【バレーボール新時代を感じさせる一戦】
8月8日、品川。壇上では司会者が、ひとりずつ選手の名前を呼んでいた。前列のカメラマンが一斉にレンズを向けた。
ひとり目に呼ばれた髙橋藍はユニフォーム姿で、束の間、はにかむような表情で入ってきた。しかし壇上に陣取ると、凛と背筋を伸ばして立つ。小さな顔と188㎝の長身は眩しいフラッシュを浴び、会場に華やかな空気を醸しだした。ホテルの会場では、「Qoo10 presents ワールドチャレンジシリーズ2005」の開催が発表されていた。
「世界一を目指す」
昨年、そう宣言して開幕した大同生命SVリーグ。その男子初代王者になったサントリーサンバーズ大阪が、世界最高峰イタリア・セリエAに在籍するペルージャと対戦することになった。石川祐希を擁するペルージャは、欧州チャンピオンズリーグで優勝した現在の最強チームだ。
「記憶のなかでは、(国内と世界の王者のクラブが対決する試合は)初めてだと思います」
髙橋は少し考えてから、そう答えた。まさに、バレーボール新時代を感じさせる一戦になるだろう。
「バレーボールを、夢のあるスポーツにしていきたいと思っています。今までにいなかった、オンリーワンの選手になれるように。バレーボールを知らない人や、子どもたちにも魅力を伝えていきたい」
そう話す高橋にとって、ペルージャ戦もひとつのプロセスだろう。
「(今回の一戦には)自信はあるんですけど......」
髙橋は続ける。
「自分はイタリアでプレーし、戦ったこともあるからわかるんですが、ペルージャはとても強いし、欧州のチャンピオンで隙がないチームですね。自分からすると相手の高さ、パワー、タフさを知っているし、それと戦う日本のチームもディフェンスはトップレベルですが、今は"勝つイメージ"は持っていません。それだけに日本のSVリーグのチームが、欧州王者とどこまで戦えるのか。対戦を楽しみにしています」
【さまざまな経験を積み、たくましさを身につけてリーグ優勝】
髙橋らしい表現だ。彼は自他ともに認める強烈な負けず嫌いだが、無謀な勝負をするタイプではない。勝つべき段階を踏んでこそ、と考える常勝の精神の持ち主だ。
だからこそ、彼は"勝負の天才"の気配を放つ。それは代表でも、SVリーグでも、変わらない。代表では着実に成績を上げてきたが、一足飛びではなく、着実な進化と成長を遂げてきた。一方、SVリーグでも"全勝を目指す"という力みや危うさはなく、勝負どころを見極めて準備を整え、天皇杯、SVリーグを制した。
2021年から24年までイタリアでプレーしていた時も、それは同じだった。
「最後は経験の差だったかな、と思いますね。(優勝した)ペルージャは(ポーランド代表ウィルフレッド・)レオン選手も、(イタリア代表シモーネ・)ジャネッリ選手も"決勝で勝つ"経験をしていて、そこの差はありました。僕たちは、そのイメージを持てていなかった。でも決勝まで来て、自分は勝つことをイメージできるようになったし、"次は勝つ"という段階を踏んでいけるはずで」
髙橋の土台には、適応力や不屈さがある。だからこそ、劣勢にも強く、土俵際で粘れるのだ。
「勝負は常に準備をしていないと。ストレートでパンって勝つのが楽ですけど、そうとは限らない。劣勢になった時に、自分たちのバレーを取り戻せるか、自分たちのプレーができるか。それが勝負では一番大事。いろんなイメージを準備し、落ち着いてプレーすることですね」
あらゆる戦いを重ねて、彼は強くなってきている。
はたして髙橋は、ペルージャ戦のコートで"勝つイメージ"を持てるのか。石川との対戦は、"勝負の天才"をさらに覚醒させるだろうか。
【「サントリーが世界で通用する、と知ってもらえる機会に」】
「石川選手はIQが高くて、勝つために何をすべきかを知っているところが強みですね。引き出しの多さもあるし、たとえば(厳しい場面で)相手にボールを返すだけになっても、嫌なところに返す、という賢いプレーが多くて。そこに対し、自分たちがどれだけ対応できるか。勝負どころでは、やはり石川選手が鍵になってくると思う」
ふたりとも、勝利を積み重ねることで日本バレーを前進させてきた。その対決が面白くないはずはない。
試合は有明アリーナで、10月7、8日に行われる。コート上で選手を間近に感じられるシートは高額になりそうだが、男子バレーの看板選手同士の対戦を楽しみにしているファンは多いはずだ。
「特別な機会だと思っています。
髙橋はそう宣誓した。
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