【短期集中連載】
若かりし角田裕毅の素顔01(全5回)後編
「2017年~2018年:渡欧前夜」
◆角田裕毅の素顔01前編>>「中嶋悟がホンダに推薦したらダントツに速かった」
角田裕毅はどのようにチャンスをつかみ、世界への扉を開けたのか。
インタビュー01前編では、ホンダのF1マネージングディレクターを務めていた山本雅史に、2016年のSRS-F(鈴鹿レーシングスクール・フォーミュラ)時代から2017年のFIA F4時代にかけてのエピソードを話してもらった。
そして2018年、角田は人生を大きく変えるターニングポイントを迎えることになる。
※ ※ ※ ※ ※
── 角田選手が初めてホンダ本社を訪れた時、世間知らずでとんでもないラフな格好で行ったと、本人も恥ずかしい過去のエピソードとして話していました(苦笑)。「今でもよく覚えています。オレンジ色のマーブル調の短パンとTシャツ、パジャマみたいな格好で......(苦笑)。僕が2階の会議室に行ったら、すでに担当者に『部長に会うのにこの格好はないだろう』って怒られてずっと立っていたから。
サーキットで会ってはいたけど、その時にあらためて『初めまして』と挨拶をしました。そして、ハンガリーでレッドブルジュニアチームのテストがあるから、そこにホンダ代表として参加しろということを伝えました。テストは3日間あるからどう過ごすべきか、1時間くらいレクチャーしたんです」
── そこではどんな話をされたのでしょうか?
「『君の人生の大きな分岐点に立っているんだよ』と。ここで努力してうまくやれば、いい道に進める。F1に行ける道を手繰り寄せるか、ホンダで国内に留まるのか、そのくらい大きな分岐点だよっていうことを伝えました。
ハンガリーでの3日間の過ごし方もしっかりとレクチャーして、『ホテルの部屋以外はプライベートの時間はないと思え、部屋のドアを開けた瞬間からすべて見られていると思え』と。ピットガレージでスマホをいじったりゲームをしたりなんていうことはあり得ないよ、スマホを触るのも禁止だと言いました。
また、『言葉の壁もあると思うけど、すべてのことに興味を持って探究しろ。それがすべて自分の財産になる。3日間で人生が変わるんだ、というつもりでやれ』と伝えました」
【カルロス・サインツより速かった】
── ハンガリーのテストに臨む前に、何か準備はしたのでしょうか?
「角田はまだF3マシンに乗ったことがなかったから、テストをしなきゃということになりました。たまたま岡山でフォーミュラカーが走れるスポーツ走行の枠があったので、急遽、戸田レーシングに頼み込んで2日間走らせてもらい、当時戸田レーシングで監督をしていた加藤寛規さんにバックアップしてもらいました。
ハンガロリンクのテスト中も、夜中に角田から加藤さんのところに『ここはどうやって走ったらいいですか?』って聞いてきて、加藤さんもやりとりしてくれていた話はあとで聞いて知りました。でも、そのくらい一生懸命やっていたんだと思います。そのテストで最終日にトップタイムを出したんです」
── ヘルムート・マルコさん(レッドブル・モータースポーツアドバイザー)からの反応は?
「テストが終わったあと、マルコさんから『角田はF3、どのくらい乗っていたんだ?』と連絡があったので、『F4しか乗ったことがないので、あまりに可哀想だから2日間だけ岡山でF3のテストをさせただけです』って答えたら、『ウソだろ!?』と言われました(笑)。
あの時、ジュニアチームで一番速かったのはダン・ティクトゥム(イギリス)で、カルロス・サインツ(当時ルノー)も遊びにきて乗ったんだけど、彼らより速かった。そこで最初の通過点をパスしたねって言ったのを覚えています」
── そのテストの直前、同じハンガロリンクで行なわれたハンガリーGPを訪れていた角田選手と話した時には、まだF1はそれほど強く意識してはいないものの、国内よりも海外に出たほうがいいのだろうか、と考えている様子でした。
「あの頃は、まだ僕にも『F1、F1』とはあまり言ってなかったですね。そういう意味では、本当にそれ(テスト)が彼にとって大きな分岐点になったし、ホンダの育成プログラムもあそこから加速したんです。
当時はまだ、ホンダとレッドブルの育成プログラムの本格的な提携はスタートしていなかったし、手探りでやり方も定まっていなかったんです。
その結果、角田はレッドブルジュニアドライバーに選出されて、契約上はレッドブルのドライバーになりました。今後は参戦費用だけでなく、イギリスでの生活費やトレーニング費用などを両者で支えていく、という形になったんです」
(02につづく)
【profile】
山本雅史(やまもと・まさし)
1964年3月15日生まれ、奈良県出身。高校卒業後の1982年、本田技術研究所に入社。2016年、マネージメントの手腕を買われてホンダ本社のモータースポーツ部長に就任。2019年にF1担当マネージングディレクターとなり、2020年のアルファタウリ優勝や2021年のレッドブル・ドライバーズタイトル獲得に貢献。2022年1月にホンダを退職し、現在はMASAコンサルティング・コミュニケーションズ代表を務める。



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