【大谷翔平】ドジャース打撃コーチが説明する「二刀流」のルーテ...の画像はこちら >>

前編:大谷翔平&ドジャース 2年連続世界一への布石

 ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平は今季もナショナルリーグのMVP候補に挙げられている。現地時間8月4日のゲームを終えた時点で打率.274、38本塁打、73打点、15盗塁、OPS(出塁率+長打率).978と見事な成績。

本塁打はメジャー3位(ナ・リーグ2位)、OPSは2位(同1位)なのだから、この5年間で4度目のMVP獲得も有望だろう。

 もっとも、シーズン中盤以降、大谷の確実性が落ちているのが気がかりではある。今季最初の70試合では打率.297、OPS1.034、三振率24%だったのが、直近の40試合では打率.230、OPS.886、三振率31%。特に7月21日から8月2日までの11戦では46打数23三振とハイペースで三振を喫し、デイブ・ロバーツ監督から珍しく苦言を呈されたこともあった。打撃が下降線になったタイミングが投手としての復帰時期とかぶっていることから、二刀流の負担の大きさ、継続の難しさを改めて指摘する声も徐々に増えてきている。

 大谷の打撃に何が起こっているのか。7月下旬、ドジャースのアーロン・ベイツ打撃コーチに大谷の現在の投打のルーティンを詳しく聞くとともに、ここに来てやや停滞していることの答えを求めてみた。

【二刀流本格復帰と打撃停滞は関係あるのか?】

「投手として先発する際、翔平が多くのことをこなしているのは確かだ。登板日のルーティンとしては、まず投手ミーティングからスタートする。打者ミーティングと時間が重なる場合は、投手ミーティングのあとに打者ミーティングに参加する形。その後、登板に向けたプレゲームの準備をすべてこなし、打撃のルーティンに入る。打撃のルーティンは通常より少し早めに始まり、短めになる。

 これは登板日限定だが、打撃練習を少しだけ減らしている。

だいたい10分くらいかな。普段の日とそれほど大きな差があるわけではないが、体力やエネルギーの節約という意味で多少軽くしている。

 7月30日までのシンシナティへの遠征中、レッズ戦の試合前の翔平は猛暑の影響でブルペンを短くしたようだった。天候、疲労などによって、そのようにメニューを多少変更することがある。とはいえ、無計画に変えているわけではなく、すべて一定の方針のなかで調整している。翔平はルーティンを大切にしているから、その枠組みのなかでやっている。そのレッズ戦にしても、登板2日前はもともと軽めの調整の日であり、調子がよかったからこそブルペンは軽めにしたということなのだろう。

 ただ、こういった試合前のルーティンの増加が原因で、打撃面が停滞し、三振が増えたかというと、そういうことではないと思う。バッティングの成否は、相手の投手が誰で、どんな球を投げているかに大きく左右されるものだからだ。

 たとえば7月26日のボストン・レッドソックス戦、翔平は3三振を喫した。レッドソックスのエースであるギャレット・クロシェットから先頭打者本塁打を打ったのは見事だったが、やはりクロシェットは優れた投手だ。だから2打席目以降に連続三振を喫したのは仕方がない。

(カウントの)早い段階で仕留められればヒットやホームランが出やすいが、ファウルなどで打席が長引くと三振のリスクが高くなる。打席の結果というのは、常に相手投手の攻め方や球種によるものなんだ」

【「あれも打てる、と思って振ってしまうこともあるのだろう」】

【大谷翔平】ドジャース打撃コーチが説明する「二刀流」のルーティンと打撃成績停滞の理由
大谷について語ってくれたドジャースのベイツ打撃コーチ photo by Sugiura Daisuke
 プレーの結果は相手次第でもあり、「打てなかった=不調」と短絡的に考えるべきではないというベイツ打撃コーチの言葉はもちろん理解できる。それにしても最近の大谷にはやや疲れが見え、特に猛暑でのプレーが続いたシンシナティ、タンパベイでのゲームでは消耗も目についた。

 7月29日のレッズ戦では自己6度目の1試合4三振。その試合後、ロバーツ監督は「完全に"振りにいくモード"に入ってしまっていた。彼が一番よい状態の時は、ボールをうまく捉えて、フィールド全体に打ち返しているのに」と大谷のアプローチに少々辛辣だった。

 ベイツコーチも、「大谷は力みすぎるとストライクゾーンを広げてしまうことがあるのか」という問いに関しては否定しなかった。もっとも、この2年は大谷のスイングを間近で見守ってきた理論家は、シーズンを通じての成績が依然として優れていることを指摘。主砲への信頼を強調する姿が印象的でもあった。

「もちろん翔平でも、ボール球を追いかけてしまうことがあるのは事実だ。ただ。それはどの打者にもあること。

ちょっと無理に打ちにいってしまい、ストライクゾーンから外れた球をスイングしてしまう。特に翔平の場合、もともと打てる球種が多いので、『あれも打てる』と思って振ってしまうこともあるのだろう。それがストライクではない場合、ヒットにできる確率は必然的に下がる。それゆえに、積極性とのバランスが難しくなる。

 しかし、確かに今の翔平は絶好調ではないかもしれないが、それでも本塁打がコンスタントに出ていることが能力を物語っているという考え方もできる。今季の打率は去年よりは低いかもしれないが、それでも長打は打っているし、本塁打も出ている。どんな打者でも毎年、成績に違いはある。エンゼルス時代も年によって打率が違ったり、本塁打の本数が違ったりしていた。でもOPS(出塁率+長打率)や総合的な生産性では、常に非常に高い水準にある。今年もそれは同じであり、それこそが翔平がどれほど特別な打者かを示しているのだろう」

 ベイツの言葉どおり、どちらかといえば低調な時期でも本塁打が安定したペースで飛び出し、貢献度を保てるのが大谷らしさに違いない。三振の増加、それが始まったのが投手としての復帰時期にかぶっているのはやはり気がかりだが、スランプ自体はあることだ。「50-50」(50本塁打・50盗塁以上)という金字塔を打ち立てた2024年にしても実は8月は打率.235、OPS.886に終わっていたが、9月に打率.393、OPS1.125と鮮やかに復調している。

 二刀流復活1年目の今季、終盤戦の大谷はどんな軌跡を辿っていくのか。投球再開によって不確定要素が増えたからこそ、余計に興味深い戦いが続いていきそうだ。

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