【高校バスケ】名門・桜花学園、亡き名将に捧ぐインターハイ制覇...の画像はこちら >>

後編:新生・桜花学園が挑んだ己との戦い

今夏のインターハイで4年ぶりに覇権を奪還した桜花学園(愛知)。カリスマ的名将・井上眞一の他界がチームに与えた心理的影響、今年度の主力として見込んでいた2選手が春先に大ケガで長期離脱を余儀なくされるなか、経験の浅いふたりのコーチ、そして選手たちはそれでも顔を上げて進み続けてきた。

井上氏に捧げた今回の優勝は同時に、新生・桜花学園の未来へのスタートでもある。

前編〉〉〉「名門・桜花学園はカリスマ的名将の他界をどう乗り越えたのか」

【白コーチが今の選手たちから学んだこと】

 インターハイに向かうにあたり、掲げたテーマは「桜花一丸」。

 近年、全国大会で勝てない月日が続けていただけでなく、井上・前コーチが逝去したこと、そこから立ち上がろうとしていた矢先に主力選手が戦線離脱したことでも彼女たちは下を向きかけた。それを選手だけでなく、コーチやスタッフも含めた桜花学園バスケットボール部が、文字どおりの一丸となって、この難局を乗り越えていこう−−そう考えたからこそ、彼女たちは再び顔を上げることができたのである。

 インターハイでは選手たちの笑顔も増えたと白慶花コーチは認める。みんなで喜んで、みんなで笑って、苦しい時間帯も、みんなで声を出して、乗り越えていく。全国から集まった才能豊かな選手たちが笑顔で、楽しみながらプレーすることほど、相手に脅威を与えるものはない。それは白コーチ自身が彼女たちをコーチングするなかで学んだことでもある。

「私自身はどちらかといえば、超がつくほどの真面目なほうで、現役時代は『笑う=はしゃいでいる』という考え方を持っていました。でも高校バスケに戻ってきて、そうじゃないなと。自分の価値観も変えなければいけない。自分のなかで正しいと思っていた、ひたすらに真面目にやることがたったひとつの正解ではないし、むしろ、そうした固定概念が選手たちの未来を潰してしまう可能性も出てくるなと気づいたんです。

 実際に選手たちとも笑いながらいろんな話をしたときに、『みんなで一丸になって戦う』って喜怒哀楽をともにすることでもあるのかなと感じているところです」

 苦難の先にあった2025年のインターハイを彼女たちは「桜花一丸」となって、しかもそれを笑顔で乗り越えてみせた。

これは桜花学園バスケット部が開いた新たな歴史の1ページであり、選手たちにとっては未来につながる大きな成長の証でもある。

【井上氏が初の全国制覇を果たした地で】

【高校バスケ】名門・桜花学園、亡き名将に捧ぐインターハイ制覇「最後は井上先生が空から見守ってくれた」
亡き名将に捧げたインハイ制覇は桜花学園の新たな歴史の始まりでもある photo by Kato Yoshio

 どんな状況であっても「全国制覇」、「日本一」という目標をぶらさずに戦うことが桜花学園だ、と白コーチは言う。自身もその覚悟を持って、茨の道ともいうべき名将の後を引き継いだ白コーチが、インターハイを通した選手たちの成長について、こう言及している。

「ここ数年の桜花学園は、競った試合や、勝負どころで相手に流れを持っていかれる展開でずっと苦しめられていました。それを打破できたきっかけは、6月の東海ブロック大会の決勝戦だったと思います。そこで最後の最後まで粘って、粘ってディフェンスで頑張れば、うちも勝てるんだと、選手たちも自信になったようです(岐阜女子戦で2点ビハインドからブザービーターの3ポイントシュートで逆転勝ち)。

 インターハイを通しても、3回戦の大阪薫英女学院(大阪)戦や準決勝の精華女子(福岡)戦、決勝の日本航空北海道(北海道)戦でも苦しい展開になったときに大崩れすることなく、むしろ苦しいときこそディフェンスだという認識をチーム全員で持てたところがありました。しかも、それを選手たち自身が声かけをして、みんなで『そうだね、そうだね』という意思疎通ができたところが大きな勝因じゃないかと思います」

 選手たちの成長だけではない。前編の冒頭に記したように、白コーチとしてはどうしても今年度のインターハイで優勝したい、強い思いがあった。その思いこそが、選手たちの成長と、桜花学園の4年ぶり26回目のインターハイ制覇をさらに後押しした。前記のとおり、桜花学園が全国大会で初優勝を果たしたのは1986年のインターハイだが、実はそれが今年度と同じ岡山県開催だったのである。

「井上先生も生前、今年の 岡山インターハイをすごく楽しみにしていて、ずっと『俺が初優勝をしたのは岡山なんだ』と、私たちコーチの隣で話されていたんです。

そして『また勝とうな』とずっと言っていたので、先生と一緒に達成することはできなかったんですけど、この岡山インターハイは私のなかで絶対に、何としても譲れないという思いもありました。先生とお別れをしてから初めてのインターハイで桜花学園の存在感を見せつけたいという思いもありましたが、最後は先生が空からチームを見守ってくれて、苦しい時間帯も力を貸してくれたんじゃないかと思います」

 続く苦難の先に、名将へ捧げる通算72回目の全国制覇――。

 しかし、だからこそ、次の挑戦が始まる。高校バスケットの真の日本一を決める大会とも呼ばれる12月のウインターカップは、追いかけられる立場となって、全国の強豪たちと対峙する。井上・前コーチが率いていたときの桜花学園は、ことごとくそれを跳ね返してきたが、新生・桜花学園はどうか。2025年のインターハイ優勝は彼女たちにとって、新たな"はじまり"にすぎない。

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