リーグ5連敗でJ1最下位に沈むアルビレックス新潟が苦しんでいる。監督も交代し、主力選手が他クラブへ移った。
【監督交代後も厳しい状況が続く】
J2時代の2020年から積み上げるポゼッションサッカーで、昨シーズンは松橋力蔵監督(現FC東京)のもと、ルヴァンカップでクラブ史上初めての準優勝。リーグ戦は16位で残留したが、J1に再昇格した2023年から示したパスサッカーは多くのサッカーファンから賞賛された。
登山に例えれば、ゆっくりではあるが順調に上を目指しているように見えたし、登っている山も間違っていないように感じていた。だが、転がり落ちるのは早いものだ。
プロの監督業1年目の樹森大介監督を招聘してスタートした、J1復帰3年目の今シーズン。第24節終了時点で4勝7分け13敗の勝ち点19で最下位に沈む。総失点はリーグワーストの41点を喫し、総得点は24点と迫力に欠ける。6月23日に契約解除となった樹森前監督の後任として、コーチから内部昇格した入江徹監督も就任から4戦全敗と厳しい状況が続く。
樹森前監督のもと、今季開幕のアウェー横浜F・マリノス戦は新生アルビのスタイルを示したゲームだった。ボールを自分たちで動かしながら前進し、隙があれば長いパスをさし込んでゴールを目指す。前半26分の先制点は、左DF橋本健人が送った対角のフィードに、抜け出した右FW太田修介(現湘南ベルマーレ)が流し込む新しい形だった。
常にコンパクトな陣形を保ち、開幕前のキャンプで取り組んだハイプレスで相手に"やみくも"に蹴らせて回収する守備も機能。
【序盤の悪い流れから軌道修正できず】
しかし、いい流れは継続できなかった。積雪とアウェー連戦の影響でクラブハウスに戻れず、大阪などで調整を続けた影響も響いたのか開幕8戦未勝利(4分け4敗)と勝利から遠のいた。樹森前監督と同様、J1初舞台のスタッフも多く、思うように軌道修正できなかった。
終盤までリードしていてもシステム変更や選手交代が裏目に出て勝ち点を失うゲームも続き、次第に迷いが生じ始めた。日々の練習は失点がかさんだ守備の改善にフォーカスされ、持ち味であるはずの攻撃力を磨くことが減っていった。選手たちは口々に「1対1のバトルなど守備の練習だけで、攻撃の練習はあまりしていない。どう前進し、点を取るかにもっと力を入れたいが...」と話していた。
これまで積み重ねていたものも、練習で取り組まなければ研ぎ澄まされていかない。結果、自分たちの独自スタイルで押しきるのか、ミドルブロックで構えてカウンターを狙うのかが不明瞭で、方向性を見失った。
試合に勝てず「前進の手法を変えたほうがいい」と話す選手もいれば、「自分たちの形を貫きたい」と意見はバラバラ。4月19日にホームで京都サンガF.C.に敗れたあとには「外(スタッフ陣)からの具体的な狙いや選手交代の意図が感じられない」と、本音を口にする選手もいた。
結局、クラブは6月に指揮官の交代を決断。樹森前監督が目指したスタイルは完成形を見せずに終わった。だが、監督交代は今のところ特効薬とはなっておらず、特に失点数はここ4試合で11点と歯止めが効かない。
【ボール非保持時のクオリティー】
原因はどこにあるのか―。
試合ごとに守備のプランは提示されるが、DF千葉和彦は「結局は個でどれぐらい守れて、はじけるか。個の集合体でしか戦術はない。日々の練習でどれだけ細部にこだわれるか」と話す。
体格や走力の差はあるにせよ、ボール非保持時の立ち位置やランニングコースで阻止することは可能。安定した守備がいい攻撃につながることは間違いないが、現状、ボールを持っていない時の選手の思考、プレーのクオリティーは高くない。
「意識で変えられる部分はある」と千葉。守りきるサッカーを思考していないぶん、ボールを失った瞬間の切り替え、即時奪回の意識や技術の見直しは急務だ。
セレッソ大阪とのリーグ再開戦までの中断期間に、選手たちはプレーが止まる度に意見交換や確認を行なっている。8月2日の練習では、守備時の立ち位置で同じミスを繰り返す選手に対して、ベテラン選手が「何回、同じミスを繰り返すの?」と厳しく指摘。
ピッチでプレーするのはもちろん選手たちだが、コーチ陣もポジティブな言葉掛けだけでなく、厳しいゲキも必要になってくる。クラブ全体が危機感を持ち、もっと強く求め合わなければ残留は果たせない。
【残留への希望は新戦力】
残留に向け「最後は気持ち」という言葉をチームからよく耳にするし、理解できる。一方、それだけで勝てるほど甘くないのがプロの世界。気持ちだけで勝てるのであればメンタルだけを鍛えればいいわけで、ボールを使った日々の練習は意味を持たないものになる。新潟にはボールを扱うことに長け、技術で相手を上回る選手が集まっているのだから、その力を最大限に引き出して欲しい。
勝ち点を伸ばすには何が必要か。新潟史上最高を掲げた今シーズンだったが出だしから低調なパフォーマンスが続き、6月からは「新潟"市場"最高」とばかりに他クラブからオファーが殺到して一気に6人がチームを抜けた。
だが、今夏に新たに7選手が加入した。既存の選手たちは負けられない状況が続き、どうしても視野が狭まり大胆なプレーが出しづらい状況にあるかもしれない。千葉は「これまでくすぶっている思いを持った選手たちに爆発してほしい」と7人のニューフェースに期待する。
登山でいえば、今、何合目にいるのか。もしかしたら日が暮れてベースキャンプを張っているのかもしれない。急いで登れば息切れするが、ゆっくりと歩いている余裕はない。新たな光を灯す7つのランタンは集まった。新潟がどのルートをたどり、目標にたどり着くのか。リーグ戦は残り14試合しかない。