木村沙織 インタビュー
バレーボール女子世界選手権展望 前編(全2回)

木村沙織は今の女子バレー日本代表をどう見る? 主将・石川真佑...の画像はこちら >>
 2024年パリ五輪後、女子バレーボール日本代表はエースだった古賀紗理那が引退し、長くチームを率いた真鍋政義監督が退任。指揮官には新たにトルコ人のフェルハト・アクバシュ監督を迎えることになった。
控え目に言っても、変革期を迎えている。

 新チームは雰囲気の明るさを感じさせる。それは変化の兆しと言えるだろう。鶏(にわとり)が先か卵が先か、明るくなったことでネーションズリーグではプレーに活気がみなぎっていた。注目度は確実に増しつつある。

 そしてアクバシュ監督の下、急に人材がそろった感も出ている。キャプテンに指名された石川真佑やセッターの関菜々巳は、海外挑戦で成熟したプレーを見せる。大卒ルーキーの佐藤淑乃は、サーブを含めて力強さで対抗できるスパイカーだ。

 ミドルブロッカーはネーションズリーグで島村春世や宮部藍梨が活躍。山田二千華や荒木彩花も違うタイプとして同等の実力を誇る。リベロは、小島満菜美、福留慧美、岩澤実育などが高いレベルでしのぎを削る。

 そして元日本代表の大友愛の娘である18歳の秋本美空(みく)、21歳で人気急上昇のオールラウンダーの北窓絢音など若手の輝きもまぶしいほどだ。

「応援したくなるチームですね!」。木村沙織もそう言って期待を込めた。木村は4大会連続五輪出場を誇る。現役時代は問答無用のスーパースターだった。彼女のプレーからは「バレーが好き」というメッセージが伝わってきた。

 8月22日~9月7日に開催されるバレーボール女子世界選手権へ向け、木村は今の日本代表をどう見ているのだろうか?

【日本代表は応援したくなるチーム】

ーーパリ五輪でグループリーグ最後のケニア戦を取材しました。勝利したものの、勝ち上がるも敗退するも他のチーム次第の状況で、事実上は敗退。何とも言えないあと味だったのを覚えています。日本は決して悪くないチームでしたが、切迫感や悲壮感を感じさせた......。それが新しいチームになり、ネーションズリーグ日本ラウンドではとくに明るさが全開でした。

木村沙織(以下同) たしかに雰囲気が明るくなりましたね。ネーションズリーグを見ていても新しい選手がたくさん出てきて、バランスもよくなっているなと思います。石川(真佑)選手、関(菜々巳)選手と、東京五輪、パリ五輪を経験している選手がいるのは心強い。

 勝ち負け以上に、実際に五輪を戦った経験は大事だなって思っています。東京五輪が初めての五輪という選手が多かった印象で、パリ五輪も悔しい経験だったかもしれないけど、その悔しさも含めて、石川選手、関選手と今の自信のあるバレーにつながってきているのかなって。

 悔しさを共有した選手がいる一方、佐藤(淑乃)選手や美空ちゃん(秋本美空)のように新しい選手たちも入ってきました。さらにアクバシュ監督が新たに指揮を取るようになって、新しい風を入れてくれていますね。変化があったからか、すごく明るくて、バランスがいいチームだなと期待しています。

ーーパリ五輪からメンバーがすごく変わったわけではないですが、印象が大きく違うのは不思議です。

 私も引退してからテレビや会場で女子バレーボールを応援してきましたが、みんながすごく好きでバレーをやっているはずなのに、「何だろう、この感じは?」っていう雰囲気は感じていました。初めて見るファンの方にも、なんとなくそういうのは伝わってしまって、もったいないと思っていました。

 少しの意識の変化だけで、同じメンバーでも応援したくなるチームにもっていけるはず。だからこそ、選手たちが東京、パリと経験を積んでいるし、今は楽しみです。「好きなバレーをやっている」というのが伝わってくるし、こちらも応援したくなるし、いいチームワークが取れていますよね。

【石川真佑とアクバシュ監督が生み出す明るいムード】

ーー明るさの象徴と言えるのが、新たにキャプテンに指名された石川選手です。

パリ五輪ではどこか硬さが見え、力を発揮しきれなかった気がします。それが今のチームではリーダーの顔を見せているし、彼女自身からもバレーが楽しいという気持ちが伝わってきます。

 石川選手の場合は、イタリアでのプレー経験(※昨季、ノヴァーラでCEVチャレンジカップ優勝)も自信になっていると思います。そして五輪を2度経験して、自分がどういう選手にならないといけないのかがわかっているはず。新代表チームのキャプテンを託されたこともひとつの転機になっているのでしょうね。

 彼女は下北沢成徳高時代にもキャプテンをやっているし、上手に言葉で伝えるようなタイプじゃないかもしれないけどプレーで引っ張っていると思います。何より、明るい笑顔がみんなを引き寄せている気がします。アクバシュ監督のキャラクターともマッチしていて、女子バレーを応援したいというムードをつくり出しています。

ーーアクバシュ監督は、木村さんがプレーしていたトルコのワクフバンク・テュルクテレコム時代にはコーチだったそうですが、就任早々チームに変化を生み出しています。

 アクバシュ監督になって、彼に選ばれた選手たちが集合して、すぐにネーションズリーグがスタートすることになりましたが、すごく雰囲気はいいですね! 監督はいろんな選手を試しているし、選手のほうも「どんな監督なんだろう」ってなると思うのですが、練習や試合を重ねるなかで、お互いがよい刺激を受けながら、相乗効果を生み出している気がします。

 アクバシュ監督は私もトルコで一緒でしたが、真面目な方で日本語もすごく勉強しているし、選手のフォローも上手。選手のプレーがうまくいかなくて外す時も、ひと言を添えてくれるそうですから、選手として「これで終わりじゃない」って思えるんですよ。

「今日はダメだった」で終わらない、終わらせない姿勢が監督としてすばらしいなと私は思います。

後編につづく

【profile】
木村沙織 きむら・さおり/1986年生まれ、東京都出身。2003年、アジア選手権で代表デビュー。2005年、東レアローズに入団。2012年ロンドン五輪で銅メダル獲得。2012年に世界最高峰リーグであるトルコの「ワクフバンク」に移籍し、ヨーロッパチャンピンズリーグ優勝を経験。2016年リオデジャネイロ五輪でキャプテンとしてチームを牽引した。2017年に引退。現在は、子育てとともにメディア出演などマルチに活躍する。夫は元バレーボール選手の日高裕次郎氏。

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