緒方孝市が語る広島の急失速 前編

 7月、広島は4勝16敗3分けと大きく負け越した。急失速した要因は何だったのか。

走・攻・守三拍子揃った名選手として長らく広島で活躍し、監督として球団史上初のリーグ3連覇を成し遂げた緒方孝市氏に聞いた。

緒方孝市が分析する広島の急失速 昨シーズンの終盤と成績は似て...の画像はこちら >>

【投打の失速の要因】

――失速の主な要因として考えられることは?

緒方孝市(以下:緒方) 長いシーズンにはいくつかポイントになる時期がありますが、7、8月もそうです。厳しい暑さで連戦が続くなか、チームとして踏ん張りたかったところですが、大きく負け越してしまったのは残念でした。要因はやはり得点力不足。今は投高打低でどのチームも点を取るのに苦労していますが、それでも16試合連続で3得点以下(球団史上66年ぶり)というのは厳しいです。

 一方、投げるほうにも問題はありました。ほとんどの試合で先制され、相手に主導権を握られるケースが目立っていました。先発の3本柱である床田寛樹、森下暢仁(ひろと)、大瀬良大地らに関しては、先制されながらもしっかりと試合を作ってくれてはいたものの、7月はこの3人にほとんど勝ち星がつきませんでした。

――7月の3投手の成績を振り返ると、大瀬良投手が2勝を挙げていますが、床田投手、森下投手は未勝利でした。

緒方 3人とも防御率は2点台なのですが、ここまで誰も貯金ができていません。森下に至ってはなかなか援護してもらえず12敗(5勝/8月4日時点。以下同)してしまっていますし、主力投手で勝てないことがチーム成績に直結していますよね。

 これはリリーフ陣の誤算も関連しています。

8回、9回を予定していた栗林良吏とテイラー・ハーンが失点する試合が多く、追いつかれたり、ひっくり返されたりしてしまった。これも7月に負けが込んだ大きな要因です。

 要因は、ほかにもあります。先発の頭数が不足しているんです。開幕時は7、8人の名前がスっと出てくるくらい頭数が揃っていたのに、現在ローテーションを守れているのは先ほど挙げた3人と、4、5番手に森翔平や玉村昇悟がいますが、6番手は不在の状態です。4番手まではなんとか試合を作れていますが、5番手以降を固定できていないのは不安材料です。

【昨季終盤の大失速との違い】

――7月31日に新規選手契約およびトレードの可能期間が終了。広島はセ・リーグで唯一、外部からの補強がなく、辻大雅選手、前川誠太選手を支配下登録しました。

緒方 セットアッパーもしくはクローザーができるタイプの外国人の補強はアリかなと思っていましたが、いい選手はメジャーがプロテクトしますし、これに関しては相手のチーム事情やタイミングもありますからね。

――昨年9月、5勝20敗と歴史的な大失速で優勝争いから脱落してしまいました。その時とチーム状況は似ていますか?

緒方 数字を見れば今年の7月と似ているかもしれませんが、内容は違います。昨年9月は広島の野球ができなくなっていました。

一番の要因となったのは、マツダスタジアムでの巨人戦(9月11日)。2点リードの9回に9失点して逆転負けを喫してしまったのですが、あの試合がその後の明暗を分けました。

 そのカード3連戦の前は首位の巨人と1ゲーム差だったわけですが、3連敗でゲーム差が4に広がりました。以降は、それまでできていた投手中心の守り勝つ野球ができなくなって、全然勝てなくなりましたから。

――夏場の疲労蓄積も大きかった?

緒方 そうですね。夏場はピッチャーが疲れてきますし、とらえられる打球も多くなっていました。ただ、それでもバックがしっかりカバーすることで失点を防ぎ、ピッチャーを助けていたんです。守備で勝ちを拾うことも多かったですから。

 それが、9月に入ってからは守りでピッチャーを助けることができなくなった。ひとつのエラーが1失点どころか大量失点につながるような試合も目立ってきて......そうなるとピッチャーも集中力が切れてしまいますし、悪循環でしたよね。

――9月11日の巨人戦での逆転負けが悪い流れを加速させてしまった?

緒方 あの負けでリーグ優勝が遠のき、モチベーションや集中力の維持が難しくなったのか、精彩を欠いたプレーが目立つようになりました。目標を見失ってしまうと、そこから立て直していくことは難しくなります。

 一方、今年7月の場合は「投打がかみ合っていない」ということ。得点力不足という部分は昨季と共通していますが、今季は新外国人選手のサンドロ・ファビアンとエレウリス・モンテロがいて機能していますし、特にファビアンは、チーム唯一の二2ケタ本塁打をマークするなど期待どおりの活躍を見せてくれています。昨季は開幕早々にふたりの新外国人選手が離脱してしまったことを考えれば、戦力的には充実しています。ケガ人も少ないですしね。

 投げるほうでは先ほどお話ししたように、先発3本柱の床田、森下、大瀬良が防御率2点台を維持していてもなかなか勝てない。つまり、投打の歯車がかみ合っていないというのが現状でしょうね。逆にいえば、歯車がかみ合えば勝機を見出せるのでは? というのが今の状態だと思います。

――ちなみに、今季はビジターで大きく負け越してしまっています(15勝31敗2分け)。

緒方 興味深い現象ですよね。広島だけでなく、DeNAや巨人、中日もホームで勝ち越して、ビジターでは大きく負け越しています。ただ、面白いのが阪神で、ホームよりもビジターで大きく勝ち越しているんです(ホームでは28勝20敗1分け、ビジターでは31勝17敗1分け)。

 毎年、優勝するチームはホームでの勝率が非常に高い傾向がありますが、今季の阪神はビジターで非常に強いですね。

優勝争いやAクラス争いをしていくうえで、ビジターで最低でも5割をキープしていくことが大事です。

 そういう意味で、ビジターで弱いということは気になりますし、大きな課題でしょうね。リーグ優勝を狙うには厳しい状況ですが、Aクラス入りのチャンスはありますし、目標を見失ってはいけません。ここから巻き返していってほしいですね。

(後編:広島の巻き返しポイント 若手野手たちには厳しいゲキ「必死にやるだけでは一軍の場合はダメ」>>)

【プロフィール】

緒方孝市(おがた・こういち)

1968年生まれ、佐賀県鳥栖市出身。1986年に広島東洋カープからドラフト3位で指名され入団。2008年まで主に外野手として活躍し、盗塁王のタイトルを3度、ゴールデングラブ賞を5年連続で受賞した。2009年に現役を引退後、コーチとして後進の指導。2015年に監督に就任すると、2016年から18年にかけてチームを球団史上初の三連覇に導いた。2019年に退任後、野球評論家などで活躍中。

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