FC町田ゼルビアの2025 前編
昨季J1の「台風の目」となる戦いぶりだったFC町田ゼルビアの今季は、失点も多く連敗もあって順位を落とし、とてもおとなしいものだった。しかし、ここにきて5連勝と復活。
【目標はタイトルとリーグ5位以内】
昨季、J1初参戦ながら3位と大躍進を果たしたFC町田ゼルビア。2年目を迎えるにあたり、西村拓真や岡村大八、菊池流帆、前寛之など、油の乗った実力者を加えた大型補強を敢行し、厚みのある戦力を整えた。
チームを率いる黒田剛監督は「タイトル」 と「リーグ5位以内」 というふたつを目標に掲げ、シーズンをスタート。そんな町田の2年目の挑戦に注目したのは、町田サポーターだけではないだろう。開幕戦は昨季優勝争いを演じたサンフレッチェ広島と注目の一戦。前半に幸先よく先制しながら岡村、菊池のセンターバックふたりを負傷で失うアクシデントで1-2と逆転負けを喫した。それでも黒田監督は、前半の内容に大きな手応えをつかんでいた。
「前半はほぼパーフェクトに近いぐらい広島を圧倒し、ほぼ我々の狙いどおりの展開だった」
しかし、一転して0-1で敗れた第3節の東京ヴェルディ戦では、スコア以上に内容で圧倒される。不甲斐ない試合に、黒田監督は記者会見で次のように述べた。
「戦術とか、システムとか言う前に、もっと戦う姿勢を含め、町田本来の持ち味、または意図するものが発揮されなかった」
今季、新たに取り組むボール保持を意識するあまり、本来の縦に鋭い攻撃、強度の高い守備、泥臭くも全員で戦うスタイルが疎かになっていた。町田が目指すのは、スタイルの変更ではなく進化である。
昨季のロングボール一辺倒から、ボールを保持することも選択肢に入れ、その上で相手の出方を見て素早く攻めるのか。またはボールを握って引き込み、裏返すのか。あるいは敵陣に押し込み、左右の揺さぶりから崩すのか。これは、その選択肢を構築する過程での産みの苦しみと言えた。
ただ、開幕以降は黒星が先行したが、東京V戦を教訓にすると、第4節の名古屋グランパス戦から3連勝。第9節・川崎フロンターレ戦で引き分けると、5勝2分2敗で勝ち点17を積み上げ、暫定ながら町田は初めて首位に浮上した。
【6戦5敗...競り負ける試合が続く】
序盤につまずきながらも、町田はようやくリズムをつかみつつあると思われた。
しかし、歯車が狂い始めたのが第10節・浦和レッズ戦。0-2で敗れると、そこから黒田監督体制になって初の3連敗を喫する。第13節・セレッソ大阪戦(2-1)は5試合ぶりに白星を挙げたが、第14節・鹿島アントラーズ戦から再び連敗。第16節・清水エスパルス戦(2-2)では終了間際に失点し、白星が目前ですり抜けていった。
町田は第9節から8試合連続で失点(計12失点)を許した。ただ、必ずしも守備組織が崩壊していたわけではない。
昨季までであれば最少失点、最多クリーンシートを誇った粘り強い堅守、1度しか連敗を許さなかった勝負強さ、高い決定力によって、そんな試合を勝ち、あるいは引き分けにできた。それが今季は黒星に振れていた。
「プロとして、J1としての洗礼を受けている。負けることにまだ慣れていない。そこに合わせることに必死な自分もいる。プロでは"負けることもある"ということに慣れていかなきゃダメだと思っている」
青森山田高校で常勝チームを築き、町田の監督就任1年目でJ2優勝、昨季は3位。常に勝ち先行でやってきた黒田監督には、6試合で5敗もする経験がない。第15節の京都サンガF.C.戦に負けたあと、黒田監督は突きつけられた現実を受け止めようと必死だった。
この時期、第9節・川崎戦の当日に、週刊誌で黒田監督のパワハラ疑惑が報じられた。それから黒田監督は「どこで何を書かれるかわからない」として約1カ月間、練習での熱い指導を自重していた。
それがちょうど3連敗の時期と重なり、選手たちは「監督にはもっといつものように厳しく指導、指摘してもらわないと困る」と声が上がっていた。
