世界のTKが振り返る朝倉未来×クレベル・コイケ 後編

 7月27日の『超RIZIN.4』のメインイベントで、クレベル・コイケに判定勝ち(2-1)した朝倉未来。そのバージョンアップについて解説した髙阪剛が、次戦や今後の相手についても言及した。

【格闘技】髙阪剛が見たいのは、やっぱり朝倉未来vs平本蓮 「...の画像はこちら >>

【MMAは「30歳を過ぎてから見えてくることが多い」】

――クレベル戦ではコーナーでの攻防もありましたが、朝倉選手はあえてコーナーを背負っているように見えました。その意図とは?

「一番大きいのは、バックを取られないためですね。背中をコーナーに預けているので、クレベル選手が後ろに回り込むスペースがなくなる。つまり、バックを取られるリスクを最小限にしていたんだと思います。コーナーを利用した、とも言えるでしょう」

――これは、リングを採用している『RIZIN』ならではの戦い方ですか?

「そうですね。もしこれがケージだったら、状況は違っていたと思います。ケージの種類にもよりますが、構造上、リングのコーナーのような鋭角ではないので、相手が背中側に回り込むこともできます。押し込んで足を引っかけながら、じわじわと背後を狙う感じ。未来選手は、リング、ケージ、使用される舞台の特性を理解していて、戦術に組み込むことも術として身につけていると言えるでしょうね」

――髙阪さんは以前から、「朝倉選手は本来、いろいろなことができる選手だ」とおっしゃっていました。平本蓮選手に敗れた後の"いったん引退"の期間を経て、それがファイトスタイルに表われてきたのでしょうか?

「ちょっと抽象的な言い方になってしまうかもしれませんが、MMAって30歳を過ぎてから見えてくることが本当に多いんですよ。僕自身もそうでした。物の見方や考え方、あるいは社会との関わり方、そういうものが試合にも表われるようになってくると思うんです」

――ファイトスタイルにその人の生き方が出る感じですか?

「そう。若い頃は、ごり押しで攻めるようなスタイルが多くても、年齢を重ねると『ここは一度引いた方がいいな』『今は止まって待つべきだ』とか、そういった判断が自然とできるようになる。

それって、技術が成熟したというだけじゃなくて、人柄や生き様が試合に出てくると思うんですよね。

 未来選手も平本選手に敗れて、一度立ち止まる時間があった。そこを経て、今のような成熟したスタイルに辿り着いたのかなと。僕自身も現役時代に連敗が続いた時期があって、その時に初めて見えたものありました。だから、理解できるところもありますね」

――MMAは習得すべき技術や知識が非常に多いですから、年齢を重ねてから成熟度が増すというのも理解できます。

「技術を身につけるだけでなく、技術の取捨選択ができるようになるまでには、それだけ時間がかかると思います。いろんな技術やスタイルを試してみるなかで、『これは自分に合わないな』とか、『こっちが自分のスタイルだな』と本当に理解する、腑に落ちることが大事です」

【髙阪氏が見てみたい朝倉未来の相手は、「やはり、平本選手」】

――判定は2-1のスプリットで、朝倉選手の勝利。「クレベル選手が勝っていたのでは?」という声も一部にはありました。髙阪さんはどうご覧になりましたか?

「判定は、勝ちに結びつく攻撃をどれだけ出せたか、ダメージを与えたかが重要視されます。KOや一本につながるような攻撃があるかどうか。例えば、三角絞めなら、しっかりセットできているかどうか。ギロチンなら、首に腕が回っているかなどです。

 クレベル選手はアタックの回数こそ多かったですが、一本につながる手前=ニアフィニッシュまでは持っていけませんでした。一方で未来選手は、トップポジションから鉄槌やヒジを的確に打ち込んでダメージを与えていました。これが勝利のカギでしたね」

――朝倉選手は勝利後のリング上で、一度敗れているヴガール・ケラモフ選手の名前を挙げました。敗れた相手にリベンジしていく道もあると思いますが、髙阪さんが個人的に見てみたい相手はいますか?

「やはり、平本選手ですね。MMA への順応力が非常に高いですし、今もなお成長を続けています。技術をどんどん吸収する力がありますし、打撃から組み、逆に組みからの打撃など、MMAにおける打撃の使い方をしっかり理解しています。KOする、という明確なビジョンに向かってどう肉付けしていくか、という考え方もできる選手。日本人選手のなかでもトップクラスの能力を持っていると思いますから」

――幼いころから培った打撃スキルの高さに加えて、今の自分に必要なMMAの技術を取捨選択して、習得する。その技術をしっかり試合で発揮する印象があります。

「いわば、最短距離で進化できる選手ですよね。おそらく、試合で見せていない技術もたくさんあると思いますし、『もっとこういう練習をしたほうがいいな』と気づける選手。ウィークポイントをどんどん潰して、そこから新たな強みを引き出すことができる印象です」

――ケガからの復帰戦でいきなり戦うのかはわかりませんが、やはりふたりの再戦は見たいということですね。

「バージョンアップしている未来選手と、進化を続ける平本選手。どちらのMMAが勝るのか、それを見てみたいというのが正直なところですね」

――王者ラジャブアリ・シェイドゥラエフを筆頭に、強豪の外国人勢、朝倉選手や復帰が待たれる平本選手。YA-MAN選手、秋元強真選手ら、フェザー級が活気づいてきました。

「この階級には、個性と実力を兼ね備えた選手が揃っています。誰が抜けだして駆け上がるのか、本当に楽しみです!」

 8月5日、朝倉は自身のYouTubeチャンネルで「9月のタイトルマッチ、シェイドゥラエフが勝てば指名させていただきますよ」と語り、シェイドゥラエフ戦に意欲を示した。

 一方、平本選手はそれを受け、Xで次のようにポストしている。

「これにて俺達の再戦はもう無くなりました

お前はベルトを目指すし

俺は世界を目指す

これにてこの争いも終了」(原文ママ)

 その言葉どおりになるのか、それとも......。

【プロフィール】

■髙阪剛(こうさか・つよし)

学生時代は柔道で実績を残し、リングスに入団。リングスでの活躍を機にアメリカに活動の拠点を移し、UFCに参戦を果たす。リングス活動休止後はDEEP、パンクラス、PRIDE、RIZINで世界の強豪たちと鎬を削ってきた。格闘技界随一の理論派として知られ、現役時代から解説・テレビ出演など様々なメディアでも活躍。丁寧な指導と技術・知識量に定評があり、多くのファイターたちを指導してきた。

またその活動の幅は格闘技の枠を超え、2006年から東京糸井重里事務所(現在は「株式会社ほぼ日」)にて体操・ストレッチの指導を行っている。2012年からはラグビー日本代表のスポットコーチに就任。現在は、RIZINで活躍する堀江圭功選手や上田幹雄選手らを指導している。

◆Twitter:@TK_NHB
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