F1第14戦ハンガリーGPレビュー(後編)

◆レビュー前編>>

 王者マックス・フェルスタッペンと0.163秒差という誇らしい事実に影を落としたのは、「結果」だけではない。

 ベルギーGPで問題となったチーム内のミスコミュニケーションが、またしても露わになってしまった。

そのことにも、角田裕毅(レッドブル)はフラストレーションを募らせていた。

【F1】角田裕毅「エンジニアと息が合っていない」問題 根底に...の画像はこちら >>
 先週の問題を受けて、角田と担当レースエンジニアのリチャード・ウッドはしっかりと話し合い、金曜の走り始めからふたりの無線交信は明らかに改善していた。交信の頻度は上がり、やりとりは簡潔に、具体的に、ハッキリとした発音で、お互いに復唱確認を怠らなかった。

 しかし土曜午前のFP3で、最後のアタックランに向かう際にブレーキバランスの戻し忘れが発生する。予選に向けた最終確認ができないまま、ぶっつけ本番のセットアップ調整となってしまった。

「走る前に確認してくれよ、寝てるんじゃないよ!」(角田)

 それ自体は、ガレージ内でマシンの電子セットアップデータを書き換えるデータエンジニアの作業ミスである。角田車を統括する担当レースエンジニアがダブルチェックしていれば、未然に防げたミスだった。

 ただし、あと2回アタックをする時間は残されていたものの、その2回ともにターン1やターン2で挙動が思わしくなくアタックを中断したのは角田自身だ。そこでアタックしなければ時間が足りなくなるという事実を共有できていなかったのは、レースエンジニアと角田のコミュニケーションミスと言えた。

 つまり、予選に向けた最終確認ができなかったのはブレーキバランスの設定ミスだけではなく、それぞれが改善できる余地があったことになる。

 そして決勝でもピットインのタイミングを巡って、角田がフラストレーションを露わにする場面があった。

「コミュニケーションの誤解なのか、なんなのかわかりませんけど、もしポイント圏内を走っていたとしたら、そのせいでポイントを失っていた。

ちょっとこれは話し合うべきだなと思います。(原因は)わからないです。わかっていたら今回も防げていると思います。そこをしっかりと話さなきゃいけない」

【シーズン後半戦最大の課題は?】

 ドライバーの感覚や要求をチームに率直に伝えるのは、間違いなくいいことだ。それを参考にしたうえで、ストラテジストがレース戦略を決定する。

 今回の場合で言えば、角田がピットインを要求したタイミングは、アンダーカットを仕掛けた相手の後ろに戻るだけで意味がない。チームが考えていたのは、1周でも長く引っぱり、第2スティントでは周囲のドライバーより1周でもフレッシュなタイヤで、それもソフトタイヤを投入してコース上でオーバーテイクショーを繰り広げようとしていた。

 コクピットの中にいるドライバーにはレースの全体像はわからないため、要求が戦略と異なるのは珍しいことではない。しかし、要求どおりにならなかったからといって、それが即ミスコミュニケーションや戦略ミスというわけではない。レース後に全体を見返した時点で、角田自身もそれは理解したはずだ。

 レッドブルのガレージでホンダの現場運営統括をする折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーも、こう語る。

「基本はストラテジストが全体を見て判断しています。ドライバーは自分目線で言いますけど、ストラテジストはいろんな物を見ながら判断して戦略を判断しているので、そこにギャップが生まれることはけっこうある。

 ただ、そこは仕方がないと思います。ドライバーとしてはその場で何かアクションをしたいという思いから出てきたコメントだと思いますし、見えている情報量が違うのでそこにギャップが生じるのは仕方がないことだと思います」

 問題の根底にあるのは、角田がレースエンジニアの無線や対応を絶対的に信頼することができていないという点であり、レースエンジニアもそれだけのコミュニケーションを取ることができていないということだ。

 ハンガリーGPでは「週末を通して安定した走りで予選・決勝の結果につなげたい」としていた角田自身もレースを終えて、やはりそこがシーズン後半戦に向けた最大の課題になると振り返った。

「レース週末を通してコンスタントに走るためには、エンジニアたちとのコミュニケーションがかなり重要になる。課題はそっちのほうですかね。エンジニアたちとの息があんまり合っていないので」

【3週間の夏休みをどう生かすか】

 コミュニケーションは少数でやるものではなく、そこに関わる全員でやるものだ。全員の共通認識が高まれば高まるほど、余計な説明はいらなくなり、シンプルな会話でより精度の高い情報伝達が可能になる。

 エンジニアも、ストラテジストも、そして角田自身も......。誰かひとりの問題ではなく、そこに関わる全員がよりよいコミュニケーションを引き出すための責任を負っていることを強く認識し、改善に努めなければならない。

 これから3週間の夏休みを経て、フェルスタッペンまであとわずかに迫った差をさらに縮め、待望の結果につなげるために。そして来季を切り拓くために──。やれることはすべてやり尽くす夏にしてもらいたい。

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