ヨーロッパ各国でプレーする日本人選手は100人を超える勢い。そのなかで、今季もっともジャンプアップが期待されるのは誰か。

長年、欧州サッカーを取材してきたジャーナリストが推すのは――。注目のアタッカー編。

三笘薫より"ウイングバックらしい"サイドアタッカー
平河悠(ブリストル・シティ)

杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

 ヨーロッパの4大リーグあるいは5大リーグという言い方があるが、そのなかにイングランドの2部リーグ=チャンピオンシップは含まれていない。平河悠がウイングバック(WB)を張るブリストル・シティは、昨季そこで6位に食い込み、昇格プレーオフに駒を進めた。

 惜しくもプレミアリーグ昇格は成らなかったが、このあたりのレベルは、セリエAやブンデスリーガに置き換えれば、その中位から上位をうかがうレベルに達する。5大リーグと言うならば、チャンピオンシップは実力的に見て優にその一角に含まれるだろう。4大リーグでも十分いけそうである。

 選手としての"格"は、代表選手を選ぶ際に決め手となる大きな基準のひとつだ。しかし、現代表で序列の高いWB候補に、平河を格で確実に上回れる選手は三笘薫(ブライトン)しかいない。中村敬斗(スタッド・ランス)、堂安律(フランクフルト)、伊東純也(ゲンク)、さらには森保ジャパンではシャドーでプレーする久保建英(レアル・ソシエダ=昨季スペインリーグ11位)でさえ、うかうかできない立場にある。

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 代表デビューは6月のオーストラリア戦だった。招集メンバー27人のうち新顔が7人。
前戦からフィールドプレーヤーの6割を入れ替えて臨んだ事実上の消化試合である。そのタイミングで平河はようやく代表キャップ1を数えることになった。

 厳しいテストである。メンバーを大幅に変えればコンビネーションに難が出る。インドネシア戦は新人が好プレーを発揮しにくい環境にあった。門戸を広げたようで実は合格者が生まれにくい設定のなかで平河は健闘した。攻撃的な選手の中では最も光るプレーを見せた。

 ゲアハルト・ストゥバー監督率いるブリストル・シティも、森保ジャパンと同様、3-4-2-1を敷く。WBというポジションが存在する布陣だ。平河はそこで右も左もこなす。オーストラリア戦でも右WBで先発し、後半の途中から左に回っている。その多機能性はFC町田ゼルビア時代、さらにはパリ五輪を戦った大岩剛監督率いるU-23日本代表時代から認知されていることだが、代表チームであらためてそれを見せられると、次もありそうな期待感に包まれる。

 日本代表のWB候補、ウイング候補に範囲を広げても、左右を満足にこなす選手はいない。三笘、中村は右ができず、堂安は左ができない。ポジションに適性がない。伊東は左でもプレーできるが、パフォーマンスは右に比べると落ちる。

 具体的には、ドリブルでボールを操作する時に、両足を均等に使うことができるところが、他のWBにはない魅力だ。つまり、相手にとって進行方向がわかりづらい。身長は171cmだ。巧緻性に優れた小兵であることもプラスに作用している。大型選手にとっては捕まえにくい、嫌らしさがある。

 神出鬼没、変幻自在。誇張して言えば牛若丸タイプだ。日本人らしい選手と言い換えることもできる。

対峙する大型選手の脇をすり抜ける様は、痛快で絵になる。

 三笘、中村、堂安との比較で言えば、平河のほうがWBらしいのだ。

 森保監督はサイドバック系ではなくウイング系の選手をWBとして使うケースが目立つ。平河も例外ではないが、縦への直進的な推進力は現代表のスタメン候補より上だ。WBらしく見えるのは、単独で物事をやりきる遂行能力があるからだ。

 一方、インドネシア戦では、周囲との絡みながらジワジワ攻め上がるウイングプレーも披露。単独突破を再三試みるも、単調になりがちだった左WBの俵積田晃太とは対照的だった。幅の広さで勝ったかに見えた。身体の大きな外国人選手が嫌がるタイプ。Jリーグより、チャンピオンシップのほうが、水が合っているような感じがする。

