「4番・ピッチャー〇〇くん」というアナウンスを耳にする機会は、来年以降ぐっと減りそうだ。現在でも"絶滅危惧種"といえる存在だが、2026年春の公式戦からはDH(指名打者)制の導入が決定している。

これにより、投手が打席に立つ代わりに、打力のある強打者がラインナップを埋めるケースが増えるだろう(DHを使用しない選択も可能)。

【夏の甲子園2025】青藍泰斗を35年ぶりの聖地へと導いた「...の画像はこちら >>

【エースで4番は野球の醍醐味】

 青藍泰斗(栃木)のエース・永井竣也は、栃木大会で打率.333を記録した好打者だ。投手としても決勝の作新学院戦で完投勝利を挙げ、チームを1990年夏以来となる2度目の夏の甲子園へと導いた(旧校名は葛生)。

 佐賀北(佐賀)との1回戦、マウンドに上がったのは4番を務める永井だった。

 しかし、2回裏に1点、3回裏に2点を失い、計6つの四死球を与えて降板。永井はマウンドを鈴木俊世に託し、センターへと回った。永井は言う。

「自分のピッチングができなくて、自分のせいで負けてしまったので後悔しています。緊張のせいで、いつもとは違うピッチングフォームになってしまいました。初回は0点で抑えられて少しだけ楽になったんですけど、2回も緊張してしまって......」

 試合は4対4のままで進んだ。その後、永井は6回から再びマウンドに上がり、5奪三振の好投を見せた。

「センターを守っている時は、『絶対に抑えてほしい』『もう一回マウンドで投げたい』と思っていました。(再登板してから)いいピッチングができたのは、ベンチにいるピッチャー陣がピッチングフォームの修正をかけてくれたから」

 試合は延長にもつれこんだ。

10回表、ツーアウト一、二塁で打席に立った永井は三振に打ちとられた。そして10回裏、ワンアウト満塁からスクイズを決められサヨナラ負け。

「あの場面でスクイズも頭にはあったんですけど、初球がボールだったのでストライクを取ることしか考えていなくて......最初から最後まで楽しくプレーできましたが、本当に悔しいです」

 永井に「エースで4番」を任せた青山尚緯監督はこう言う。

「エースで4番は野球の醍醐味というか、野球をしている人みんなが目指しているところなのかなと思います。そこにロマンがある。ピッチャーであっても走塁に参加しますし、攻撃では要になります。攻撃、守りの難しさを感じられるところが、エースで4番のよさだと思います。永井はピッチャーとしてもバッターとしても、チームのなかで一番いい選手。本当に頑張った子ですし、エースで4番を任せるだけの能力を備えています」

【1年秋からキャプテンに任命】

 永井の奮闘もあったが、青藍泰斗の甲子園初勝利はならなかった。それでも、青地に白のストライプという斬新なユニフォームに身を包んだ青藍泰斗の選手たちは、守備でも攻撃でも溌溂としたプレーを披露。その中心にいたのが、1年生の秋からキャプテンを務める佐川秀真だった。

 上下関係が色濃く残る高校野球で、下級生がキャプテンをつとめるのは異例なことだ。その理由について、青山監督は言う。

「1年秋から佐川にキャプテンを任せたのは、人間性がいいから。高校に入る前から、いずれはキャプテンをしてほしいと考えていました。タイミング的には早かったんですけど、1年生の秋にキャプテンに任命しました。

 それまでもレギュラーで出ていて、実力もありました。プレーでチームを引っ張るタイプだったんですけど、3年生になってから嫌なことでも率先して言えるようになりました。本当に、気配りも目配りもすばらしい人間になったと思います」

 永井も佐川についてこう言う。

「上級生がいる時から、プレーでみんなを引っ張っていました。相手が誰でも厳しい指摘ができる、いいキャプテンです。先輩も佐川のことを認めていました」

 佐川には相当な苦労があったと思われるが、本人はそれを否定する。

「先輩がいても、チームのために強く言わなきゃいけない時はありました。もともと、年齢に関係なく、厳しいことを言える性格です。先輩から、何かを言われることはありませんでした。

自分が一番練習している、チームのためにやっているという自信がありました。だから、みんなに強く言えました」

【本音を言い合えることが大事】

 2年間キャプテンを務め、佐川が得たものは何だったのか。

「ここまでつらいことを乗り越えてきたので、甲子園という夢の舞台で試合ができたことは本当に幸せです。でも、やっぱり1勝はしたかった。ウチのチームの選手はみんな個性が強く、ぶつかることも多かった。そこをうまくまとめられれば、本当に強いチームになるんじゃないか。2年間キャプテンをやって、そう感じました。後輩たちには、表面だけの付き合いではなく、ぶつかり合いながらも話し合って、いいチームをつくってほしいです」

 今大会最年少である27歳の青山監督は、佐川の言葉について次のように語る。

「チームづくりにおいて、選手同士が本音を言い合えるというのは非常に大事なこと。大切なのは、うわべだけじゃなくて、芯から向き合うこと。佐川に苦労をかけたけど、そういうことができるチームじゃないと、勝ち上がれないと思います。

 高校野球にはいいところもたくさんありますし、変えなければいけないこともあります。

新しい風を吹かせたい。そういう意味でも、1年生の秋から佐川にキャプテンを任せてよかった」

 新チームが始まるが、在任期間2年のキャプテンが抜けた穴をどうやって埋めるのか。青山監督が言う。

「2年生の人数が少ないんですけど、2本ヒットを打った服部隼士は大舞台でも臆することなくプレーしてくれました。1年生の富田創史もそう。彼らが中心になって頑張ってくれると思います」

 次なる目標は甲子園での1勝。青藍泰斗の挑戦が始まった。

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