【大谷翔平】実力者が次々と戻ってきたドジャース先発投手陣 2...の画像はこちら >>

後編:大谷翔平&ドジャース 2年連続世界一への布石

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【トレード期限で大きな動きを見せなかった背景】

 今季のメジャーリーグは大混戦の様相を呈している。昨季の覇者ロサンゼルス・ドジャースはナ・リーグ西地区首位を走ってはいるものの、シーズン後半にかけてやや停滞気味である。地区2位のパドレスにも3ゲーム差まで迫られており、この13年で12度目となる地区優勝はまだ安泰ではない。

 そんな状況下でも、7月31日のトレード期限までにドジャース首脳陣はそれほど大きな補強を行なわなかった。ブルペン補強にブロック・スチュワート、外野の一角にアレックス・コールを加えた程度。基本的にこれまでと同じ陣容で終盤戦、プレーオフに向かっていく。このように抜本的な動きを見せなかった主な理由は、ここに来て先発投手陣が整備されてきているからではないか。

「勝つためには"投手力・守備力・タイムリーな打撃"が必要。そのなかで、しっかりアウトを取れる先発投手が健康でいてくれるのはすごく大事なことだ。去年はそれがないなかでも何とかやってきたが、やっぱり先発が機能すれば、チーム全体の"生活の質"も上がる」

 デイブ・ロバーツ監督のそんな言葉どおり、ベースボールはやはり投手力がカギを握る。今季前半は山本由伸の孤軍奮闘という印象だったドジャースの先発ローテーションだが、前半戦終了間際に大谷翔平、もともとエース格の力を持つタイラー・グラスノーがマウンドに復帰。さらには過去サイ・ヤング賞2度のブレイク・スネルも8月2日、ついに先発マウンドに戻ってきた。レジェンドのクレイトン・カーショウ、若手のエメット・シーハンと合わせ、ネームバリューではメジャー最高級の「6人ローテ」が確立されつつある。

 昨秋、ドジャースは信頼できる先発投手はジャック・フラーティ(デトロイト・タイガース)と山本しかいないという状況ゆえ、プレーオフ開始前は必ずしも本命視されていたわけではなかった。それでもブルペンの頑張り、ウォーカー・ビューラー(現ボストン・レッドソックス)の復調などで乗りきり、4年ぶりの世界一を成し遂げた。

その底力は見事ではあったが、長期視野で勝ち続けられるチームづくりを目論むドジャースが理想にしていた勝ち方ではなかったのだろう。ゆえに昨オフ、大谷の復帰が間近に迫っているのにもかかわらず、スネル、佐々木朗希の獲得、カーショウとの再契約など、先発の層を分厚くする方向に向かったのだった。

【「これが、私たちが"思い描いていた姿"だ」】

「毎晩、しっかりした先発投手がいれば、試合を作ってくれて、勝つチャンスが高くなると感じられる。ローテが整っていると"この試合は取れる"って気持ちで入れるし、それがチーム全体のメンタルにもよい影響を与える」

 ロバーツ監督のそんな見方はあまりにも正しい。ローテーションが安定していれば、チームの大崩れはなくなり、心の拠り所にもなる。頻繁にブルペンゲームを行なっても勝ちきれることは示されてきてはいるが、それでも長いイニングを投げられる投手が豊富なことに越したことはない。

「私たちはいいチームだ。去年はワールドシリーズを勝ったわけだけど、去年よりもいいチームだと思っている。シーズンはまだたっぷり残っているし、みんなが健康を取り戻せば、投手陣も勢いに乗れる。そうしたら、いいベースボールができるようになるさ」

 主力野手のひとりであるテオスカー・ヘルナンデスが、"Better than last year(昨季よりもいいチーム)"と自信を持つ理由がどこにあるのかは誰の目にも明白だ。今季も結局は故障者続出に苦しむことにはなったが、"向上の理由"であるはずの先発投手たちがひとり、またひとりと戻ってきている。

 8月1日以降、カーショウ(タンパベイ・レイズ戦で6回無失点)、スネル(同5回3失点)、山本(同6回途中まで無失点)、グラスノー(カージナルス戦で7回1失点)、シーハン(同5回無失点)がすべて好投した姿を見て、ファンは勇気づけられていることだろう。

ドジャースの選手たちも心強く感じているに違いない。

 もちろんここで今季初めて頭数が揃ったからといって、もう順風満帆だと言いたいわけではない。いくつかの不確定要素が頭に浮かんでくる。

 酷暑のなかでの登板となった7月終盤のシンシナティ・レッズ戦で緊急降板した大谷は、これから目論みどおりにイニングを増やしていけるのか。右肩のインピンジメント症候群で負傷者リストしている佐々木は何らかの形で貢献できるのか。山本以外はすべて故障上がりの先発投手たちは今後、健康体を保てるのか。

 ただし、それらの疑問符を考慮したうえでも、投手陣がいい方向に向かっているのは間違いないはずである。

「これが、私たちが"思い描いていた姿"だ。ここに至るまでの道のりは決して一直線じゃなかったけど、8月に入った今、ようやくチームが"本来あるべき姿"に近づいてきた」

 ロバーツ監督はそう述べ、シーズン終盤に向けて静かな自信をアピールしていた。打線はまだエンジン全開とは言えずとも、今秋のカギはビッグネームぞろいの先発ピッチャーたちが握っている。

 順調にいった場合、ローテーションを狭めるプレーオフでは数人をリリーフに回し、ブルペンの層を厚くすることも可能となる。2023年のWBCのように、本当に重要なゲーム限定であれば大谷を抑えで使うことだってできるかもしれない。

そういった"ドリームシナリオ"の向こう側に、メジャーではめっきり難しくなった2年連続世界一という夢が見えてくるに違いない。

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