レディースチャンピオンでGⅠ初優勝を期す守屋美穂 ペナルティ...の画像はこちら >>
守屋美穂インタビュー 後編

【デビュー当時からの目標】

 通算優勝39回、4度のGⅡ制覇、2度の適用勝率(※)女子1位。女子ボートレーサー・守屋美穂は数々の実績を残してきた。そんな彼女にも手が届いていないものがある。

それがSG(スペシャルグレード)やGⅠなどのビッグタイトルだ。まだ一度もその栄誉を味わっていない。
※1期(半年)で残した勝率のこと

 加えて守屋は昨年のSG「ボートレースオールスター」の準優勝戦でフライングを切ったペナルティにより、1年以上GⅠ・SGを走れない日々を過ごした。

 そのペナルティ期間を終え、この8月から大舞台に復活する。まずは8月6日(水)~11日(月)にボートレース浜名湖で開催されるGⅠのなかでもランクの高いPGⅠ(プレミアムGⅠ)「第39回レディースチャンピオン」に出場し、SG戦線には「第71回ボートレースメモリアル」(8/26~31)からの参戦となる。

 守屋が2007年にデビューした際、目標に掲げていたことがある。卒業時に製作されるパンフレットには「嫌われない選手になる」と記した。と同時に、胸のなかにはもうひとつの目標があった。

「女子王座(現・レディースチャンピオン)を獲りたいって目標を掲げていたと思います」

 競馬など他の公営競技と同じように、ボートレースはSG、GⅠ、GⅡなど大会を格付けするグレード制を採用している。GⅠやGⅡは女子限定のタイトルもあり、レディースチャンピオンや年末に行なわれるクイーンズクライマックス(賞金女王決定戦)は女子ボートレーサーにとって花形の大会だ。

 守屋が初めてGⅠ出場を果たしたのは2012年にボートレース多摩川で開催された女子王座。デビューして約4年半というタイミングだった。

このときは準優勝戦や優勝戦に進むことはおろか、1勝することすらできなかった。

「悔しい一節で終わったんだろうなって思います」

 大舞台のデビューはほろ苦いものとなったが、この2012年以降は産休・育休明けだった2016年前期・後期を除いてA級レーサーとして定着。徐々にグレード戦を走る機会も増えていった。

【涙の逆転優勝】

 初めて頂点をつかんだのは、デビューから11年後の2018年。レディースチャレンジカップで優勝戦1号艇となり、イン逃げで自身初のグレード戦制覇を飾った。

 守屋は当時のことをこう述回する。

「素直にうれしかったですね。(同時開催される)男子のSGのチャレンジカップの脇役みたいな感じだったので、そこまで緊張はしなかったのかな。シリーズを通して主役じゃないのが逆によかったんだと思います」

 その翌年には男女混合で行なわれたGⅡ「モーターボート大賞」で優勝。男子のA級レーサーを相手に予選で3勝を挙げ、優勝戦1号艇をつかんだうえでの王道Vだった。

 その後はしばらく栄冠から遠ざかるが、2022年に大きなインパクトを残した。GⅡ「レディースオールスター」で初制覇を飾ったのだ。

 レディースオールスターはファン投票で出場メンバーが決まる。

この年、守屋は投票数1位で出陣した。しかし、1号艇で臨んだ初日のドリーム戦ではまさかの2着。その後に巻き返して優勝戦には進んだ。優勝戦は4号艇。最も勝利に近い1号艇にはシリーズで7戦6勝と圧巻の強さを誇った田口節子がいた。しかも、優勝戦の日は7メートルの追い風が吹き荒れ、コンディションも悪かった。

 不利な状況のなか、守屋はトップスタートに成功。最初のターンマークで田口をまくり、涙の逆転優勝を決めた。

「情けないレースばかりだったので、やっと結果が出せてすごくうれしかったですね。投票で選んでいただいていたので、やっと結果で恩返しできたなって気持ちでいっぱいでした」

 このように、守屋は随所で力を見せつけてきた。だが、肝心なGⅠには手が届かない。クイーンズクライマックスに関しては2018年から2023年まで6年連続で優勝戦に進出しているが、あと1勝が遠かった。

