後編:大谷翔平「メジャー通算1000安打」と「二刀流」の未来像
前編〉〉〉大谷翔平「4分の1以上は本塁打、約半分は長打」の背景にある打撃の心構えとは?
【投手復帰後8度目の登板は「言葉では言い表せない凄さ」】
8月7日(日本時間7日)のセントルイス・カージナルス戦でメジャー通算1000安打を39号本塁打で飾った大谷翔平は、一方で投手としても大きな前進を見せた。復帰後最多となる54球を投げ、最長となる4イニングを1失点に抑え、前回登板で右臀部(でんぶ)のけいれんにより緊急降板した不安を払拭した。
この日も100マイル(160キロ)を超える剛速球を6球記録。
試合後、大谷は「全体的にコマンド(制球)もよかったし、真っすぐもよかったけど、それ以上に、特にスライダーとカーブを試しながらいけたのがよかった」と振り返った。
この試合が「二刀流として今季一番よかった内容だったか」と問われると、「4イニングをしっかり投げきれたことが一番よかったことじゃないかと思います。次回以降、もっとイニングを伸ばしていけたらいい。そういう意味で、今日はピッチング面で大きな前進があった日かなと思います」と語った。
大谷はロサンゼルス・エンゼルス時代からピッチコム(Pitch Com)を積極的に活用している。これは、投手と捕手の間でサインを音声で伝える通信機器システムだ。試合中の球種選択について、「自分の感覚をどれだけ重視しているのか、それともゲームプランに従っているのか」との質問には、こう答えている。
「全体的に自分からウィル(・スミス捕手)にサインを出していました。もちろんウィルから来ることもありましたが、意見交換をしながらしっかり意思疎通ができていたと思います。ウィルからの提案も、自分が投げたいと思っていた球種と一致することが多く、ふたりの考えが合っていたのだと思います」と連携の良さを強調した。
唯一の反省点は、3回2死三塁の場面での失点だった。「バントヒットで取られましたけど、とっさの判断でもう少し際どいところに投げるべきだったと思います」と悔しさをにじませた。失点につながったのは、左打者の外角高めに投じた100.1マイル(160.1キロ)の直球。コース的に三塁前に転がすには打者にとって甘く、対応されやすい球だった。ただ、その1点が引き金となったのか、次の打者はスライダーで空振り三振に仕留め、4回は三者連続三振と圧巻の投球を披露してマウンドを降りた。
投手復帰後8度目の登板となったこの日は計4イニングで14人の打者と対戦し、与四球ゼロ、被安打2、奪三振8。投球数54球のうち37球がストライクと、内容は非常に充実していた。デーブ・ロバーツ監督は、「速球の制球が完璧。昨夜あれだけ走って、今日のデーゲームで100マイル(約160キロ)を出した。
大谷は今、ポストシーズンを見据えた残り3カ月で、二刀流として大暴れすべく着々とプレーレベルを引き上げている。次の目標は、投手として5イニングを投げること。つまり、100%の状態に近づいてきた。
【ドジャースが慎重に見極める「投手・大谷」の「今」と「未来」】
しかし、チームの立場はやや異なるように見える。唯一無二の「二刀流」プレーヤーである大谷をどう活用していくか。世界一を目指すチームとして、その価値を最大限に引き出す一方で、極めて慎重な姿勢も見せている。
ロバーツ監督は「今やっていることは、いわば"棚ぼた"のようなもの。二刀流のパフォーマンスはチームにとって加算的な価値がある」と語る。だが、もし大谷がケガをすれば、その影響は投手陣よりもむしろ打線にとって甚大である。そのためチームは、大谷の「今」と「将来」の両面を慎重に見極めながら起用を続けている。
周知のとおり、過去110年間のMLBの歴史のなかで、大谷翔平が挑戦している「本格的な二刀流」を実現した選手は、ベーブ・ルースただひとりだ。
ドジャースは、現時点では大谷に二刀流を続けさせる方針を変えていない。しかし、その一方で「果たして本当にこのままで大丈夫なのか」という懸念を持って見ているように感じる。
実際、大谷は今季ここまで8試合に先発登板し、防御率2.37、19イニングで25奪三振と安定した成績を残している一方で、その8試合の間の打率は.219と低調であり、特に直近6登板時の打撃成績は24打数3安打と苦戦が続いている。全体としても、二刀流復帰後は三振率が上昇し、打率は20ポイント以上も低下しているのが現実だ。
それでも大谷は、そうした周囲の懸念に対し、「投げているかどうかに関係なく、我慢強く打席を送れるかどうか」と冷静な見方を示している。さらに「基本的には、投げていても投げていなくても、打席とピッチングは別々に考えています。マウンドでやるべきことと、打席でやるべきことは、しっかりすみ分けて切り替えながら取り組みたいと思っています」と語り、両立への自信を強調している。
もちろん本人も、今後さらなる工夫と調整が必要であることは理解している。
「登板間のトレーニングスケジュールは見直したいと考えています。