大会史上最遅の19時29分に始まった広陵(広島)と旭川志峯(北北海道)の一戦は、ナイトゲームとして行なわれた。試合前に「夜は甲子園特有の浜風が強くなると聞くので、それに注意したい。
【逆転勝利で歴代5位タイの甲子園通算80勝】
先手を奪ったのは旭川志峯だった。4回表、広陵のエース・堀田昂佑から5番・石田健心がタイムリー。その裏、広陵の3番・高橋海翔のスリーベースとエラーで同点に。6回裏、7回裏に広陵がいずれも犠牲フライで加点し、3対1で競り勝った。
広陵の先発マウンドに上がった堀田は9回を投げ切って、3安打、10奪三振の好投。広陵は甲子園通算80勝目(歴代5位タイ)を挙げた。
1月に寮内で暴力事案が発生したことが明らかになり、さまざまに批判にさらされているなかでの勝利のあと、中井監督は涙を流した。
「本当に選手たちがよく頑張ってくれました。前半は、なかなか自分たちの野球ができなかったですね。選手たちにはリラックスして笑顔でやろうと言ったんですけど、監督が一番硬かった。『笑顔でやろうや』と言った監督の表情が厳しかったからこういう試合になったんかもしれません。選手ありきの高校野球なんで、選手がよく頑張ってくれたと思います」
緊迫したムードの試合、マウンドに立ち続けたのがU−18日本代表候補でもある堀田だった。
「堀田はちょっと力んでボールが高めに浮いていましたが、後半はよかったですね。相手がストレート狙いだったので、変化球をうまく混ぜるようにと指示を出しました。スピードを気にすることなく、テンポよく、低めにボールを集めていきました」
この日、甲子園通算41勝を挙げた中井監督は堀田についてこう語った。
「監督からすると、何を考えているかわからないところがありますね。ちょっとぼんやりしてるけど、すごい信念を持っている子です。先輩の高尾響(現・トヨタ自動車)の姿を見ながら力をつけて、最後の夏の背番号1をつけて甲子園に戻ってきました」
接戦をモノにして勝ち上がってきたのは、堀田がいたからだ。
「堀田はおおらかだけど、度胸がある。舞台が大きくなればなるほど力を発揮します。広島大会の決勝、9回ツーアウト、0対1で負けている場面で堀田が同点のツーベースヒットを打ったんですけど、あとから映像を見たら打席に入る時にスキップしていましたからね。物おじしない選手で、自分の世界を持っていますね」
キャッチャーの吉村舜もこう言う。
「僅差で勝ち抜けるのは堀田の気持ちが強いから。長所は相手の懐(インコース)に、思い切って投げられるところです。
【出た結果はしっかりと受け止める】
1月の暴力事案への批判は日に日に大きくなっている。今後も選手たちが動揺せずに戦えるどうかはわからない。
中井監督は言う。
「こうして夢の舞台の甲子園に立てて、選手たちが全力でプレーできたことにも感謝しかありませんし、選手たちはよく頑張ってくれました。今日、監督は何もしていません。広島大会から、接戦を勝ち抜いてきました。今日も先に点を取られたあとにすぐに取り返して、流れを渡しませんでした。エラーもありましたけど、積極的なミスだったので『切り替えていけ』と伝えました。この試合は後半勝負になると思っていましたが、粘り強く戦ってくれました」
次戦は津田学園(三重)との対戦が決まっている。
「甲子園のような大一番になればどうしても力が入るし、『打たなくちゃ』とプレッシャーがかかる。
次の試合も勝とう勝とうとはせずに、自分たちの持っているものを全部出してほしい。出た結果はしっかりと受け止めて戦っていきます。エラーやフォアボールは野球につきもの。それを責めることはありません」
厳しい風が吹き荒れているなかで、彼らはどんなプレーを見せるのか。それを最後まで見届けたい。