守屋なりの乗り越え方がある。

 ボートレースは内側のコースが圧倒的に有利な競技だ。そのため、自身が最も内側に入れる1号艇のときは、勝利に最も近いポジションである反面、最も多くの人気を背負う立場でもある。

「1コースのときはスタートに集中するのと、(エンジンの)仕上げをちゃんとしなきゃいけないので調整をしっかり合わせなきゃいけないって気持ちで1日を過ごしています。優勝戦で1号艇のときはもっと緊張しますね。やっぱり優勝もしたいし、買ってくださる方もたくさんいるだろうし。調整も『これでいいのかな』って最後まで悩むことも多いです」

 守屋は自身に必要なことに集中し、課題を消してレースに臨んでいる。続けて彼女はこう語る。

「納得のいく調整ができて、スタートも行けて、その1日しっかり考えてやってきたことがレース内容に結びつく。それが結果にもつながれば、納得のいくいいレースだと思います」

女子ボートレーサー・守屋美穂の強さの源泉は自信のなさ? メモを取る理由、オッズを見ない意味も語る
真摯にレースと向き合う守屋 photo by Ishikawa Takao
 レースは6人で競うが、水面に出るまではずっと自分との戦いだ。それを繰り返した先に理想とするレースがある。自分と向き合い続ける、その芯の強さが守屋美穂というひとりの女性を強豪レーサーたらしめているゆえんなのだろう。

「自信がない」と守屋は言う。だが自信がないからこそ、逆説的に地道な努力を続けられるのかもしれない。

 守屋に今後の選手生活の目標を問うと、こんな答えが返ってきた。

「う~ん、もっと周りを見られる大人になりたい。タイトルも獲りたいですけど、年齢に見合った気持ちの余裕が欲しいです。余裕そうに見えていることもあるかもしれませんけど、自分のことでいっぱいいっぱいなこともあるので。昔もレースのことを考えていましたけど、もっと考えなきゃいけないことに気づけましたね」

 守屋は今年、36歳になった。選手寿命が長いボートレース界では、まだまだ一線級を担える世代だ。

華やかさと強さを兼ね備える女子ボートレーサー。彼女はその中心を、これからも担い続けていくだろう。

インタビュー後編はこちら>> 「レディースチャンピオンでGⅠ初優勝を期す守屋美穂」

【Profile】
守屋美穂(もりや・みほ)
1989年1月20日生まれ、岡山県出身。高校3年時に全国高等学校女子ウエイトリフティング競技選手権大会(48kg級)で優勝。2007年にボートレーサーとしてデビューし、13年2月に初優勝を飾る。GⅡでは4度の優勝を誇る。

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