世界のTKが振り返る朝倉未来×クレベル・コイケ 前編

 7月27日、さいたまスーパーアリーナで行なわれた『超RIZIN.4』。メインイベントでは朝倉未来がクレベル・コイケに判定勝ち(2-1)し、4年前の一本負けの雪辱を果たした。

その試合で見えた朝倉の変化について、今大会で解説を務めた"世界のTK"髙阪剛氏に聞いた。

【格闘技】今の朝倉未来は「成熟したMMAファイター」 世界の...の画像はこちら >>

【クレベルの仕掛けを徹底的に防いだ朝倉】

――解説席からご覧になった朝倉vsクレベルの総評からお願いします。

「大きな印象として残ったのは、未来選手の変化ですね。前回の鈴木千裕選手との試合からも見えていた部分ですが、以前から積み上げてきたトレーニングの成果が、今回さらにしっかり見えたと思います」

――具体的にはどんな変化でしょうか?

「MMAという枠のなかで、自分が活きる戦い方、勝ちへの最短距離を意識した動きになっていました。打撃に頼るのではなく、組みの展開をうまく使いながら、試合のリズムを自分から生み出す。そのなかで生まれた"歪み"、つまり、相手のペースを乱すような、ズレや間によって攻撃のタイミングを掴むことを心がけていたと思います。組まれたとしても最悪の状況にならないことを意識しながら、自分が試合をコントロールできる状態を維持する。その意識が強かったと思います」

――試合中に印象的だった場面があれば教えてください。

「たとえば、1ラウンドの中盤ですね。未来選手の右フックに合わせて、クレベル選手がタックルに入りました。その時に未来選手は、とにかくバックを取らせなかった。オーバーフック(相手の腕を上から巻く形)を使ってしのぎながら、体の向きを変えて正対しました。あの対応は非常に見事でしたね」

――オーバーフックは何度か見られましたね。

「オーバーフックは、実は"諸刃の剣"なんですよ。上から腕を抱えているということは、裏を返せば、相手は下から脇を差している状態なんです。だからこそ、オーバーフックが効かなくなって状況が悪くなりそうだと感じたら、自らフックを解除する判断力が求められる。未来選手はそこも最初から想定して使っていたと思います」

――仮にオーバーフックが通用しなかったとしても、次の展開も用意していたということでしょうか?

「あの落ち着きぶりは、おそらくそうでしょうね。次の選択肢をしっかり用意して試合に臨んでいたはずです」

【朝倉は「荒々しさはなったかもしれませんが......」】

――朝倉選手がクレベル選手の仕掛けを徹底的に防いだ、という展開?

「そうですね。あの日のクレベル選手は、状態も悪くなかったと思います。仕掛けや狙いも明確でした。でも、未来選手はそれをさせなかった。クレベル選手にとって心地よいリズムだったり、『やれている』という感覚にさせない展開に持ち込んでいました。クレベル選手がノッてくる展開にさせなかった、という印象ですね」

――クレベル選手は、手詰まりのような状態?

「そうですね。最初の仕掛けは出せているんです。でも、そこで止められてその先にいけない。

未来選手がとにかく冷静で、そして基本に忠実だった。例えば、トップポジションを取ったときに肘を開かない、しっかりとベースを作る、といった基本を崩さず戦っていました。鉄槌を落としても、深追いせず基本のベースに戻していましたね」

――以前はスタンド勝負を主軸にしていましたが、最近は"混ぜる"闘い方に変化した?

「20代の頃にあった荒々しさは、ある意味なくなったかもしれませんが、今の未来選手には『成熟したMMAファイター』という言葉がぴったりだと思います。あの試合展開ができるのであれば、相手にとっては非常に攻略しづらくなるでしょう。何か仕掛けようとしても、その前に潰されてしまいますから、かなり厄介だと思いますね」

――以前から言われていた腰の重さや組みの強さが、クレベル選手を相手にしたことであらためて際立ったのではないでしょうか?

「ロープ際でクレベル選手がテイクダウンを狙っても、未来選手は身体を残せていました。本来、未来選手にとっては、止まっているよりも動いている時間のほうが心地よい闘い方なんだと思います。

 今までは組まれた後でも、体をずらしたり、入れ替えたりして距離を取って、打撃に持ち込む。そういうスタイルでしたよね。今回は、クレベル選手の仕掛けをまず止めることに重点を置いて、自分も止まる選択をした感じでした。腰を落として、頭を押して、クレベル選手に徹底的に何もさせなかった」

――前回の対戦とは違うと感じさせたシーンのひとつに、1ラウンド序盤のスイープがありました。クレベル選手にテイクダウンされながら、素早く上を取り返しましたね。

「はい。

あれを『フィジカルの強さだ』と言う人もいるかもしれませんが、タイミングなんです。あの場面では、むしろ力を抜くことが大事。相手を上に乗せるために、あえて一度力を抜いて呼び込む動作が必要です。

 逆に『返してやるぞ』という力みがあると、相手に伝わってしまって乗ってきてくれません。序盤からあの動きを冷静にできたのは、今の未来選手が自分の力をよく理解している証拠ですね。それに、やっぱり負けん気の強さも(笑)。『そんな簡単にいい状態を作らせないよ』と」

――仕掛けても止められるクレベル選手のほうが、心身の疲労具合は大きくなるものですか?

「大きかったと思います。試合が進むにつれて、『いや、ちょっと待てよ......』と。いつもは進めるはずの筋道を途中で分断されてしまうような感覚ですよね。それが続くと、体力的にももちろんですが、メンタルの消耗も大きいですよね」

(後編>>)

【プロフィール】

■髙阪剛(こうさか・つよし)

学生時代は柔道で実績を残し、リングスに入団。リングスでの活躍を機にアメリカに活動の拠点を移し、UFCに参戦を果たす。リングス活動休止後はDEEP、パンクラス、PRIDE、RIZINで世界の強豪たちと鎬を削ってきた。

格闘技界随一の理論派として知られ、現役時代から解説・テレビ出演など様々なメディアでも活躍。丁寧な指導と技術・知識量に定評があり、多くのファイターたちを指導してきた。またその活動の幅は格闘技の枠を超え、2006年から東京糸井重里事務所(現在は「株式会社ほぼ日」)にて体操・ストレッチの指導を行っている。2012年からはラグビー日本代表のスポットコーチに就任。現在は、RIZINで活躍する堀江圭功選手や上田幹雄選手らを指導している。

◆Twitter:@TK_NHB
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