すこぶるいいメンバーが揃った。プレミアリーグとチャンピオンズリーグの二冠も可能なほど、粒揃いなタレントを擁している。

 2025-26シーズンのアーセナルは準備万端だ。

【プレミアリーグ】アーセナル伝説の「無敗チーム」を上回る完成...の画像はこちら >>
 GKの一番手はスペイン人のダビド・ラヤ。加入後3年目を迎え、周囲との連係やキックの精度はミケル・アルテタ監督から高い信頼を得ている。ただ、ボーンマスからやってきたケパ・アリサバラガも、一時はチェルシーでレギュラーを務めた実力者だ。甲乙はつけがたく、ハイレベルな定位置争いが期待できる。

 4バックは、右からユリエン・ティンバー、ウィリアン・サリバ、ガブリエウ・マガリャンイス、マイルズ・ルイス=スケリーが基本となる。しかしベンチを見ると、ベン・ホワイト、クリスティアン・モスケラ、ヤクブ・キヴィオル、リッカルド・カラフィオーリが居並び、実に豪華な顔ぶれだ。

 懸案だったアンカーには、レアル・ソシエダからマルティン・スビメンディを獲得した。この補強によって、マルティン・ウーデゴールとデクラン・ライスがいる中盤は世界屈指の陣容となった。さらにミケル・メリーノ、イーサン・ヌワネリ、ブレントフォードから移籍したクリスティアン・ノアゴールなど、バックアッパーと考えられる選手たちのポテンシャルも非常に高い。

 そして前線は、右にブカヨ・サカ、中央はアーセナル移籍を熱望していたヴィクトル・ギェケレシュ(前スポルティングCP)が入り、左はおそらくエベレチ・エゼとなるだろう。彼が所属するクリスタル・パレスとの交渉は順調で、遅かれ早かれこの移籍は実現する公算が大きい。

 前線はサブも豪華だ。ノニ・マドゥエケ、ガブリエウ・ジェズス、カイ・ハヴァーツ(中盤でも対応可能)、ガブリエウ・マルティネッリ、レアンドロ・トロサール(ローン移籍の噂も)などが、虎視眈々とチャンスをうかがっている。プレシーズンマッチで注目された「15歳の超新星」 マックス・ダウマンも、そのひとりに加わるのだろうか。

【今夏の市場に510億円を投入】

 今季のアーセナルは十二分に熟されたメンバーに、右サイドバックとセンターバックを高度にこなすモスケラ、世界屈指のアンカーといわれるスビメンディ、待望久しい9番タイプのギェケレシュを加えた。メディアやOBが「補強すべきポジション」と訴えていたピースはすべて埋まったといって差し支えない。

 これらの大仕事をやってのけたのが、ノッティンガム・フォレストに去ったエドゥに代わってスポーツディレクターに就任し、今オフの移籍市場を仕切ったアンドレア・ベルタだ。

 スビメンディを手に入れるまで長いプロセスを要し、ギェケレシュの獲得にもスポルティングの揺さぶりに苦戦したが、その他の交渉は比較的スムーズにまとめている。マンチェスター・ユナイテッドはブレントフォードからブライアン・ムベウモを獲得するまで45日もかかった。なんてこったい。

 また、ベルタの交渉を後押ししたスタン・クロエンケ(オーナー)の積極的な姿勢にも触れなければならない。加入間近とされるエゼの契約解除金を含め、今夏の市場に3億ユーロ(約510億円)を投入。各ポジションにふたりの実力者を揃える充実したスカッドは、オーナーのアシストによって誕生した。

 もちろん、昨季王者のリバプールも手強い。

今夏の補強費は4億ユーロ(約680億円)を超える勢いだ。しかし、この補強は性急すぎやしないだろうか。

 MFフロリアン・ヴィルツ(前レバークーゼン)、DFミロシュ・ケルケズ(前ボーンマス)、DFジェレミー・フリンポン(前レバークーゼン)、FWウーゴ・エキティケ(前フランクフルト)、加入濃厚とされるFWアレクサンデル・イサク(ニューカッスル)の実力は認めるものの、一朝一夕にして周囲との連係は整わない。主戦格の半数が入れ替わるのだから、攻守のリズムが整うまでに時間が必要だ。

 一方、チェルシーとマンチェスター・シティは、クラブワールドカップの疲労が数カ月後に訪れるだろう。マンチェスター・Uは若手が台頭しているものの時期尚早だ。よって、アーセナルこそが優勝候補の最右翼である。

【無敗優勝を成し遂げた選手たち】

 1990年代の後半から10年間ほど、アーセナルは常に優勝候補だった。マンチェスター・Uの後塵を拝するシーズンが多かったとはいえ、当時のプレミアリーグは彼ら二強が中心だった。そして2003-04シーズンのアーセナルは、驚異的なチームだった。

「インビンシブルズ(無敵チーム)」と評され、リーグ戦の成績は26勝12分の無敗! 2位チェルシーに11ポイント、宿敵マンチェスター・Uには15ポイント差の圧勝だった。快挙、偉業、奇跡......無敗優勝を的確に表現する言葉はこの世に存在しない。

 GKは名手イェンス・レーマン、DFには頑健な肉体で相手FWを駆逐したソル・キャンベル、さらに史上最高クラスの左サイドバックであるアシュリー・コール。

 中盤は黙々とハードワークをこなすジウベルト・シウバ、強靭な運動量と加速力を武器とするフレドリック・ユングベリ、狡猾と華麗な技巧を併せ持つロベール・ピレス、圧倒的な存在感を放つパトリック・ヴィエラ。みんなギラギラしていた。

 そして2トップは、魔法のようなトラップを操るデニス・ベルカンプと、大エースのティエリ・アンリである。さらにセスク・ファブレガスは卓越したパスセンスで、ヌワンコ・カヌは柔軟な足技で、シルヴァン・ヴィルトールは泥臭い攻守で、アーセナルの無敗優勝に貢献した。

 今シーズンのメンバーは、あの2003-04シーズンに勝るとも劣らない、いやいや、上回っている。選手層はプレミアリーグで最も充実しており、完成度もトップクラスだ。

 ローテーションをあまり好まないアルテタ監督が考え方を改め、主軸を担うサカとライス、ウーデゴール、サリバ、ガブリエウ・マガリャンイスのスケジュールを徹底的に管理すれば、昨シーズンのように終盤で息切れはしない。

 無敗優勝から21年、そしてFAカップ制覇から5年が経過した。サポーターはタイトルを渇望している。攻守ともに優れたタレントを揃えた今シーズンに、これまでにない手応えをつかんでいるはずだ。

【5年前は解任の危機にも直面】

 開幕からマンチェスター・U、リーズ、リバプール、ノッティンガム・フォレスト、マンチェスター・C、ニューカッスルと、シーズン序盤は厄介な相手が続く。それでも今シーズンのアーセナルなら、ポイントを大幅にはロスしないだろう。

 むしろ現在の実力を試す、またとないチャンスだ。強豪、曲者を次々に破り、一気に首位の座を突っ走ったとしても不思議ではない。

 アルテタ体制の発足以降、紆余曲折はあった。8位に沈んだ2020-21シーズンは、解任の危機にも直面した。しかし、直近3シーンは終盤まで優勝争いに加わっている。実力の証といっていい。

「今シーズンの俺たちは、新たな高みに到達できる」

  ガブリエウ・マガリャンイスの発言にも、確かな自信が感じられる。機は熟した──。

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