【大谷翔平】メジャー通算1000安打の「4分の1以上は本塁打...の画像はこちら >>

前編:大谷翔平「メジャー通算1000安打」と「二刀流」の未来像

【パワーヒッターを証明する1000安打の内訳】

 8月6日(日本時間7日)、ドジャースタジアムで行なわれたセントルイス・カージナルス戦は、試合前からスタジアム周辺が普段以上の熱気に包まれていた。この日は、昨年のワールドシリーズ優勝を記念した大谷翔平レプリカリングの配布日だったからだ。水曜日の午後1時開始というデーゲームにもかかわらず、試合開始の3時間半前から渋滞が発生し、スタンドには4万6000人のファンが詰めかけた。

 そんななか、主役の大谷は期待に違わぬパフォーマンスを披露した。「1番・投手兼DH」で出場し、3回には39号2ランを放ってメジャー通算1000安打を達成。日本人選手としては、イチロー、松井秀喜に続く史上3人目の快挙となった。

 ピッチングも、圧巻の内容だった。投手復帰後8度目の登板で、最長となる4回を投げて1失点、8奪三振。100マイル(約160キロ)を超える剛速球を6球記録し、最速は3回表に投じた101.1マイル(約161.7キロ)だった。

 言うまでもなく、登板日にホームランを放てるのは、今のMLBで大谷ただひとり。しかも、投げても打っても100マイルを超えるのは大谷以外に存在しない。

 3回裏、大谷はカージナルスの先発左腕マシュー・リベラトレの3球目のシンカーをフルスイング。打球速度109.5マイル(約175.2キロ)、飛距離440フィート(約134.1メートル)、打球角度33度の特大弾は、左翼スタンドへ着弾した。

 ちなみに、100マイルの投球と100マイル以上の打球を同一試合で記録したのはこれが自身4度目であり、肘の手術後では初めての達成となった。

 試合後、チームメートのミゲル・ロハスは驚きを隠さなかった。

「信じられないよ。前の夜は遅くまで試合に出場してベースを駆け回っていたのに、今日は投げて、打って、ホームランまで打った。彼がやってのけることは本当にすごい」と称賛。

 前日5日のナイトゲーム、勝利のハイタッチに現れた大谷のユニフォームは、ダイヤモンドを走り回った証しとして汚れ、左膝と左尻が破れていた。そして、そのわずか15時間後に行なわれたデーゲームで、大谷は疲れをまったく感じさせず、自身の優勝リングのレプリカ配布という特別な日に、見事な活躍を見せたのである。

 大谷が達成したメジャー通算1000安打の内訳を見れば、パワーヒッターとしての特性が際立っている。通算3089安打を記録したイチローは、696試合目で1000安打に到達。1253安打の松井秀喜は937試合目で達成した。一方の大谷は988試合目とペースでは及ばないが、長打の割合が極めて高い。通算本塁打は264本で、安打全体の26.4%、つまり約4本に1本がホームラン。さらに二塁打182本、三塁打43本を加えると、長打数は489本と、全体のほぼ半分に達する。

 参考までに、イチローは最初の1000安打のうち804本が単打で、二塁打121本、三塁打35本、本塁打40本。

松井は単打643本、二塁打202本、三塁打11本、本塁打144本という内訳だった。

【大谷翔平】メジャー通算1000安打の「4分の1以上は本塁打、約半分は長打」の背景にある打撃の心構えとは?
ドジャースタジアムでファンに配布された大谷翔平のレプリカリング photo by Getty Images

【「我慢強く打席を送れるかどうか」の真意】

 試合後、大谷は「1000安打のうち、長打が約半分、本塁打が4分の1というのは、打者として理想的な配分か?」と問われ、意外な答えを返した。

「一番大事なのは、どれだけ四球を選べるかだと思います。もちろん技術も大切ですが、なかなかゾーン内に来ない時に、しっかり我慢できることが、打席全体として重要だと感じています」と語った。

 大谷翔平の打撃成績は二刀流復帰以降、やや下降傾向にあった。打率は.297から.276に、OPS(出塁率+長打率)も1.034から.987に下がっている。これについてドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、「二刀流復帰が2年ぶりであることの影響ではないか」と語っていた。

 では、本人はどう受け止めているのか。この問いについて、大谷は長く、ていねいに説明した。

「基本的には1番打者として打席に立っているので。シーズン前半はまだ数字が整ってこない時期でもあり、相手チームも比較的アグレッシブに攻めてくるシチュエーションが多かったと思います。自分としては、そんななかでも積極的に振っていくことでゲームを作っていく場面が多かったのかなと感じています。

 それが、(二刀流)復帰のタイミングあたりから数字も整ってきて、相手チームもポストシーズンを狙えるかどうかがはっきりしてくるなかで、状況によってはゾーンに投げてこないケースも増えてくる。そうした状況で、自分が我慢できるかどうかが一番大事だと思います。

 投げているかどうかに関係なく、我慢強く打席を送れるかどうか、そしてチームのために後ろの打者にしっかりとつなぐ意識を持ち、四球を選んで出塁すること。そういったことが、全体的に打席を構築するなかでは大切だと考えています」

 二刀流復帰後、周囲は「打撃成績が落ちた」と指摘する。しかし本人は、それを二刀流の影響とは捉えておらず、「相手投手の攻め方が変わったこと」が主な理由だと見ている。そして、そんな状況でも、1番打者としてボールを見極め、四球を選んで出塁することの重要性を強く訴えたのだった。

 ペナントレースは、いよいよ終盤戦に突入する。同じナ・リーグ西地区では、サンディエゴ・パドレスがトレードデッドラインで積極的な補強を行ない、直近10試合で8勝2敗と好調。ドジャースに2ゲーム差まで迫っている。ナ・リーグ全体ではミルウォーキー・ブルワーズが70勝44敗でトップ、ア・リーグではトロント・ブルージェイズが68勝48敗と好成績を収めている。

 一方のドジャースは、直近10試合で5勝5敗。通算成績は66勝49敗と悪くはないものの、戦力的に「最強」と評されながら結果が伸び悩んでいる。

こうしたなか、大谷はただバットを振るだけでなく、1番打者としてボールを見極め、四球での出塁を通じてチームに貢献したいという強い意志を持っているのだろう。だからこその回答になったのだと思われる。

 実際、大谷は現在までに73四球を記録しており、自己最多だった2021年の96四球を上回るペース。シーズン終了時には102四球に到達する見込みである。

つづく

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