第17節では首位の柏レイソルにホームで3-0と大勝を収め、第18節・ファジアーノ岡山戦では2点先行されながら引き分けに持ち込んだ。第19節・横浜F・マリノス戦では枠内シュート4本で3失点し、0-3の大敗。復調の兆しが見えぬまま、町田は10位で前期を折り返した。
【後半に足が止まっていた】
連敗のなかで、町田らしくない失点で顕著だったのが、湘南ベルマーレ戦(第12節)、京都戦(第15節)の後半アディショナルタイムでの失点である。
「(アディショナルタイムの失点は)昨年は年間を通じてゼロだった。その時間における集中力や、やるべきことを最後まで徹底することの甘さ、緩さがある」
最後までやるべきことを徹底し、隙を見せないことが町田の強みのはずが、今季は遂行しきれていなかった。GK谷晃生はこの時期のチームの精神状態をこう説明する。
「気持ちは伝染するので。気持ちがネガティブになるとプレーにも表れて、それがチームにも伝染していく。それはあからさまに流れのよくないチームにありがちな状態。そういった雰囲気が試合を通して漂ってしまっている部分もある」
その精神状態が、ミスを引き起こしてしまう悪循環を呼ぶ一因にもなっていた。また、京都の曺貴裁監督は、試合後の会見で対町田のプランの一部を明かした。
「後半、相手の足が止まった時に、一気に交代選手を使うプランもうまくいった」
川崎戦やC大阪戦も後半に失点しており、後半に足が止まると分析されるのも当然だった。その原因のひとつに、ケガ人の影響があったことは間違いない。
菊池が開幕戦で負傷し、前期をほぼ欠場。それにより4月、5月の過密日程のなかで、3バックはドレシェヴィッチ、岡村、昌子源の3人で乗りきるしかなかった。開幕から出ずっぱりの3人の疲労は深刻で、強度は落ち、ミスも散見された。
また、浦和戦で西村が負傷離脱。西村の復帰と入れ替わるように、こんどは相馬勇紀が鹿島戦で負傷した。得点源であるふたりが思うように揃わず、連敗が続いた6試合はたった3点しか取れなかった。
「去年よりもやれることは増え、チャンスも増えているけど、仕留める回数が減っている」
決定機をことごとく外す攻撃陣について、黒田監督はそう嘆いた。それでもやっていることの大枠は間違っていないと一貫してブレなかった。
「やることはみんなわかっているので、それをどのレベルで、どれだけ継続してやってくれるか。それに尽きる」
後期までの中断期間で、攻守に徹底してやりきれる本来の町田に整えることができるか。
【勝利の方程式が戻る】
後期スタート前の天皇杯2回戦で、京都産業大学に2-1の逆転勝利を収めると、第20節・湘南戦、第21節・鹿島戦と前期負けた相手に連勝。とくにホームで首位の鹿島に勝ったことは、チームに自信と勢いをもたらす結果となった。
続く新潟アルビレックス戦(4-0)、清水戦(3-0)に大勝し、天皇杯3回戦カターレ富山戦にも東アジアE-1サッカー選手権で代表組4人を欠きながら2-1で勝利。第24節東京V戦に1-0で競り勝つと、町田はリーグ5連勝、公式戦7連勝を達成した。
「町田の勝ち方、強さというものをやっと表現できるようになってきた。勝ち続けるためにはどういう戦いをしなきゃならないのか。それを体で覚え、対応できるようになってきたことが大きな収穫」
東京V戦の記者会見で、黒田監督は紙一重の試合をそう評価した。相手に多くの時間で押し込まれ、運にも助けられながら失点ゼロで耐え、ロングスローからワンチャンスを決めて勝ちきった。
まさに「失点をゼロで抑え、少ないチャンスをものにする」という黒田監督が就任当初からコンセプトとしてきた町田の勝ち方、勝利の方程式である。3試合連続のクリーンシート達成は、町田の復調を象徴していた。
一時は15ポイントあった首位との勝ち点差も6ポイントまで縮まり、順位も10位から6位まで上昇。
>>後編「堅守復活の中身とキーマンの存在」へつづく