レディースチャンピオンでGⅠ初優勝を期す守屋美穂 ペナルティ期間に勉強し、好調の要因になっているものとは
好成績を残してきた守屋 photo by Ishikawa Takao

【高い意識で好結果残す】

 そして昨年、さらなる悲劇が守屋を襲う。前述のように、SG「ボートレースオールスター」の準優勝戦でフライングを切ってしまったのだ。

「GⅠもSGも出られなくなったのがすごく残念で、なんてもったいないことをしたんだろうって思いました」

 当時、既に出場が決まっていたSG「グランドチャンピオン」も取り消しになり、出場圏内だった大会も当然出られなくなる。

「ダービーも行けたし、そうなると年末のグランプリシリーズも行けただろうし、しっかり走っていればクラシックも行けたかもしれないし......。レディースチャンピオンもクイーンズクライマックスも、レディースオールスターも走れなかったので、いろいろもったいないことをしちゃいましたね」

 この1年、守屋は一般戦と女子戦、俗に言う「平場」のレースを走る日々を過ごした。この期間、守屋は何を思い、どのようにレースに臨んできたのだろうか。

「優勝回数を重ねて賞金を上積みすることだったり、(2026年の)ボートレースクラシックの権利を獲ることだったりを目標にしていたので、そんなにモチベーションが下がることなく過ごせていました」

 昨年9月から今年7月までのフライング休みの期間も守屋は強かった。計26節を走り、15回優勝戦に進出。優勝から遠ざかる時期もあったが、今年3月にボートレース尼崎で約10カ月ぶりに優勝を飾ると、勢いに乗って7月末時点で計4回の優勝と荒稼ぎしている。

「尼崎での優勝はすっごくうれしかったです。デビュー戦もデビュー前の練習も尼崎だったので、早く優勝したいなという気持ちがありました。成長した自分を見てもらえて、お客さんもたくさんいたので」

 守屋は声を弾ませて当時の喜びを語った。


レディースチャンピオンでGⅠ初優勝を期す守屋美穂 ペナルティ期間に勉強し、好調の要因になっているものとは
ファンからの人気も高い photo by Ishikawa Takao

【タイトル奪取に意欲】

 また、この1年間取り組んできたこともある。

「去年くらいからもっとエンジンを出していかなきゃいけないって思いました」

 ボートレースのエンジンは、競輪選手の自転車やオートレースのバイクと違って自前のものではない。抽選で引き当てたエンジンを自力で調整して、スペックを引き出さなければならない。そのエンジン調整力のアップに努めてきた。

「新しい調整の仕方を勉強しようと思って同期(の選手)に話を聞いたりもして。それがたまたま今の時期にはまってエンジンが出ることが多いです。でも、もっとコンスタントに出さなきゃいけないし、エンジンが出ていなくてもカバーできる技術も身につけないといけないと思っています」

 直近の優勝ラッシュはビッグレースを走れない雌伏の期間での積み重ねの成果なのだろう。

 最後に、GⅠ・SG戦線復活へ向けた今のモチベーションを尋ねてみた。

「ずっと勉強してきたことをトータルで生かせればいいかな。やっぱり日々の積み重ねなので。その積み重ねをしっかり生かせたらいいと思います」

 インタビュー前編でも触れたが、今回の取材で守屋はたびたび「自分に自信がない」ことを強調していた。だからこそ、未到達のタイトルへの思いは大きい。

「タイトルを獲ったら自信につながるような気がするので、早く獲りたいなという気持ちが強いです」

 この1年、守屋にとっては悔しさが多い日々を過ごした。

だが、そのなかで血肉にしてきたこともある。8月6日にはレディースチャンピオンが開幕する。

 強い守屋美穂を再び大舞台で見られるのは、もうすぐだ。

インタビュー前編はこちら>> 「女子ボートレーサー・守屋美穂の強さの源泉は自信のなさ?」

【Profile】
守屋美穂(もりや・みほ)
1989年1月20日生まれ、岡山県出身。高校3年時に全国高等学校女子ウエイトリフティング競技選手権大会(48kg級)で優勝。2007年にボートレーサーとしてデビューし、13年2月に初優勝を飾る。GⅡでは4度の優勝を誇る。

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