東京ヴェルディ・アカデミーの実態
~プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第14回)
番外編:小笠原資暁ユース監督インタビュー(後編)

Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。その育成の秘密に迫る同連載、今回も前回に続いてユースチームを率いる小笠原資暁監督のインタビューをお送りする――。

東京V・アカデミー、小笠原資暁がユースの監督になるまで>>

【Jリーグ連載】東京ヴェルディユースの小笠原資暁監督が目指す...の画像はこちら >>
――以前、藤田譲瑠チマ選手がwebスポルティーバのインタビューのなかで、ヴェルディのジュニアユースに入ったきっかけとして、「U-12の都大会に出たとき、たまたま相手チームにいろんなクラブが注目している選手がいて、そのチームと試合をしているときに(ヴェルディの)スカウトの人が自分を気にかけてくれたみたい」という話をしてくれました。これは本当の話ですか。

小笠原資暁(以下、小笠原)そのとき、僕と他のスタッフ2、3人で見に行ったんですね、町田のグラウンドに。そこで目に留まった選手が2人いたのかな。そのうちのひとりが、ジョエル(藤田譲瑠チマ)でした。なので、別に誰かを見に行っていたわけでもなかったんですけど、ジョエルを目当てに行ったわけじゃない、という意味では正しいです。

――藤田選手本人も「本当の話かどうかわからないですけど」と断っていましたが、まったくの間違いではなかったわけですね。

小笠原 そうですね。その後、ここでの練習会に来てもらって、3、4チームぐらい作ってゲームをしてもらったりしたんですけど、選手はいろんなところから来ている寄せ集めなので、試合をしてもらっても、だいたいサッカーがバラバラになってしまう。でも、ジョエルがいたチームだけは、もう"チーム"だったんですよ。

――わかる気がします。

小笠原 あの甲高い声で、アイツがずっと周りにコーチングを飛ばしている。

「これは才能だね」って、彼を取ったのを覚えています。

 ただ僕は、ジョエルが日本代表(A代表)になるとは思わなかったです。他のコーチはつい最近、「いや、オレは思っていたよ」って言っていましたけど(笑)。僕は見る目がなかったなって思います。

――ヴェルディのアカデミーは、全カテゴリーが同じ場所で活動していますが、スタッフ同士でもよく話をするのですか。

小笠原 めちゃくちゃします。それがたぶんヴェルディのいいところですね。他のクラブから入ってきたコーチとかに聞くと、「こんなにサッカーの話をするんだ!」って驚かれます。どちらかと言うと、ヴェルディのスタッフって、外からはちょっと不真面目に見られがちなんですけど(苦笑)、他クラブから来た別のスタッフも、「サッカーに対して真面目だ」ってビックリしていましたから。

 僕はずっとここにいるからわからないですけど、みんなが本当にすごくフランクないい関係で、お互いリスペクトしているコーチばかりなので、恵まれているなと思います。

――小笠原さんは今年、指導者ライセンスのプロ級(旧S級)を取得しました。いずれはプロチームの監督をやってみたいという気持ちがあるのですか。

小笠原 そうですね。「やってみたい」はあります。でも、それが目標かって言われると、またちょっと違うかなっていう気はしますけど。

――その目標達成のために、今があるわけではない、と。

小笠原 そういう感じはまったくないです。ただ、それが監督だろうが、コーチだろうが、トップチームを見てみたいっていうのは、ものすごくあります。小学生の指導をして、中学生の指導をして、高校生の指導もして、でも、大人の指導はしたことがないですからね。なので、単純に興味があります。

 それに、自分がどこのカテゴリーに面白みを感じるかっていうのは、自分の経験とともに変わってくると思うので、トップチームでやってみて、こっちのほうが面白いなと思うのか、やっぱり高校生のほうが面白かったなと思うのか。それを感じてみたいというのもあります。

――トップチームを経験することで、見えてくるものがある、と。

小笠原 その後もトップのコーチをやり続けるのであれば、もちろんそこが入り口になるだろうし、もし高校生を教えるのが一番楽しかったなと思ったとしても、トップの最高の練習を経験したことで、たぶん次に選手に伝えられることがものすごく増えると思うんです。

(アカデミーの選手たちは)みんなトップの選手を目指してやっているけれど、自分は選手としても、コーチとしても、その景色を見たことがない。だから今後、自分がどうなるにしても、トップのコーチをやることはめちゃくちゃ重要な経験になるし、得しかないだろうなと思っています。

――今の仕事の第一義は、あくまでもプロ選手を育てることですか。

小笠原 そうなんだとは思います。ただ、大目標はそうですけど、日常的なことで言えば、常に最高の練習がしたい、最高の練習を選手にしてほしいっていうのが、毎日の目標です。それが、たぶんプロ選手を育てることにつながっていくんだと思っています。

(つづく)

編集部おすすめ