緒方孝市が語る広島の急失速 後編
(前編:広島の急失速を分析 昨シーズンの終盤と成績は似ているが「内容は違う」>>)
広島OBであり元監督の緒方孝市氏に聞く広島の急失速。その後編では、今後に巻き返すためのポイントを語ってもらった。
【先発の整備、リリーフ陣の起用法について】
――7月に急失速してしまった広島が後半戦で巻き返していくため、まず着手しなければいけないことは?
緒方孝市(以下:緒方) まずは先発ローテーションの整備だと思います。先ほど(前編)も言いましたが、やはり5番手、6番手をしっかりさせるとチームも安定するんじゃないのかなと。8月1日の中日戦で先発した若手の髙太一、8月3日の中日戦で久しぶりに先発した遠藤淳志は、ともにチームに勝ちをもたらしてくれました。このまま5、6番手の枠の争いが活性化することはいいことだと思います。
――期待されていた常廣羽也斗投手やアドゥワ誠投手、ジョハン・ドミンゲス投手らが今のところ誤算ですね。
緒方 本来であれば出てきてほしい、戦力になってほしいピッチャーたちです。このあたりのピッチャーも先発ローテーションの5、6番手の争いに入ってくるようになればいいですね。一方で野手のほうでは、これまでくすぶっていた選手たちが徐々に戦力になりつつあります。今は離脱中の中村奨成をはじめ、大盛穂、羽月隆太郎ら、安定感はまだないですが、光るものを見せて踏ん張っていますよね。課題は、継続した働きぶりを見せられるかどうかじゃないですか。
――リリーフ陣はいかがですか?
緒方 リリーフを立て直せるかどうかもポイントで、役割をしっかり固定してみてもいいのかなと。逆に役割を流動的にしすぎると、安定した成績を残すのは難しい。一時期だけ外すのか、まったく新しい形にするのか、といったことを明確にしてみるのもひとつの手だと思います。
例えば、今季安定している森浦大輔、島内颯太郎を相手の打順に合わせるのではなく、8回は森浦、9回は島内といったように任せるイニングを固定してみるとか。勝利した7月31日の阪神戦、8月1日、3日の中日戦ではそういった起用が見られましたけどね。それと、森浦や島内の連投が続いた場合は、好調の中﨑翔太にカバーしてもらうとか。各ピッチャーの役割を明確にすることが、安定して力を発揮することにつながるかもしれません。
――中﨑投手は37試合を投げ、防御率1.72(8月4日時点。以下同)。今後の起用法にも注目ですね。
緒方 5、6回に投げさせたり、7、8回に準備させておいたり、といった幅広い使い方では、1試合はよくても3試合、5試合と続けていくのは選手としては難しいんです。そこは割り切って、「このイニングは絶対に中﨑に任せる」などと決めるのもひとつの手段だと思います。
今季、あまり状態がよくない栗林良吏とテイラー・ハーンは、投げるイニングを前倒ししたり、僅差で負けている試合などで投げさせるとか。ただ、そこでよくなったから「うしろへ戻そう」とか、また打たれたから「前で投げてもらおう」とか、あれこれ変えないほうがいい場合もあります。「相手の打順に合わせて」「ピッチャーのコンディションを見て」などと言えば、言葉の響きはいいのかもしれませんが、なかなか難しいです。
リリーフ陣を整備してリードしている試合をしっかりと勝ち切ることができるか。大きく負け越した7月のように、終盤の大事なところで追いつかれる、ひっくり返される試合をしていると、巻き返すどころかズルズル落ちていってしまいます。
【ベテランと若手、それぞれに期待すること】
――ほかに巻き返しのポイントはありますか?
緒方 ベテラン勢の頑張りでしょうね。チームが苦しい時期は、経験のあるベテランが要所要所で活躍してくれると本当に助かるんです。秋山翔吾にしても菊池涼介にしても、スタメンで出られる力はあるにせよ、毎試合出るとなると体力的に難しいものがあります。現状、若手にチャンスを与えているチーム事情のなか、大事な場面で使われると思いますから、そこで力を発揮してほしいですね。
ファームでは堂林翔太や田中広輔、今季一度も一軍に上がっていない松山竜平。こういったベテランが、例えばひと振りであっても、ワンプレーであっても、チームに流れを持ってくるような働きをしてくれればなと。そういったことが、後半戦で巻き返していくためのポイントになるかもしれません。
―― 一方で若手野手はいかがですか?
緒方 一軍で試合に使ってもらうためには、よりアピールが必要だと思います。例えば、林晃汰は長打を期待されているわけで、ファームでも、一軍での少ない打席でも、その期待に応えるような成績を残さないと使ってもらえません。先ほど名前を挙げた大盛の場合、チームが求めていたのは代走や守備固めでしたが、彼はそこでファインプレーやいい走塁をして打席も与えてもらった。
田村俊介は昨季に苦労したことを生かし、今季はどういう姿を見せてくれるか期待していましたが、伸び悩んでいますね。ドラフト1位ルーキーの佐々木泰は故障が残念ですが、少ない出場機会のなかでいいものは見せてくれていました。若手たちが必死にやっているのは実際にプレーを見ていても、画面越しに見ていても伝わってきます。でも、必死にやるだけでは一軍の場合はダメなのです。やはり、結果が伴わなければ使ってもらえない世界ですから。
――1位の阪神が独走状態な一方、Aクラス争いが激しくなりそうです。
緒方 正直、優勝はかなり厳しいと思いますが、Aクラス争いはどうなるかわかりません。2位は手が届く位置にありますし、目標を見失ってはいけません。繰り返しになりますが、巻き返していくためには先発とリリーフを含めたピッチャー陣の整備、要所でのベテランの働き、といったことがポイントになるような気がします。
それと、若手をはじめ今チャンスをもらっている選手たちは、Aクラス争いのような緊張感のある試合を経験できるチャンスでもあります。消化試合などとは全く違う貴重な経験を積めることを、肝に銘じてプレーしていってほしいと思います。
【プロフィール】
緒方孝市(おがた・こういち)
1968年生まれ、佐賀県鳥栖市出身。1986年に広島東洋カープからドラフト3位で指名され入団。2008年まで主に外野手として活躍し、盗塁王のタイトルを3度、ゴールデングラブ賞を5年連続で受賞した。2009年に現役を引退後、コーチとして後進の指導。2015年に監督に就任すると、2016年から18年にかけてチームを球団史上初の三連覇に導いた。2019年に退任後、野球評論家などで活躍中。