 なにより左右両方をこなす多機能性があるので、ワールドカップのような短期集中トーナメントにはタイプ的にうってつけだ。今季の動向に目を凝らしたい。

3度目のプレミアリーグ挑戦にサポーターの支持は絶大
坂元達裕(コベントリー)

山中忍●文 text by Yamanaka Shinobu

「毎試合、自分のサッカー人生を懸けて試合をするというふうに意識しています。ここから3試合、自分にとって一生(記憶に)残るような試合になると思うので、とにかく勝ちに貢献したい」―― コベントリーの坂元達裕は言った。

 移籍2年目だったチームが、残るひとつのプレミアリーグ昇格枠を争うプレーオフ(3~6位)進出を決めた、昨季のチャンピオシップ(イングランド2部)最終節後のこと。穏やかな口調ながらも、表情を引き締めて語ってくれた。

 しかし、結果的には2試合で終わってしまう。コベントリーは、ホーム&アウェー制の準決勝でサンダーランドに惜敗(合計2-3)。坂元の心中には、「無念」という言葉では生ぬるい、悔しさがあったに違いない。

 コベントリーでの1年目は、腰椎の横突起骨折という大ケガに見舞われ、大事な終盤戦に長期離脱を余儀なくされた。チームは、「昇格争いに大打撃」と報じられたとおりの順位(9位)に終わっていた。

 続く昨季は、開幕節で約半年ぶりの公式戦復帰を遂げたが、次第に3バック採用が増えた前体制下で、適所とは言い難いトップ下的な位置に回る機会が増え始めた。そこに訪れた転機が、昨年11月のフランク・ランパード監督の就任。4-2-3-1のシステムを好む新監督に、坂元は「サイドがやりたい」と口頭でもアピールしている。

そのうえで定着した右ウイングのレギュラーとして、昇格争いを戦っていたのだ。

 再び失意を乗り越えて臨む今季は、自身3度目のプレミア行き挑戦となる。「3度目の正直」に当たることわざは英語の世界にもあるが、「今度こそ」との期待を右サイドの武器に寄せているのは、日本人ライターだけではない。「サカモトがウイングでボールを持てば得点の予感がする」と歌われる、地元サポーターによるチャントを聞けば明らかだ。

 その「予感」が的中した好例のひとつが、前述の昨季最終節。坂元は鋭い切り返しから、コースもスピードも完璧な左足クロスで先制点をアシストしている。合わせたチームメイトはジャック・ルドニ。ランパード体制下でのトップ下起用が奏功しているMFは、昨季のチーム年間最優秀選手に選ばれている。坂元との呼吸のよさは、ピンポイントのクロスと、ドンピシャのヘディングから見て取れた。

 涙を飲んだプレーオフでも、個人としては2試合とも先発フル出場で、チーム随一の出来を見せていた。第1レグでは、敵の左サイドバックに勝負を挑んでは勝って切り込み、相手ゴールへの脅威となり続けた。第2レグでは、開始20秒でファウルを受ける注視対象に。

それでも、時間の経過とともに影響力を発揮し、延長を含む120分間、決勝への望みをつなぎ続けた。

 当人が「日本人選手のよさ」と表現する、「サボらないディフェンス」に関しても同じことが言える。「僕を含めてウイングの選手が守備のスイッチを入れるところが多くて、それはかなり求められています」と話していた坂元は、守備面での献身でも指揮官の信頼を得ている。

 だからといって、昨季の自身に納得などしてはいない。最終節後には、「うまくいかなかった試合もあって、個人的な結果には全然満足してない」とも言っていた。

 活躍次第では来夏のワールドカップメンバー入りにつながる可能性がある今季。決意も新たにプレミア昇格に挑む右ウインガーにとって、"一生記憶に残るようなシーズン"となることを願う。

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